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過剰包装による物流費増加を改善しないサプライヤーの問題

目次
はじめに ― 過剰包装と物流費の現状
製造業の現場では、製品の品質や安全を守るために包装が重要な役割を果たしています。
しかし、近年「過剰包装」がもたらす物流費の増加が大きな問題となっています。
バイヤー視点で厳しくチェックされることが増えてきたにも関わらず、サプライヤー側では昭和時代から続くアナログな慣習のまま、抜本的な改善策を講じられていないケースが多く見受けられます。
この記事では、過剰包装がなぜ物流費を増加させるのか、なぜサプライヤーはその改善に踏み切れないのか。
そして、現場目線でどのようにアプローチし、どのようにバイヤーとの信頼関係を築きながら最適化を図るべきかについて深掘りします。
製造現場で汗を流す皆様や、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの考えを知りたい方々に実践的な知恵をお届けします。
過剰包装の実態:守りたい気持ちと惰性
なぜ過剰包装が続いてしまうのか
過剰包装、その背景にはサプライヤー独特の心理があります。
「絶対にクレームをもらいたくない」「多少コストがかかっても事故や破損がないことが最優先」という、長年の保守的な文化が根強く残っています。
私自身も工場管理職として、現場担当者から「もっと頑丈に包んでいいですか?」と相談されるたびに、その裏にある「安全」と「恐怖」のせめぎ合いを感じてきました。
しかし、過剰包装は物流費の増大を招きます。
たとえば、強化された梱包材・無駄に大きい箱・梱包手順の複雑化による工数増加などが典型です。
とくに箱やパレットのサイズが現実より大きめになることで、パレット段積み効率やトラック積載効率が大きく低下し、運賃単価が上がってしまいます。
包装の設計における“設計者不在”の落とし穴
包装設計は、どの現場でも往々にして製品設計者や現場担当者が “なんとなく” 過去の同等品を真似て決めることが多い実情があります。
この“なんとなく設計”の連鎖が、包装資材メーカー任せや「一番安全な方を選ぶ」という選択肢に集約され、気づけば過剰投入となります。
実は現場には包装の最適なカスタマイズや合理的な根拠を持つ人材や専門職が十分いません。
この「設計者不在」、すなわち最適設計や見直しをする人がいない状況が過剰包装を助長しています。
物流費へのインパクト――見えにくいコストが利益を溶かす
物流費の増加は「わかりやすいコスト」と「見落としがちなコスト」の両面から現れます。
まず、重量や体積が増すことで単純に運賃が上がります。
さらに、多くの製造業のサプライチェーンは階層構造となっており、従来の「まとめて輸送」「積み合わせ」など、効率化前提の仕組みがあるにも関わらず、包装サイズ増大で想定ロット数が崩れ、空間効率が低下します。
また、段積み制限が増えれば、同一便で運べる量が激減し、その都度配送回数も増加します。
一方で、現場オペレーション上では、過剰なパッドや緩衝材、複雑な解体作業などが人手を増やし、間接コストへも負荷がかかります。
現場では「包装コストは発注者に転嫁されるから」と安易に考えがちですが、実はそのしわ寄せはバイヤー企業全体の物流コスト増と、その企業の競争力低下という形で跳ね返ってくるのです。
バイヤーの本音 ―「コスト」「環境」「見やすさ」
バイヤーがサプライヤーを選ぶ基準は、単なる取引価格や納期だけではありません。
彼らは「高品質」「納期遵守」に加え、「合理的な物流コスト」「包装の簡便さ」「環境配慮」といった、目に見えにくいコストも鋭くチェックしています。
実際に、多くの製造業バイヤーが「箱がここまで大きい必要はあるのか」「緩衝材が多すぎて受入検品に手間がかかる」といった指摘をしています。
昨今はSDGsの流れからも、過剰分を無駄と見なす風潮が強まっています。
調達購買部門では「LCA(ライフサイクルアセスメント)」や「CO2排出削減目標」もノルマ化しており、包装資材起因の廃棄物やコスト増は放置できないリスクとなっています。
その結果、過剰包装を改めないサプライヤーに対する信頼度は低下し、最悪の場合は選定から外されてしまう例も増えています。
なぜサプライヤーは変われないのか ―「3つの壁」
(1)過去のクレーム恐怖の固定観念
一度でも破損やクレームを受けた場合、現場や営業部門は「二度と同じ目にはあいたくない」と考えます。
これが強化包装の「お守り」になり、その後も過剰包装が踏襲されてしまうケースが多いのです。
(2)設計リソース不足による横並び意識
包装の最適化提案に専門知識を持つ人材や、社内の改善プロジェクトを推進する「推進役」が不足しています。
結果的に、周囲に倣ったり資材業者任せになる傾向が抜け出せません。
(3)“改善しても評価されにくい”風土
一方で、包装資材のコスト低減や物流費削減は、現場の「見える化」や評価指標になりません。
製品クレームはすぐに減点される一方、包装を最適化しても“現状維持”扱いになりやすく、現場からのモチベーションも上がりません。
現場目線での改善アプローチ ―“ラテラルシンキング”のすすめ
ここで、昭和から続くアナログ的な発想の限界を脱し、「横の発想(ラテラルシンキング)」による改善策を考えてみましょう。
1.まずは現場の“見える化”から着手
現在使われている包装資材リストと物流費、人件費の全体像を可視化します。
特に「包装サイズごとに1パレットに何個載せられるか」「最大ロットあたりの運賃単価」を数値で比較することで、過剰包装の影響が“数字”として現れます。
現場参加型ワークショップで現物・現場・現実(3現主義)を一度見直す機会を設けるのも有益です。
2.「壊れない現場試験」+「物流現場同伴」の実施
どこまで包装を削減できるか、実際に現場で落下試験や振動試験などを行い、品質保証部門や物流担当者の前で「安心感」を担保しましょう。
加えて、物流現場の担当者と一緒に積み付け・積み下ろしのシミュレーションや、現地での手間工数を共有することで具体的な不安を払拭します。
3.積極的なバイヤー・資材メーカーとのコミュニケーション
バイヤーに梱包サンプルを送り、現場でのフィードバックを直接もらうことで「顧客と一体」の包装改善を実施しましょう。
資材メーカーとも協力し、「薄型緩衝材」や「環境対応型オーバーパック」などの新しい選択肢も積極的に試す姿勢が重要です。
サプライヤーの競争力は“適切包装力”にあり
厳しい市況下、製品単価ではなかなか差がつかない時代となりました。
その中で、物流や包装まで含めた“トータルコストでの最適化提案”こそ、サプライヤー選定でバイヤーから高評価されるポイントとなっています。
私がバイヤーを担当していた時代、包装仕様の合理化を自主提案してきたサプライヤーは、多少の価格差以上の「誠実なパートナー」として重用され、取引継続の決め手となる場面を幾度も経験しました。
「壊れない包装」を超えて、「無駄のない合理的な包装」を自ら提案できるサプライヤーが、これからの時代に選ばれていくのは間違いありません。
結論 ― 現場発の改善が業界の未来を変える
過剰包装による物流費増加は、企業全体の利益を奪い、さらには業界全体の競争力をも低下させかねません。
昭和時代のアナログ慣習から脱却し、根拠ある現場現物主義と、最新の包装設計知見を融合したラテラルシンキング(横断的な発想)での改革が、サプライヤーの責任でもあります。
バイヤーもサプライヤーも、お互いが率直に問題を共有しあい、現場実態に合った合理的な包装の在り方を模索し続ける姿勢こそが、「選ばれる現場力」へとつながっていくのです。
地道な見える化と失敗を恐れない改善提案の積み重ねが、業界全体のコスト競争力、ひいては日本のものづくり全体の持続的な発展につながることを、現場の実感として強く提案します。
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