投稿日:2025年10月24日

飲食店が初めて原料仕入れを見直すときに知るべきサプライチェーンの仕組み

はじめに:飲食店とサプライチェーンの接点

原価高騰が続くこの時代、飲食店経営は「味」や「サービス」だけでなく、「仕入れ」にもシビアな目線が求められるようになりました。

食材価格の高騰、天候や国際情勢による物流の乱れ、そして安定供給してくれる信頼できるサプライヤーの選別。

これらの要件を考えると、今まで「言い値で仕入れる」「商社や卸にお任せ」というアナログな慣習のままでは、安定した店舗運営は難しくなっています。

こうした課題解決のヒントは、製造業が長年磨き上げてきた“サプライチェーンマネジメント(SCM)”にあります。

本記事では、「飲食店が初めて原料仕入れを見直す際に知るべきサプライチェーンの仕組み」について、現場経験20年以上の視点から実践的に解説します。

サプライチェーンの基本構造とは

サプライチェーンとは?

サプライチェーンは原材料・情報・お金が、最終消費者へと届くまでの「連鎖した流れ」を指します。

原料生産者 ー 卸・商社 ー 加工業者 ー 飲食店 ー 消費者

これら一連の流れ全体をコントロールし、より効率的に、より無駄なく繋ぐことがSCMの核心です。

飲食店が見るべき「川上」と「川下」

製造業では「川上(原材料側)」と「川下(消費者側)」という言葉を使います。

飲食店は、従来「卸業者=最初の仕入れ先」とばかり向き合いがちでしたが、仕入れ改革のポイントは「もっと上流まで視野を広げる」ことにあります。

たとえば野菜であれば、農家や生産組合まで遡って調達ルートを考える。
水産物であれば、どこの漁港から水揚げされたかまで知ると強みが出ます。

一方、「川下(消費者)」の変化も掴まなければなりません。
近年は「安全・安心」「サステナブル」「トレーサビリティ」など消費者のニーズも多様化しています。
これら川上から川下までの繋がり全体をデザインする発想が、今飲食業にも強く求められています。

なぜ今、飲食店のサプライチェーン改革が必須なのか

原料高騰・物流不安定は“他人事”でない

かつては地元の卸や業務スーパーに丸投げしていればよかった原材料調達ですが、2020年代に入り、世界的な物流混乱や円安による原材料の高騰が相次いでいます。

以前なら、前日に「明日納品できる?」と聞けば対応してくれた業者も多かったでしょう。

しかし、今では
・いつも通り発注したのに納期が遅れる
・突如大幅値上げされる
・“気がついたら業者が倒産”というケースさえある
といった事態も頻発しています。

こうしたリスク回避のためにも、サプライチェーン全体を俯瞰して供給リスクの少ない仕入れを考える時代に切り替わっているのです。

利益率向上 × ロス削減=SCM的発想

飲食店経営では「売価アップ」は容易ではありません。

ならば、「コスト低減」と「仕入れロスの削減」が直接利益を生みます。
ここにSCM型の仕入れ最適化が効いてきます。

・使う分だけ仕入れる「ジャスト・イン・タイム」
・賞味期限を管理して食品ロスを防止
・こだわり食材も“産地直送”など使い方を分ける

これらは製造業では徹底している管理手法であり、飲食でも大きな武器になります。

現場で役立つ!飲食店のためのサプライチェーン改善ステップ

1. 仕入れ先を“見える化”する

まずは現在の仕入れ方法を全て棚卸ししましょう。

【例】
・業者名、担当者、連絡手段
・仕入れルート(A店→B商社→C卸→味噌問屋→酒蔵…)
・納期、ロット、最低発注量
・支払い条件(現金or掛け)

この「見える化」を進めることで、どこのルートに依存しているか、バックアップがあるか、価格の妥当性はどうか分析できるようになります。

2. サプライヤーと直接対話する

卸業者や商社任せだったサプライヤーとの関係性を見直し、できるところは一次サプライヤー(農家、畜産家、酒蔵など)と直接コンタクトしましょう。

直接コミュニケーションを取ることで
・安定供給の可否
・仕入れ価格の透明性
・品質や産地のトレーサビリティ
などが格段にクリアになります。

加えて、「ウチではこういうこだわり使い方がある」「季節の◯◯でメニュー開発したい」など相談できるパートナー関係も築きやすくなります。

3. バックアップルートの確保

特定の原材料が入手できなくなった場合のバックアップルートを常に検討しておきます。

たとえば、主要な食材については「Aルートが使えない場合はBルート」と代替策を整備。
さらに、市場価格や納期を定期的にリサーチしておく体制も重要です。

これは製造業でいう「リスクマネジメント」に相当し、BCP(事業継続計画)の観点からも現代の飲食業には必須です。

4. ITを活用した情報共有

仕入れや在庫、メニュー別の原価をアナログで管理している店舗も多いですが、今はスマホやタブレット一つで「食材在庫」「仕入れ履歴」「発注・納品・支払い」といった情報が常に共有できる時代です。

特に複数店舗を運営している場合は、各店舗ごとの仕入れ情報をクラウド化して見える化することが不可欠です。

これにより仕入れの過不足を素早く把握し、原価管理やロス削減へつなげることができます。

サプライチェーン改革で差がつく!これからの飲食店経営

「安定供給」の信頼性がブランディングになる

サプライチェーンを強化することで、急なトラブルや価格変動による“売り切れ”“仕入れ不能”のリスクが減ります。

「ウチは毎日必ず地元直送の新鮮魚介を提供する」
「食材切れによる臨時休業なし」
といった信頼性は、口コミ投稿やSNS拡散も後押ししてくれます。

消費者ニーズに応える「トレーサビリティ」強化

製造業では、「どこで作られ、どこを通り、どう加工されたか」を可視化する「トレーサビリティ」が進んできました。
これは飲食店でも今後必須の付加価値となります。

例:北海道産の有機野菜のみ使用、契約農家紹介、独自の輸送ルート解説など

情報開示・公開ができるお店は、お客様からの信頼獲得、安心感アップにつながります。

サステナビリティ・SDGsも意識した仕入れ戦略

今後は持続可能な社会づくりの観点も重要です。

地元食材重視、フードロス削減、エシカル調達(環境・労働配慮)は、消費者だけでなく従業員・取引先のモチベーション向上にもつながります。

昭和から抜け出せないアナログ仕入れの”弊害”と脱却のヒント

一方、いまだに「昔ながらの口約束」「FAXだけの発注」「値上げ交渉はご法度」といったアナログ慣習が根強い業界文化もあります。

昭和型の仕入れは、信頼関係を重視する一方で「ブラックボックス化」や「不透明なコスト転嫁」「担当営業の属人的対応」など様々なリスクを抱えています。

今こそ、ベテランの技と現代のデジタルや論理的管理手法を融合し、「強い調達体質」へと舵を切るタイミングです。

まとめ:変化こそ競争優位に繋がる

飲食店が原料仕入れを見直す際には、製造業で培われたサプライチェーンマネジメントの知見をフル活用することが非常に効果的です。

・全体の流れを見える化し、リスクを早期発見
・川上から川下まで強い信頼関係を構築
・ITや新しいツールも融合して情報の共有を推進

こうした変革への一歩が、食の安全・安心、安定供給という信頼を生み、売上・利益という結果へとつながります。

「今までのやり方」から一歩踏み出し、自店なりのサプライチェーン構築にチャレンジしてみてください。
現場で悩み続けた筆者だからこそ言える、「現場こそ主役」のサプライチェーン改革を、ぜひ皆さんの現場にも取り入れていきましょう。

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