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シリコンカップへの印刷でインクが剥がれないための表面改質法

目次
はじめに:シリコンカップへの印刷が難しい理由
シリコンカップは、その柔軟性や耐熱性、耐薬品性といった特性から、食品業界を中心に幅広く使用されています。
一方で、シリコン表面は非常に化学的に安定しており、油や水を弾く性質があります。
そのため、一般的なインクではうまく密着せず、印刷しても簡単に剥がれてしまうという課題が存在します。
本記事では、現場で20年以上蓄積してきた知見を元に、シリコンカップへの印刷にまつわる課題や最新の表面改質技術、さらにバイヤー・サプライヤー双方の立場からみた実践的なポイントまで、昭和的アナログ思考を打破するヒントを交えながら解説します。
シリコン表面の「なぜインクが定着しないか?」を科学する
シリコンの分子構造と表面エネルギーの関係
シリコン樹脂(シリコーン)は、主鎖がSi-O-Siの結合で構成されており、側鎖にメチル基がついています。
このメチル基が表面に並ぶことで、疎水性(親油性)となり、インクや塗料といった他の物質が物理的・化学的に密着しにくいのです。
加えて、表面エネルギーも非常に低く、塗料やインクの「濡れ」や「密着」が困難になります。
従来手法(プライマー・加熱)だけでは限界がある
多くの工場では、シリコン樹脂に特殊なプライマー剤を使ったり、加熱処理を加えたりして対策をします。
しかし、どの方法も製品の用途・形状・コスト制約によって一長一短です。
近年は持続性やエコの観点から「プライマー離れ」が進んでいますが、替わる新技術への理解・導入が遅れており、まさに昭和型アナログ手法からの転換が待たれています。
現場で効果を発揮する表面改質法の比較
1. フレーム処理(炎処理)
ガスバーナーや専用装置でシリコンの表面を炙る方法です。
短時間で表面分子に酸化を起こさせ、インクとの密着を改善します。
手軽で導入コストは比較的低いですが、炎の当て方にムラがあると、品質にもバラつきが発生します。
安全面の配慮も重要です。
2. コロナ放電処理
高電圧を用いてシリコン表面に一種の「プラズマ放電」を起こし、親水化・酸化させる方法です。
非接触で処理できるため、自動化ラインへの導入が進んでいます。
一方で、複雑形状のカップや曲面にはムラができやすく、設備投資も必要です。
3. プラズマ処理
コロナ処理をさらに繊細に制御し、真空中または大気中でガスプラズマを用いる最新技術です。
シリコンの表面に多様な官能基(OH基など)を付与でき、密着力を大幅に高めます。
低温で処理できるため、素材へのダメージも軽微。
最近では大手飲料メーカーのOEM工場で導入例が増えています。
4. ケミカルエッチング
強い酸やアルカリによって表面を粗くする方法です。
安価で加工しやすい一方、薬剤廃棄や環境面、作業者の安全への配慮が必須です。
食品・医療用途の場合には、薬剤残留リスクやコンタミ対応の観点で敬遠されることも多くなっています。
現場で見逃しがちな「品質不良と再発防止」の視点
ここで重要なのが、単に表面改質法を選ぶだけでなく、だれが、どうやって、現場で仕上がりをジャッジし、問題発生時にどこまで「遡って改善」できる体制を組めるかです。
特にアナログ的な現場では、ベテラン作業者の「勘」に頼りがち。
しかし、インク密着不良の真因が「前工程の油分残留(洗浄不良)」や「乾燥不足」にあるというケースは少なくありません。
設備導入と並行して
・洗浄工程の見直し
・工程間でのクリーン管理
・インクやプライマー自体のロット管理、
・接触角や引張試験による数値的な表面評価
こうした地道な「プロセス可視化・記録」が、品質不良の再発防止につながります。
昭和型アナログからの脱却と最新トレンド
データドリブン管理のススメ
DX(デジタルトランスフォーメーション)の波は、今や中小規模工場にも必須となりました。
表面改質後の接触角データを自動で記録し、異常値が出たとき即座に現場へアラームを出す――。
「IoT+表面処理装置」を用いたこうした運用は、歩留まりの向上と作業者個人に依存しない品質確保の両立を実現します。
インクメーカー・装置メーカーとの連携が成功のカギ
シリコンへの密着専用インクは、欧州メーカーからも高性能品が続々登場しています。
インク選定と表面処理装置の最適化を、バイヤーサイドが「別個に」相談されるケースが多いのですが、ここはむしろ「3者三位一体」の開発が成功のカギです。
インクと処理方式の相性、工場ライン設備とのマッチング、現場での扱いやすさまでトータルに見極めることで、本当に剥がれない印刷が実現できます。
バイヤー目線からみる表面改質の発注・管理ポイント
仕様書に「表面前処理」を明記する
発注する側としては、「表面前処理(前処理方法/条件)」を必ず仕様書・図面に落とし込むことが大切です。
単なる「印刷仕上げ」としか記載がない場合、サプライヤー側に誤った処理方法が採用され、量産後にクレーム発生リスクが高まります。
試作・量産ラインで「再現性」を確認する習慣を
サプライヤーによっては、試作時には「手作業で念入りに処理」して高品質なサンプルが出せる一方、量産では自動装置で処理するため、品質ギャップが生じることがあります。
試作評価時に、あくまで「量産設備・実機での処理再現性」を確認し、量産移行時のトラブル防止に努めましょう。
第3者評価(外部試験機関)の活用
とくに厳格な品質が要求される食品・医療用途では、第三者機関による接着強度試験や耐摩耗試験のデータを活用することが安心材料となります。
新規サプライヤーの評価指標にもなります。
サプライヤー側が押さえるべき現場コミュニケーション
下請けの立場では、「納入規格外だけど、このくらいOKじゃない?」という曖昧さが現場に根強く残っています。
しかし、現在はユーザー企業から工程管理のデータ提出、改善活動の報告制度が求められる時代。
インク剥がれ発生時に「どの条件でどんな前処理をしたか」「洗浄履歴」がトレースできる体制を早期に整えること、そしてバイヤーと密に情報共有し「原因追及」と「再発防止策提案」まで踏み込む視点が信頼構築の決め手です。
まとめ:表面改質は製造現場の未来を切り拓く
シリコンカップへの印刷品質向上は、単なる技術選定だけでなく、現場プロセス全体の見直し・連携強化を伴う「現場改革」の一歩です。
昭和型アナログからの脱却を図り、データに基づいた品質保証と、インク・装置メーカーを巻き込んだ共創体制をつくることがこれからの業界標準となるでしょう。
バイヤー・サプライヤー双方が「相手の目線」で語り合い、現場改善のサイクルを一緒に回すことで、より丈夫で美しい、そして持続可能な製造現場が実現していきます。
現場で使える本当に生きたノウハウの蓄積こそ、製造業の次の時代を切り拓く力です。
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