投稿日:2025年8月23日

保証費用負担を一方的に顧客側へ転嫁するサプライヤー課題

はじめに:製造業の保証費用、なぜ顧客側への一方的転嫁が問題なのか

製造業の現場では、製品の品質保証は欠かせません。
しかし、近年一部のサプライヤーが、保証費用の発生時にその費用を一方的に顧客(いわゆるバイヤー)へ転嫁するケースが散見されます。
このような状況は双方の信頼関係を損ない、サプライチェーン全体の健全な発展を阻害する大きな要因となっています。

この記事では、20年以上製造業の現場で調達購買と生産管理、品質管理、工場長としての経験をもとに、保証費用負担にまつわる現場の課題や背景、そして今後業界としてどう向き合うべきか、バイヤー・サプライヤー双方の立場を深く掘り下げて解説します。

保証費用負担とは何か

保証費用とは

製造業における保証費用とは、出荷した製品に不具合や初期故障、品質問題が発生した際に発生する修理・交換・回収・再生産などの費用を指します。
完成品メーカー(顧客)が不具合対応する際、下請けサプライヤーで発生した不良が主因の場合には、サプライヤーへ損害賠償を請求するケースが一般的です。

従来の業界慣習と近年の変化

日本の製造業においては、いわゆる「長い付き合い」と「御恩と奉公」の文化の中、必ずしも細かく契約で定めなくとも信頼関係により納品後のトラブルにも柔軟に対応する風土が根付いていました。
しかしグローバル化や市場の成熟化と共に、契約に基づく厳密なコスト配分・リスク分担が求められる時代になっています。

そんな中、弱い立場のサプライヤーが、保証費用の全額または大部分を一方的に顧客側へ転嫁する傾向が現場で増えているのが実情です。

一方的な保証費用の転嫁、その根本的な課題とは

原因1:リスク管理意識の低さ

昭和から続くアナログな風土では、お互い曖昧な責任分担で「何かあれば一緒に対応」といった考えがいまだ根強く、根本的なリスク分析やフェアな契約設計をしていないケースが多く見受けられます。
この結果、予想外の品質問題が発生すると、担当者の感情や立場の強さに依存して「まずは顧客側が負担してほしい」と要請しがちです。

原因2:価格競争激化とコスト削減圧力

昨今の調達価格低減要求は激しく、サプライヤーの利幅は極端に薄まっています。
その結果、万一の保証費用を自社で吸収する余力が乏しく、「コストを切り詰めて何とか減額対応したが、不具合時は顧客サイドで」といった安易な転嫁が温床になっています。

原因3:明文化された契約の不徹底

現場では口約束や暗黙のルールが未だ色濃く残っています。
保証費用分担に関する明文化が甘いと、「どちらがどのレベルまで負担するのか」トラブルが起きた時に初めて揉めごとになるパターンが後を絶ちません。

原因4:グローバル化によるバイヤー側の対応力低下

オフショアや海外サプライヤーとの取引拡大により、現地の商慣習やリスクに精通していないバイヤーが増えています。
結果として、強く交渉できずに理不尽な保証費用を丸呑みしてしまう、といった問題も目立ちます。

製造業現場の実態から考える、保証費用転嫁の事例

自動車業界の事例

自動車メーカーの場合、ライン停止や大量リコールなど「1件の不良」が数億円、場合によっては数十億円規模の損失に発展します。
バイヤーが「納品された部品のロット不良」を発見した場合、本来は原因究明と責任分担に基づく公平な負担が必要です。
しかし、サプライヤーの立場が弱く「このコストは払えない、そちらで何とか…」と要請され、泣く泣く顧客が肩代わりしてしまうケースも多いのが現状です。

電子業界・半導体業界の事例

高い品質要求・スピード納入が求められる電子業界では、納期最優先で十分な検証を省略し、不良品納入後に市場から大量のクレームが発生することがあります。
緊急対応に追われる中、サプライヤーが「弊社にはコスト負担が困難」と申し出て、保証費用の全額をメーカー側で負担せざるを得ない…こうした事例が報告されています。

中小サプライヤーの経営リスク

一方で、体力のない中小サプライヤーが高額な保証費用を請求されて倒産する事例も増えています。
このバランスを考えず、極端な「全額転嫁」や「ゼロ負担」を押し付けるやり方は、共倒れリスクを高める悪循環です。

バイヤー視点:どう備え、対処すべきか

1. 事前のリスク可視化と契約明文化

トラブル前提で、あらかじめ
・どの範囲の不具合を「保証対象」とするのか
・原価低減とのトレードオフをどう担保するか
・部品個数や影響範囲による保証費用算定ルール
といった項目を明文化した契約を必須とすべきです。

2. 双方納得のフェアな負担設計

「忙しさ」や「長年の付き合い」の情に流されず、冷静な因果分析とフェアな負担割合設計(例:原因帰属度による按分)を根拠として示す力が必要です。
これは双方の信頼を深め、長期的なパートナーシップへ発展します。

3. 交渉力と知見の強化

サプライヤー側の事情も理解しつつ、商流・品質・調達コストとすべてバランスを取った交渉力こそ、今後の“できるバイヤー”に求められる重要なスキルとなります。
業界の知見や事例も日々学び、情報武装しましょう。

サプライヤー視点:持続的な関係構築のために

1. 自己責任による品質向上

元請企業への属人的な依存から抜け出し、「自社で高品質を担保し、市場トラブル時もできる限り自力で対処できる仕組み」作りが大切です。
リスクヘッジ用の内部留保や保険導入も有効です。

2. バイヤーとの透明な対話

保証費用の負担能力や経営体力を正直に開示し、納得のいく分担ルールを日ごろから協議しておくことで、いざという時のコミュニケーションロスを最小化できます。

3. 負担しきれないリスクへの備え

どうしても吸収できない莫大な保証費用が発生した場合、無理に隠したり突っぱねたりせず、「どのような協力体制が取り得るか」信頼ベースで相談する姿勢が長期的には強い関係性を作ります。

昭和から令和へ、業界変革に必要な視点

古い慣習から抜け出すポイント

・「なあなあ」や「情」だけに頼らない仕組み
・属人的な交渉力で乗り切らず、知恵とデータによる論理構築
・双方が生き残る「Win-Win」のリスク分担

業界も徐々に変わりつつありますが、「長いものに巻かれろ」「気合で乗り切れ」という昭和的価値観はまだ完全には消えていません。

DX・デジタルデータ活用による進化

IoTやAIを活用し、現場データや保証費用・品質記録をリアルタイムで可視化できるようになりました。
これらのデータを元に「なぜ発生した?」「どこが責任範囲?」を冷静かつ透明に議論できる土台が整いつつあります。

まとめ:関係性の見直しと、未来を担う人材へのメッセージ

製造業の保証費用の一方的な転嫁は、短期的にはどちらかが得をしても、長期的には信頼崩壊や共倒れを招きかねません。
契約・リスク管理の徹底、双方にとって納得できる分担ルールの設計、透明なコミュニケーションが不可欠です。

今後の製造業をリードする「できるバイヤー」や「信頼されるサプライヤー」には、業界慣習に縛られずラテラルシンキングをフルに発揮し、新しい関係構築のあり方を模索していただきたいです。

あなたも現場目線の課題意識と柔軟な思考で、ぜひこの難題の打開策を共に考えていきましょう。

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