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共同改善活動に参加しない仕入先がコスト低減を阻害する問題

目次
はじめに
製造業におけるコスト低減活動は、今や多くの会社にとって経営の根幹をなすテーマです。
短納期化、品質向上、持続可能な調達など、外部環境の変化に対応しつつ高いコスト競争力を維持するためには、自社内だけでなくサプライチェーン全体での総合的な連携と改善が不可欠です。
その中でも「共同改善活動」は、メーカーと仕入先(サプライヤー)が一体となって取り組むことで抜本的な成果を出してきた歴史があります。
しかし、現実にはこの共同改善活動に消極的、または参加しない仕入先の存在が、コスト低減の阻害要因となっているケースが少なくありません。
本記事では、20年以上製造業に携わり調達・生産管理・品質管理を経験してきた実践者の立場から、共同改善活動の現場で感じる課題や、アナログから抜け出せない製造業界の根深い構造、そしてこれからバイヤーを目指す方やサプライヤーの方にも役立つリアルなポイントを解説します。
共同改善活動とは何か――その本質を再確認する
なぜ共同で改善を行うのか
共同改善活動とは、発注側(バイヤー)と供給側(サプライヤー)が定期的なミーティングや現場の課題抽出・改善提案、コスト算定を通じて、双方にメリットをもたらすWin-Winの改善を追求するプロセスです。
単なる値下げ交渉や一方的なコストカット要求とは異なり、現場視点の知恵や創意工夫を引き出し、全体最適を目指す活動です。
たとえば、部品構成の見直しによる工数削減、段取り時間の短縮、新しい生産技術の導入、物流の合理化、品質保証プロセスの改善など、幅広いテーマが対象になります。
これらはともすると「仕入先の努力次第」と片づけられがちですが、本来はお互いの情報や知見のクロスオーバーによって初めて新しい改善アイデアが生まれ、現実的な実行力が確保されるのです。
昭和型の取引慣行が”足かせ”に
現場を見渡すと、いまだ「上意下達」「一発値下げ交渉」「コストダウン成果の丸投げ」といった旧来の商習慣が根強く残っています。
サプライヤー側も「言われたとおりに作る」「とりあえずやり過ごす」といった受け身の姿勢が多いです。
結果として仕入先から積極的な改善・提案が出てこず、バイヤー側も「本音で話せばコストの中身を全て見せなければいけない=損をする」と警戒感を持つ負のサイクルに陥りやすいのが、大企業・中小企業問わず多くの現場に共通した課題です。
参加しない仕入先が抱える”本音”とは
コスト低減活動への消極的な姿勢の背景
共同改善活動に参加を渋る、もしくは形だけ名目上の参加に留まる仕入先には、次のような「現実的な理由」が隠れています。
1. 改善活動へのリソース不足
多くのサプライヤーは生産(現場)を回すために手一杯で、提案活動や会議参加に十分な人材や時間が割けません。
特に中小企業では、現場の管理者自身が多くの兼務を抱えている場合が多く見られます。
また、コスト低減の具体的な技術やプロセス改善の知見が自社には乏しいケースも多いのです。
2. ノウハウ漏洩・損失への警戒心
製造ノウハウや原価構成の開示には根強い拒否反応があります。
「核心ノウハウを晒してしまうと、将来的に取引条件で不利になる」「情報だけ取られた挙げ句、単価だけ下げられる」こうした歴史的な不信感は一朝一夕には拭えません。
3. 成果配分への不公平感
コストダウンによって仮に原価が下がっても、その成果分配が一方的(“全ては仕入れ価格の引き下げ”)になることがしばしばあります。
サプライヤーに“自社の利益には結びつかない”と見なされれば、それ以上積極的になるインセンティブは消失します。
4. 取引環境における「力関係」の問題
多重下請け構造下では、メーカーの圧倒的な発注権限に対して言い難い空気感があります。
「従わないと将来の取引が減るかも…」という圧力も相まって、表面上は協力的でも実際は形だけ参加という状況を生みやすいです。
参加しないことが引き起こす悪循環
仕入先が形だけ、あるいは全く参加しない場合は「やったフリ」だけの名ばかり改善に終わります。
現場の知恵が活きず、真のコスト低減にはつながらないため、長期的なコスト競争力の強化が実現できません。
さらにこの悪循環は、メーカー側にも「どうせ出てこない」と諦めムードが蔓延し、「値下げの圧力を強化することこそコストダウン」と短絡的な発想だけが残ってしまいます。
この結果、サプライヤーの経営体力が削られ、最終的には品質問題・納期トラブル・取引縮小など、バイヤー側にとっても大きなリスクとなるのです。
共同改善活動を阻害する業界構造的な要因
多重下請け構造の”壁”
特に日本の部品製造業は元請・一次下請・二次下請…という多層構造が今も根強く残っています。
一次下請まではバイヤーの顔が見えますが、その先は価格転嫁の圧力や手離れ感が増し、改善活動の意義自体が薄れてしまうのです。
結果、末端の現場(町工場など)が意見を吸い上げられず、本来発揮すべき現場力・技術力が活かされずに埋もれてしまう構造的課題が存在します。
旧来型大手メーカーの選択的関与
実は、コストダウン会議や改善活動自体が”大手得意先向けのポーズ”になっている場合も散見されます。
B社プロジェクトだけ、Aラインだけ、特定品種だけは見せかけの活動で済ませ、その他の現場・取引先は今まで通り…。
こうした””選択的関与””が改善活動の本来の広がりを阻害し、「また形式的な報告会か」と現場の士気を下げかねません。
デジタル化推進の遅れと属人的コミュニケーション
共同改善活動を進めるためには、メーカー・仕入先間でリアルタイムかつ透明性の高い情報共有が不可欠です。
ところが、日本の多くの現場ではFAXや紙ベースの書類、電話・現場打合せによる属人的なやりとりが主流で、PDCAが見える化されない、ノウハウが蓄積されないなどの「デジタル化の壁」が立ちはだかっています。
共同改善活動を自社の武器にするために(バイヤー視点)
改善の見える化とオープンコミュニケーションに舵を切る
単なる値下げ交渉から一歩踏み込み、まずは「共同改善活動」の真の目的や意義を仕入先と共有するところから始めるべきです。
成果配分のあるべき姿(例:コスト低減額の50%はサプライヤーの利益にする等)を明示し、数字だけでなく「現場で何を変えたか」「どんなノウハウを築いたか」を見える化することが信頼関係の基盤となります。
また、属人的な報告会や根回しをやめ、クラウドツールやオンライン会議等デジタル活用によって、全プロセスを記録・共有化することで、”コスト低減の黒子”だった仕入先の努力が正当に評価される仕組みをつくりましょう。
成果だけでなく「成長の機会」を提示する
中小サプライヤーほど“やらされ感”だけでは動かせません。
たとえば「共同プロジェクトのリーダー育成」「工程改善の派遣研修」など仕入先側従業員のスキルアップとなるプログラムをセットにして、共同改善が単なる単価交渉でなく“共に成長する場”であることを強調するとコラボレーションが進みやすくなります。
サプライヤーチェーン全体での成果最大化を目指す
二次、三次下請けまで巻き込めるかどうかが大企業にとっても今後の最重要テーマです。
たとえば複数の企業横断での共同ワークショップ開催や、サプライチェーン全体の最適化プロジェクトなど、新しい枠組みを積極的に構築することも不可欠です。
サプライヤーの立場から自社が生き残る方法
「言われる前に提案する」力を磨く
これからは受け身ではなく、「提案型サプライヤー」こそが生き残る時代です。
たとえば工程の標準化提案、規格統一化、材料調達の共同化、IoT導入による無駄削減など、自社で培われた現場知見を積極的にアウトプットしましょう。
そのためには日頃からコストの構造や競合他社動向を分析し、バイヤーがどんなKPI(納期、単価、CO2削減、トレーサビリティ等)を重視しているかをしっかり読み解くことが重要です。
「共同改善」が自社利益に直結する交渉を
コスト低減を要求された際、「受け入れたら利益が削られるだけ」と考えるのではなく、「〇〇の工夫で生産性30%UP=価格改定も交渉可能」「工程改善前提の長期取引確約を得る」など自社にもwinがある形に落とし込める提案力を育てれば、単なる値下げ圧力の犠牲者でない、”選ばれるサプライヤー”になれます。
現場のアナログ知見×ITで突破口を開く
IT化が遅れている現場ほど、ちょっとしたデジタル化(例えば工程管理アプリ導入、ペーパーレス会議化、リモート監査対応等)が圧倒的な差別化要素(選ばれる理由)になります。
一歩先を読んだ現場イノベーションを積極提案し、市場での自社ポジションを高めることが肝要です。
まとめ
共同改善活動とは単なる”値下げの口実”ではありません。
メーカー・サプライヤー双方が知恵を出し合い、現場起点のイノベーションを実現することで初めて持続可能なコスト競争力を確保できるコア活動です。
参加しない仕入先が増えれば悪循環を生み、業界全体が疲弊して終わります。
昭和的な”指示待ち”や”形式主義”から脱却し、現場のナマの声やITツールも活用したオープンな改善文化の構築を、今こそ一人ひとりが意識し、実践していくこと。
バイヤーにもサプライヤーにも、その先にいるエンジニアや工場の仲間たちにも、共通の課題であり大きなチャンスです。
このテーマに少しでも興味を持った方は、まず今日できる「現場での一つの対話」「提案資料の一枚化」から始めてみてください。
コスト低減は、現場が変われば必ず現実の成果につながります。
皆さんと一緒に製造業の明日を切り拓いていけることを願ってやみません。
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