投稿日:2025年9月9日

製造業における持続可能な人材育成とSDGsへの寄与

はじめに〜なぜ今、製造現場の人材育成が問われるのか

製造業は、日本の経済を支える重要な産業です。
しかし21世紀の現在、製造現場には深刻な課題が山積しています。
技術者不足、高齢化、グローバル競争の激化、急速に進むデジタル化、サプライチェーンの混乱、そしてSDGs(持続可能な開発目標)への対応。

こうした時代背景の中で、製造業の持続的成長に不可欠なのが、人材育成の質と仕組みの抜本的な見直しです。
「人こそ最大の資産」と語られることは多いものの、現場ではアナログなOJT、形式的な教育がまだまだ根強く残っています。
この記事では、現場目線で実践的な人材育成のあり方を考察し、「製造業×SDGs」という視点を深堀りしていきます。

製造業に求められる人材像とは

1. 時代の変化を捉えた人材像

昭和期から平成、そして令和へ。
かつては「マニュアル通りに正確に作業できる人」「黙々と働く従順な人」が重宝されてきました。
しかし、デジタル変革、脱炭素化、グローバル標準化が進む今は「現状に疑問を持ち、自ら考え、変革に挑む人材」が強く求められています。

特に、サプライチェーンや調達の最前線では、「なぜ今このやり方なのか?」「効率化・省エネはできないか?」「SDGsの観点で本当に倫理的な調達か?」など、口だけでなく現場で行動に移せる人の存在が不可欠です。

2. デジタル&アナログのハイブリッド型人材

製造業は今、アナログからデジタルへの転換期にあります。
完全なデジタル化を急ぐ企業もありますが、日本独自の「現場力」「カイゼン」文化は、アナログ的な知恵と工夫に支えられてきました。
したがって、IoTやAI活用など新しいツールと、手作業・五感・経験値を生かす二刀流のハイブリッド型人材が最も活躍できる土壌があります。

人材育成を取り巻くアナログ業界の現実

1.「教えるのが苦手」な現場リーダーの実態

多くの現場では、優れた技術者が必ずしも優れた指導者とは限りません。
「俺の背中を見て覚えろ」「感覚でやれ」といった伝統的な教育は、若手社員や多様な人材には通じにくくなっています。
また、属人的な技能伝承は、決して持続可能とはいえません。

2. 必ずしも機能しない従来型のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)

多くの製造現場では、OJTが人材育成の中核を担っています。
しかし、現場の多忙、リーダーの余裕のないスケジュール、教育担当のノウハウ不足によって、「教えているようで教えていない」「スキルの平準化ができていない」といった課題が散見されます。

3. SDGsへの寄与を意識できていない

「生産」「品質」「納期」「コスト」には敏感でも、「人材育成」や「社会的責任」「多様性」といったSDGs文脈はまだ薄い場合が多いです。
ですが、これからの人材育成にはSDGsの価値観を土台に据えることが不可欠です。

持続可能な人材育成とは

1. 現場主導のカイゼン型人材育成

現場で長年経験を積んできた私たちからすると、持続可能な人材育成で最も実効性があるのは「現場主導のカイゼン」です。
たとえば、日々の朝礼や5分間ミーティングで「昨日の気づき」を共有したり、週1回のカイゼン提案を義務化したりすることで、若手にもベテラン技術者にも小さな挑戦意識が根付きやすくなります。

通常のカリキュラムやマニュアルだけでは身につかない「現場発想力」「課題解決力」を磨くために、このような取り組みがSDGsの「継続的な成長」ゴールにも寄与します。

2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)時代の教育環境整備

デジタルツールやeラーニング、VRシミュレーションを活用した技術伝承は、今後ますます重要です。
さらに、調達・購買など専門性の高いポジションでは「グローバルな調達倫理(CSR/ESG視点)」「リスクマネジメント」「データ分析能力」など、旧来型教育では網羅できないスキルも求められます。
これらを社外セミナーやオンライン講座、社内勉強会など、多様な学習機会で補完する仕組みづくりがカギになります。

3. 多様性を活かし、誰もが活躍できる現場づくり

SDGsの「ジェンダー平等」「働きがいも経済成長も」の観点からも、多様な人材が自分らしく力を発揮できる環境づくりは不可欠です。
女性技術者、外国人労働者、高齢者、障がい者、それぞれの個性やバックグラウンドを尊重し、得意分野を最大限活かす配慮や仕掛けを現場主導で設計すれば、従来にはないイノベーティブな発想も生まれやすくなります。

バイヤー・サプライヤーの視点で考えるSDGsと人材育成

1. バイヤーに求められる知識と姿勢の転換

調達購買人材にはこれまで、「安く買う」「納期厳守」「品質重視」といった3大鉄則がありました。
しかしグローバルなSDGs時代、社会的責任調達(CSR調達)やグリーン調達、サプライチェーン全体のサステナビリティへの配慮が重要になっています。

バイヤー自身がSDGsの知識を持ち、自社だけなく取引先企業の人材育成状況や働き方、労働環境にも目配りしながらパートナー選定を行うことが今後の競争力になります。

2. サプライヤーが押さえておきたい「SDGs視点での現場改善」

サプライヤーとして納入先バイヤーのニーズを的確に捉えるためにも、自社の人材育成がSDGs文脈と整合していることを明確に示す必要があります。
たとえば、「技能実習生への教育体制」「ダイバーシティ推進事例」「作業の省エネ化や省資源化」などを客観的なデータや実績として示すことで信頼度は格段に高まります。

昭和から続く“アナログ文化”をどうアップデートするか

1. 口伝文化から「本質的な見える化」へ

日本の現場には、仕組みではなく「人」に頼りきりのノウハウ伝承という課題があります。
持続可能な人材育成のためには、「なぜこうするのか」「このやり方の本質は何か」を記録し、誰でも見れる資料にまとめ、定期的な更新と共有を徹底することが重要です。

2. KAIZEN(カイゼン)の海外展開×人材育成

昨今、多くの日本企業が海外展開し、現地スタッフの育成にも課題を抱えています。
この際、昭和時代に現場で行われてきた「カイゼン活動」は、形式だけを輸出しても根付きません。
“結果よりプロセス重視” “失敗から学ぶ姿勢”など、根本の価値観を現地スタッフにもわかりやすく伝える工夫が求められます。

人材育成をSDGsの視点で社内に浸透させるコツ

1. 目先のKPIより「未来のあるべき姿」にフォーカス

SDGsの視点は短期的な成果よりも、組織の社会的意義や持続的成長に重きを置きます。
人材開発KPI(教育受講率や資格取得者数)だけを追いかけるのではなく、5年後10年後の現場、社会の理想像から逆算してカリキュラムや評価制度を再設計すべきです。

2. 経営層と現場リーダーの密接な連携

「人づくり」に本気で取り組むには、経営層のコミットメントと、中・小規模単位(工場や現場ごと)の現場責任者の相互理解が不可欠です。
現場リーダー自身が「SDGsや多様性の意義」「バイヤー・サプライヤーとしての社会的責任」を肌で理解することが、ボトムアップ型の人材育成改革の起爆剤になります。

まとめ〜持続可能な成長のカギは“人”にあり

激しい競争、多様化が進む製造業界ですが、現場目線で見れば「変わるべきもの、守るべきもの」のバランスが重要です。
OJTや暗黙知の伝承と、新たなスキルのデジタル化、SDGsの価値観との融合。
これらを行き来しながら“人づくり”を進めることが、企業の持続成長、社会貢献、そして現場で働く一人ひとりの働きがい・幸せにつながります。

ぜひ明日から、現場の小さなカイゼンからSDGsの視点まで、一歩踏み込んだ人材育成のあり方を模索してみてはいかがでしょうか。

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