投稿日:2025年8月18日

返送不要の通い箱運用で梱包材費と工数を削るサプライチェーン設計

はじめに:製造業における梱包材費と工数の見直しが求められる理由

ものづくりの現場では、日々さまざまなコスト削減策が求められています。
中でも、調達購買や生産、物流に関わる担当者にとって、「梱包材費」と「入出庫などの工数」は常に悩みのタネではないでしょうか。

資材や部品を納入する際に使われる段ボールや発泡スチロールといった梱包材は、原油価格や原材料費の高騰を受けて年々コストが上昇しています。
加えて、梱包・開梱・廃棄といったプロセスは、現場作業者の負担となり、人手不足の中では生産性悪化の原因にもなり得ます。

このような課題を解決する手段として、近年「返送不要の通い箱」の運用が注目を集めています。
単なるコストカットだけでなく、環境負荷低減や現場業務の合理化という観点からも、サプライチェーン全体で積極的な導入が進められています。

本記事では、20年以上にわたり製造現場と経営、双方の視点で業界を見てきた経験をもとに、返送不要の通い箱によるサプライチェーン設計のポイントと、昭和型の『紙と手作業』が多く残る業界土壌に今なぜ必要なのかを、現場目線で掘り下げて解説します。

通い箱運用とは?従来のリターナブルとの違い

返送不要の通い箱運用を語る前に、まず従来の「リターナブル容器」について整理しておきましょう。

従来のリターナブル運用の課題

多くの製造業が長年使ってきた「リターナブル(Returnable)」とは、納品した時に使ったプラスチック製の箱を次回回収・洗浄・再利用し、物流コストや梱包廃棄物を削減しようという仕組みです。
ところが、リターナブル箱は以下のような課題を抱えています。

・各拠点間で容器の回収や返送、その管理・保管のための手間やスペースが必要
・現場の作業負荷や管理漏れによる紛失リスク、メンテナンス費用の増加
・納入先ごとに容器仕様がバラバラとなり、グローバルサプライチェーンの合理化が進みにくい

この仕組みは、まだ多くの現場で「慣習」として残っていますが、昭和から根付く『前近代的な分業』『属人化』『非効率な手作業』の象徴とも言えます。

返送不要=One-way通い箱の台頭

これに対して、近年注目されているのが「返送不要(ワンウェイ型)」の通い箱運用です。
発送元で専用の高耐久・多機能な箱に製品部品を詰めて納入。
受け取り側で箱は開梱後に、そのまま現地で使い切る(廃棄する・再利用する・他目的転用する)設計とします。

その最大の特徴は、「回収や洗浄」「紛失・破損リスク対応」「煩雑な箱管理」などのコストや工数を一挙に排除できる点です。

そのメリットが際立つ具体的な設計手法や運用ポイントを、次の章で詳しく見ていきましょう。

現場目線でみる返送不要通い箱運用の実践メリット

1. 梱包材費の圧倒的な削減効果

まず最大のメリットは、使い捨て段ボール等の「購入費用」と「廃棄コスト」の削減です。
特に量産・大量納品が日常化している電子部品・自動車関連分野では、

・都度梱包形態を変えて1回だけ使い捨てる“非効率”
・ダンボールや発泡スチロール屑の山で現場が混乱する
といった課題があります。

これに対して、ワンウェイ通い箱であれば、規格化された高耐久容器を使うことで、単価抑制効果+繰り返し使える資材で廃棄ロスも激減。
サプライヤー側であらかじめ調達段階から仕様調整し、大ロット契約を締結すれば、通常の梱包材と比較して3~5割程度のコストカット実例も珍しくありません。

2. “現場作業工数の見える化”と大幅削減

ワンウェイ通い箱は、梱包・開梱プロセスまで設計段階から標準化できます。
たとえば「段ボール箱のばらし・畳み作業がゼロ」「緩衝材の取り外しが不要」「ユーザー現場で専用パレットごと即座に置ける」など。
これによって、「出荷→納品→入荷→現場配膳」までの一連作業が、半分から三分の一程度の工数になる事例を数多くみてきました。

また作業手順がシンプルになり、省力化によって熟練者の技術伝承がなくても、誰でも効率化オペレーションが可能となります。
高齢化・多国籍化が進む現場の「ヒューマンエラー」も減らせるのです。

3. サステナビリティとSDGs対応で社会的価値も向上

プラスチック資材への置き換えや再利用式パレットの活用で、
・CO2排出量の抑制
・産業廃棄物の削減
といったサステナビリティ視点でも大きな効果が得られます。

近年では「SDGs経営」や「サプライヤー選定評価」の基準にも、資材・物流面でいかに環境負荷を低減しているかが重視されています。
従来の“やり方”にこだわることは、バイヤーから選ばれない・市場競争力を失うリスクとなりかねません。

4. データ連携による業務デジタル化推進

ワンウェイ通い箱では、各容器自体にICタグやバーコードをつけ、出荷・入荷のトレーサビリティデータを即時取得することも容易です。
これにより、まだ“紙とエクセル”が当たり前…という工場でも、スムーズに現場データのデジタル化・DX化を進められます。

「見える化→改善」サイクルの本質がここにあります。

昭和的アナログ現場でも定着できる“通い箱導入の実践設計”

導入を阻む昭和型の業界習慣

すばらしいメリットがある一方、日本の製造業現場には根強い“慣習”や“人間関係重視の属人的運用”が存在します。
「今まで通りが安心」「コストの表面だけで中身を変えたくない」「上司が物理的な箱に強いこだわりがある」など、抵抗感は少なくありません。

特に下請け・協力工場においては、
・細かな仕様の違いによる容器の“カスタム地獄”
・現場作業者への新手順周知の負荷
・責任区分が曖昧な管理方法
といった壁に直面するケースも多いです。

失敗しない通い箱導入デザイン:プロが実践する3つのポイント

成功に必要なのは“段階的導入”と“現場巻き込み型設計”です。

1. 現場ヒアリング×梱包資材会社と密なQCD協議
机上の空論で仕様を決めず、まず現場担当者の困りごとを徹底してヒアリング。
「どこで工数がかかるか」「他工程への影響は?」といったリアルな課題・工夫を拾い上げ、提案型の資材パートナーとQCD協議を進めます。

2. 小ロット・限定ラインでまずPoC(実証運用)から
全ライン一斉導入は失敗のもと。
“1つの工程” “1種部品” “1バイヤー”と限定し、現場作業者の意見を反映しつつ改良を繰り返します。

3. 標準作業+IT活用×数字で「見える成果」を社内で共有
省工数化やコスト変化を、工程分析やタイムスタディできちんと数値化・比較。
ベテラン現場にも「このやり方なら〇〇工程が半分以下になります」と短時間で伝え、納得を得る工夫が求められます。
さらにICタグ・カメラ連携等でデータ可視化し、管理部門のお墨付きを得ることが拡大のポイントです。

バイヤー・サプライヤー目線で「通い箱運用」を活かす戦略的ポイント

バイヤーが重視するQCDS視点と通い箱の関係

バイヤー(調達購買担当)にとって品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)・サービス性(Service)の向上は絶対命題です。
返送不要型通い箱の導入は、

・Q:製品破損リスクや混載トラブルの防止
・C:梱包・回収・廃棄費用の抑制
・D:出荷~現地到着までの「資材手配遅延」「現場マテハン渋滞」の減少
・S:見える化や現場改善提案力の強化

という観点で大きくメリットがあります。
単なる価格交渉だけでなく、「現場合理化=コスト+αの価値」としてサプライヤー協調型のワンストップ運用を提案する切り口です。

サプライヤーがバイヤーに選ばれるための具体策

サプライヤーにとっても、「通い箱にどんな最新技術や工夫を盛り込めるか」は大きなアピールポイントになります。

・納入先専用のカスタマイズにも柔軟に対応
・ラベル表示やID管理、トレーサビリティ化の提案
・環境報告書やSDGs可視化データの提供

こうした付加価値でバイヤーの“選定ポイント”を押さえ、「この会社なら現場の困りごとを丸ごと解決できる」と感じてもらうことが他のサプライヤーとの差別化につながります。

まとめ:通い箱運用が創る製造サプライチェーンの未来地図

製造業、特にアナログ慣習が色濃く残る現場こそ、“通い箱の設計・見直し“は大きなインパクトをもたらします。

単なるコスト削減策の域を超え、
・現場工数の抜本的合理化
・環境負荷を低減し次世代へつなぐモノづくり
・データドリブンなDX化の突破口
を創ります。

「今までこうだったから」「ウチの現場には合わない」と決めつけるのではなく、現場・バイヤー・サプライヤー全員がパートナーとして役割を再定義し、ラテラルシンキング(水平思考)で新たなサプライチェーンの地平線を開拓していくことが、これからの製造業の成長戦略のカギです。

まずは一歩、現場の“見直し”から始め、未来に誇れるものづくりを共に実現しましょう。

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