投稿日:2025年8月19日

保証対象範囲を仕入先が狭く解釈する補償トラブル問題

はじめに:製造業の現場に根強く残る「保証トラブル」

製造業に携わる方々は、一度は「保証」のトラブルを経験されたことがあるのではないでしょうか。

特に近年は取引のグローバル化や複雑化に伴い、仕入先と発注者、つまりバイヤーとサプライヤーの間で「どこまでを保証対象とするか」という範囲の認識に齟齬が生じるケースが増えています。

本記事では、20年以上にわたり調達購買・品質管理・生産管理の現場で培った実体験と知見をもとに、「なぜ仕入先は保証対象範囲を狭く解釈しがちなのか」「そうしたトラブルが昭和体質の現場でなぜ根強く生まれるのか」「解決に向けた実践方策とは何か」について、現場レベルの視点も交えつつ解説します。

将来、バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場からバイヤーの思考を理解したい方にも役立つ内容です。

保証トラブルの構図:なぜ仕入先は解釈を狭くするのか

仕入先が保証範囲を狭くしたがる理由

仕入先は自社のリスクを最小化したいという企業心理があります。

アフターサービスや不具合対応にかかるコスト、万が一の損害賠償責任など、保証範囲が広がれば広がるほど負担が増すため、どうしても「ここは保証対象外です」と明確化したがります。

特に昭和時代から存続している老舗メーカーほど、現場に「あいまいなリスクは抱えない」という文化が根付いていることが多いです。

そのため、新しい取引先や新規部品に対して「過剰なリスクを引き受けるな」「保証は必要最小限に」との判断が働きやすくなります。

契約書の文言と実務運用のギャップ

もう一つの要因は、契約書と現場実務の解釈のギャップです。

契約書では「納入後1年間の正常使用下で生じた故障は保証対象」と規定されていても、現場のメンバーは「消耗品やユーザーの使い方によるトラブルは含まない」「想定外の温湿度や異物混入は対象外」と勝手に解釈し、悪気なく範囲を狭めて答えてしまいます。

昭和の現場では「口頭確認」や「慣習」に頼る風土が根強く残っています。
譲ってしまうと責任のふくらみがコントロールできないと身構えてしまうのです。

特にトラブルになりやすい商品・事案

例えば、電子部品や機械部品などは納入後の初期不良と経年劣化の切り分けが難しい場合があります。
また組込製品や協力工場が絡む多重構造案件、海外調達した部品などは、保証履行の責任主体や国ごとの規格違いも絡んでトラブルが多発します。

最も厄介なのは、「想定外」の用途や負荷で使われた場合や、設計段階でのバイヤー企業側の説明不足が原因とみなされる事案です。

なぜ「保証解釈のギャップトラブル」が昭和から続くのか?

アナログ業界のまま変われない要因

製造業は、特に日本の中堅・老舗メーカーほど「暗黙知」や「現場流」の文化が色濃く残っています。

書類や仕様書は形式的にあっても、実際の現場判断や保証対応は「担当者同士の口約束」「長年の慣習」「社長間の信頼関係」に任されているケースが少なくありません。

契約のデジタル化やグローバル標準化が叫ばれていても、現場の末端にまできちんと落とし込まれておらず、「うちはそれはやりません」「そこまで責任は持てません」と突っぱねる体質が昭和から令和に至るまで残り続けているのです。

責任回避型の組織文化

また、「補償」をめぐる社内プロセスが厳格すぎる(=現場担当者に裁量や柔軟性がない)ことも、問題をこじらせる一因です。

保証請求があると、都度上層部へのエスカレーションや法務部門のチェックが求められ、即座に柔軟な対応ができません。

その結果、「現場では動けない」と突っぱね、バイヤー側が我慢するか別の仕入先を探すといった非生産的な事態が生まれます。

昭和体質から抜け出すための壁

日本の多くのメーカーは「お客様第一」と言いつつも、保証トラブルでは「まず自社の守り」を優先しがちです。

なぜなら一度妥協すれば将来の大損失や過去の類似案件との整合性が問われるリスクがつきまとうからです。

この思考法自体が「昭和型」の話し合いと妥協による解決力の低下、デジタル文書・英語契約書への苦手意識などとつながっています。

バイヤーとサプライヤー、それぞれの「本音」と葛藤

バイヤーの立場:なぜ範囲を厳格にしたいのか

バイヤー側としては、自社のお客様やエンドユーザーに万全の品質と安定供給を約束する必要があります。

「まさかこんな初期不良品が…」「想定外のトラブル時にも対応してもらえない…」という事態は最も避けたいところです。

そのため仕入先には「広い保証範囲」「迅速な補償対応」「万全なアフターサポート」の3点セットを求めるのが当然の思考です。

しかし保証範囲を厳格に契約書で明記しないまま現場であいまいな運用になっていると、「話が違う」「現場担当者は理不尽なクレームに板挟み」になり、互いの信頼が崩れてしまいます。

サプライヤーの立場:なぜ躊躇するのか

一方、サプライヤーから見ると、「保証範囲を広く認めれば赤字になる」「ベテラン担当者ほど面倒な責任は引き受けたくない」という気持ちが強く働きます。

中堅・中小メーカーほど「大手バイヤーの無理難題に飲み込まれるとつぶれてしまう」と過敏に反応し、社内決裁が難航することが日常茶飯事です。

また、保証範囲拡大=現場・修理担当の負荷増大を意味し、ヒトもカネも足りていないサプライヤーはどうしても消極的な姿勢になりがちです。

悪循環からの脱却へのヒント

ここで大切なのは、「敵対」か「防衛」ではなく、「共創」の視点です。

バイヤーもサプライヤーも自社のリスク・事情を正直に開示し、互いに妥協点やリスク分担のルールを協議することが第一歩です。

単なる押し付けや立場の強弱ではなく、長期パートナー視点で本質的な課題解決にトライする必要があります。

実践的解決アプローチ:現場で使えるヒント集

契約書の「狭すぎる/広すぎる」定義を見直す

調達購買経験者として強く推奨したいのは、「保証対象範囲」「除外規定」「責任分担(修理・代替品・物流費など)」を契約書レベルで具体的に明記することです。

さらに実務レベルの「想定FAQ」「想定外ケース」のチェックリストを添付し、現場担当者同士でも理解できるような運用フローに落とし込むことが重要です。

また定期的に「実際にどんな保証トラブルが発生したのか」を収集し、「契約書の解釈が狭すぎた・広すぎた」実例を蓄積・ブラッシュアップする運用も欠かせません。

現場への権限移譲とトラブル情報の”見える化”

「全てを上層部や法務が判断する」という流れを改め、現場担当者に一定範囲まで補償対応の裁量を持たせる仕組みも有効です。

そのうえで「どこまで現場合意でOKか」「ここから先は必ず上司判断」と明確な運用ルールを設け、想定外のトラブルも隠さず情報共有する仕組み—いわゆる「トラブルの見える化」が生産現場の信頼を高めます。

現場のヒヤリ・ハットやクレームを月次でレビューし、「補償範囲のグレーゾーン」の洗い出しも忘れずに。

バイヤーとサプライヤーの共同改善活動

究極的には「保証トラブルゼロ」を目指すより、「早期に本質原因を両社で特定し、再発防止策を共同で作る」ことが大切です。

例えば、部品メーカーとエンドユーザーが現場で合同分析会を開いたり、「保証対応の手順書」や「FAQ」を共同で作ったりする活動も昨今増えています。

こうした活動が長期パートナー関係の強化や新規案件の受注増にもつながります。

まとめ:昭和の殻を破る「保証トラブル」の新たな地平線を拓く

「保証トラブル」は一朝一夕で消えない、製造現場に根深く潜む課題です。

昭和から令和にかけて、取引構造や品質要求、グローバル化の進展により、その解釈のギャップやトラブルは複雑化しています。

重要なのは、契約書・現場運用・企業文化それぞれの視点から「なぜ誤解が起きるのか」を深く考え、現場・トップ・法務が一体となった対応ルール・情報共有・共同改善の体制を築くことです。

本記事が、製造業で働く皆様、バイヤー・サプライヤー双方の立場を理解し、今後の「強いパートナー関係」の構築に役立つことを願っています。

現状維持から一歩踏み出し、より強固で透明性の高い契約・保証対応を実現し、日本のものづくりの持続的な発展へと歩を進めていきましょう。

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