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供給拠点集中のままBCP対策を怠るサプライヤー問題

目次
はじめに:今、製造業のサプライチェーンは重大な転機を迎えている
近年の自然災害や地政学リスク、そして新型コロナウイルスの感染拡大は、製造業のみならず多くの産業界に深刻な影響を及ぼしました。
とくに日本の大手製造業では、供給拠点(生産工場や倉庫、調達先)が一極集中しているケースが数多く存在します。
一方、BCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)対策は、まだまだ形式的もしくは部分的な対応にとどまる企業が多いのが実情です。
本記事では、昭和時代から続く「安定した一本調達・一拠点集中」の体質と、それに潜むリスク、バイヤーやサプライヤー、それぞれの立ち位置で何を考えるべきか、現場での実体験や失敗事例を交えて詳しく解説します。
サプライチェーンの“脆さ”を浮き彫りにした現場の実情
自然災害のたびに露呈する一拠点集中の弱点
日本は地震、台風、洪水などの災害大国であるにもかかわらず、「〇〇工場だけで全量生産」「A社からだけ部品調達」という供給体制が今なお根強く残っています。
たとえば2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震で、主要な自動車メーカーが一斉に生産をストップさせた事例は広く知られています。
電装品や半導体などのキーパーツを特定の工場だけが手がけていたため、その拠点が被災した瞬間、下流の工場や最終製品メーカーまで一気に波及し、多大な損失を招きました。
私自身も管理職時代、協力会社の火災や道路の寸断で部品が届かず、生産現場がストップする事態を何度も経験しています。
現場は「いつも通り回って当たり前」が前提となるため、いざ非常時には対策不足が一気に顕在化します。
アナログ業界に根付く“昭和マインド”と危うい習慣
部品調達、生産管理、物流管理…これらの分野は、日本の製造業特有の「現場の勘と経験」「口約束・電話連絡中心」「ノート・手帳へのメモ」といったアナログ思考が、令和の今も色濃く残っています。
「〇〇さんが20年来の付き合いだから安心」「昔からこの仕組みで困ったことはない」という空気は、ともすればBCP対策の優先度を下げ、“備えない現場”を生み続けてきました。
実際、調達現場では「A部品だけはA工場でしか作れない」「登録変更は手間なので、まずは被災が終わるのを待つしかない」という状況が頻繁に発生します。
その背景には、「仕入先に余計なコスト負担や追加作業をかけたくない」「リスク分散のためのマルチソーシングは評価されにくい」という企業文化も潜んでいます。
BCP対策を怠るサプライヤー問題の本質
「いま困っていないからOK」の発想は致命的リスク
サプライヤーの多くは「困ったことが起きた時にその場しのぎで対応」を繰り返しがちです。
特に中小企業では「BCP対策をするコストが払えない」「多拠点化する余力がない」という声が常に聞かれます。
しかし、大手メーカーが期待しているのは「非常時にも最低限の供給を続けられる体制」であり、今やBCP対策は品質管理や納期対応と同等の重要評価基準となっています。
万が一でも納入がストップした場合、その損失補填や売上補償は想像以上に重く、最悪の場合は取引停止という厳しい措置が下されます。
「いま困っていないから大丈夫」という惰性は、そのまま信用リスクとなってバイヤー側にも跳ね返るのです。
バイヤー側の認識不足がサプライヤーの“頑固体質”を温存
バイヤー側も、「安定供給」や「コスト重視」のKPIに引きずられ、本来なら「リスク分散型調達」にシフトするべきタイミングを何度も逸してきました。
「あそこの会社は信頼できるから全部任せて大丈夫」「複数拠点化や代替ソーシングは調整が面倒」といった声が現場から上がります。
その結果、肝心のBCP対策が抜本的には進まず、むしろ「既得権益」で“サプライヤー一社集中”や“一子相伝の技能伝承”を助長してしまう現状があります。
サプライヤーにとっても、バイヤーから積極的なリスク提示やBCP訓練の要求がなければ、「言われてないからやらなくていい」となりがちです。
この“暗黙の了解”が、今なおサプライチェーン全体の脆弱性を放置する最大要因となっているのです。
現場視点で考える―真のBCP対策とは何か?
「形式的なBCP」から「現場に根付いたBCP」へ
多くの企業がBCPの策定を掲げてはいるものの、内容を見てみると、規程やマニュアルが形式的に存在するだけで、現場のオペレーションに落とし込まれていないケースがほとんどです。
実際の危機発生時、「誰が、いつ、どの情報を、どう伝えるのか」「工場が使えなくなった時に、どのサプライヤーがどう対応するのか」といった具体的な行動プランが曖昧なままになっています。
BCP対策は「絵に描いた餅」では意味がありません。
現場で実際に機能し、定期的な見直しと訓練が行われてこそ、「本当に使えるシナリオ」が構築されるのです。
代替生産拠点・複数仕入先の選定は“当たり前”の備え
生産拠点の複数配置や、サプライヤーの2社以上化(ダブル/トリプルソーシング)は、かつては「効率低下」「コスト増」を理由に敬遠されがちでした。
しかし、ここ数年で発生した複数の災害や原材料調達困難を経て、「多少効率やコストを犠牲にしても、緊急時に供給継続できる体制」の重要度があらためて評価されています。
実際に、主要部品について「月○○個までならB工場、○○個以上はC工場」といった振り分け、通信障害やインフラ不全時にも互いに代替可能となるモジュール設計…現場目線で地道な備えを積み重ねることが不可欠です。
業界動向にみる“サプライヤーへのBCP圧力”の高まり
大手メーカーの調達基準はBCP重視へシフト
2020年代に入り、グローバルサプライチェーンのリスク管理はさらに厳しくなっています。
自動車、電機、機械メーカー各社は「BCP対策の有無」「納入遅延リスク対応」を重点評価基準とし、調達先選定プロセスの中で「定期的なBCP訓練」「緊急時の対応実績」まで優先的にチェックしています。
また、継続取引の条件として「復旧所要時間の目標設定」「部品在庫の見える化」「災害時の迅速な連絡体制」をサプライヤーに義務化する動きも顕著です。
この流れに乗り遅れたサプライヤーは、たとえどれだけ長い取引実績があっても、次世代製品の開発やグローバル展開のサプライヤーリストから次々外れる可能性があります。
「アナログ対応」への反動と“デジタル強化”の波
まだ「電話一本」や「個人メーラー」でやり取りしているサプライヤーにも、EDI(電子データ交換)、ERP、SCMシステムを使った情報共有・受発注の自動化要請が強まっています。
BCP対策とは単に「別の工場を用意する」だけではありません。
受発注情報のリアルタイムな共有、納入遅延の兆候をデータ化して早期に検知する仕組みも不可欠です。
これからのサプライヤーには、「情報のデジタル連携力」や「緊急時にも確実に情報発信できるシステム」までが求められる時代となったのです。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる意識の変革
「いざという時」の想定力が現場の未来を左右する
サプライヤーとしては、「いざ」という危機が本当に起こったら、どれだけ迅速に復旧できるのか、自社だけでなく下請けや協力会社も含めた“サプライチェーン全体の復元力強化”が責務となります。
「何とかなるだろう」「前回もうまくやり過ごせた」はもはや通用しません。
一方、バイヤーも「リスクはサプライヤー任せ」という受動的姿勢を捨て、「共にリスクを洗い出し、対策を考え、投資や技術支援を行う」というパートナー意識が必要です。
決してどちらか一方だけの努力で成立する問題ではありません。
現場主義+ラテラルシンキングで“新しいサプライチェーン”へ
これからの製造業は、「これまでのやり方の延長線」から「想定外を想定した全く新しい地平線」にシフトする必要があります。
たとえば、異業種から学んだサプライチェーンの多拠点化や、小規模分散工場のネットワーク化、あるいはサプライヤー同士のBCP協定締結、外部クラウドを使った調達情報の統合…など、ラテラルシンキング(水平思考)を駆使し、多角的なリスク対策を模索していくことが不可欠です。
いつもの日常が「明日も続く」と思い込まず、あらゆるリスクシナリオに備えていく。
その地道な積み重ねが、バイヤーとサプライヤー双方の“共存共栄”と、日本のモノづくり現場の新たな強さを確かなものにすると確信しています。
まとめ:今こそ古い常識から抜け出し、持続可能なサプライチェーン構築を
供給拠点集中のままBCP対策を怠るサプライヤー問題は、現場に根付いた「安心感」と「惰性思考」によって長年見逃されてきました。
しかし、時代は変わりました。
今やBCP対策は管理・現場・経営の全員が向き合うべき“経営課題”です。
バイヤーもサプライヤーも、従来型の「一社集約」「昭和的アナログ文化」から飛躍し、デジタルと実地訓練、水平思考で「もしも」に備えた強靭なサプライチェーン構築に注力していきましょう。
ひとり一人の意識変革が、企業の生存力、そして日本の製造業全体の競争力向上につながるはずです。
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