投稿日:2025年9月1日

モジュール設計に切り替え標準部品の再利用で物流と製造の費用を同時削減

はじめに ― 製造業のコスト削減には本質的な変革が必要

製造業の現場では、常にコスト削減と効率化が求められています。

特に人手不足や原材料価格の高騰、グローバル競争の激化など、私たちを取り巻く経営環境は昭和の時代とは比べものにならないほど厳しさを増しています。

「人を減らす」「在庫を持たない」「リードタイム短縮」といった表面的な取り組みだけでは、真の競争優位は築けません。

本記事では、私が20年以上にわたって現場で体験してきた知見をもとに、モジュール設計への切り替えと標準部品再利用による物流・製造コスト削減の極意をお伝えします。

調達・購買、生産管理、品質保証など、多職種目線での解説も交え、バイヤー志望者やサプライヤー、製造現場で悩む方に役立つ実践記事としてまとめました。

モジュール設計とは ~なぜ「部分」の思考が主流になるのか~

従来の製品設計とモジュール設計の違い

従来の多くの製造業では「製品一台丸ごと」の設計思想が根強く残っています。

各部品は仕様や案件ごとに都度最適化され、一品ごとに違う仕様で図面が量産されていきます。

一方、モジュール設計とは機能単位や工程単位、部品単位で設計標準を構築し、それらモジュール(ユニット・サブアセンブリ)を組み合わせて全体製品を完成させる設計思想です。

車の「プラットフォーム」や家電製品の「ユニット共通化」、さらにはIT業界の「API連携」などにも通じる現代型の設計哲学です。

モジュラーデザインがグローバルな競争力を生むメカニズム

モジュール設計はグローバル化・多品種少量生産時代にこそ実力を発揮します。

理由は2点あります。
1つ目は、顧客ごとに必要なカスタム部分(バリアント)だけを設計・生産すればよく、共通部分は量産効果・在庫削減・品質安定化が見込めること。

2つ目は、市場や技術の変化に応じて必要なモジュールだけ差し替えたり刷新したりできるため、開発リードタイムが画期的に短縮できることです。

この点は、自動車や家電だけでなく、精密機器、建材、食品製造装置など、私たちの業界でも大きな成果をあげてきた鉄則といえます。

標準部品の再利用 ― 暗黙知から仕組み化への転換

「ウチの部品は全部特注」からの脱却

「うちの工場の部品は全部独自設計で、汎用品じゃ成り立たない」

このように語るベテラン技術者の声を何度も聞いてきましたが、実はプロセスをよく観察し棚卸ししていくと、意外にも多くの部品は他製品でも流用可能であったり、わずかな寸法違いしかなかったりします。

部品数が多く、SKU(品番)がどんどん複雑化すればするほど、調達・購買現場や物流現場は混乱し、在庫や手配ミス、納期トラブルが絶えません。

標準部品の再利用は、こうした無駄なバリエーションを大胆に棚卸し・集約・仕組み化する現場改革の第一歩です。

標準化の実践ステップ

標準化推進は、一朝一夕では進みません。

私の経験から下記の手順を推奨します。

1. 現品(または3Dデータ・図面)を横串抽出し、部品点数・類型ごとに集計
2. モジュール単位、部品単位の共通化・互換性の可能性を徹底的に議論
3. 社内ルールとして「新規部品採用のハードル」を設置。既存部品再利用を最優先
4. 「標準部品リスト」を全社員でアクセスできる形で整備・運用
5. 調達・購買担当も新規調達先開拓の前に既存供給網の有効活用を徹底

こうした地道な社内運動を定着させることが、デジタル化や自動化以上にまず必要な“現場のアナログ変革”といえるでしょう。

物流コスト削減におけるモジュラー化と標準化の威力

リードタイム短縮の本質は「到着点数の削減」

物流費の無駄を語るときに真っ先に挙がるのが「一度の仕掛け荷が捌ききれない」「指定寸法が細かすぎてパレット積みできない」といった問題です。

これらは、部品バリエーションが過剰であったり、寸法や形状、包装仕様がバラバラであったりする場合に顕著です。

モジュール設計と標準部品再利用で取り扱いSKU数が削減できれば、輸送ロットの大口化、積載効率向上、伝票・検品工数削減が実現します。

さらに、同じ定型部品だけを扱うことでサプライヤー側の製造効率もアップし、運賃単価の値下げ交渉や長距離輸送の集約も進めやすくなります。

「どこから」「どこへ」運ぶのかの見直し力

加えて、モジュール化が進むほど各部品(または組立ユニット)の最適配置や外部委託(アウトソーシング)も柔軟に設計できます。

日本全国またはグローバルサプライチェーンに最適な物流網を再設計することで、無駄な梱包や全国一律納入体制から脱却できるようになります。

現実には、物流会社との連携や現場スタッフの教育、新たな物流拠点設計などの追加マネジメントも欠かせません。

この「物流設計=部品モジュール設計」と捉える視点は、昭和型「現物主義」から最先端の「設計主導型調達」へと進化するうえで不可欠なラテラルシンキングです。

製造コストへのインパクト ― トータルコストリダクションの本質

調達・製造・品質・設計が一体となった現場プロセスの再構築

標準部品再利用は、単なる設計側だけの議論に終始しがちですが、真の効果は「調達-生産-物流-品質管理」すべてが横断的につながったときに最も大きくなります。

私たちが実際に行ってきた現場改革のなかで、最初に見直すのが
・発注単価(調達ボリューム増加によるコスト低減)
・物流コスト(積載効率、輸送回数低減)
・生産準備費(同一型治具の転用、工程短縮)
・品質保証活動(同一部品のため要員教育や評価フローが集約)
です。

これらが複合的に絡み合うことで、単年度で数パーセント、5年計画で10~20%のコスト削減も決して夢ではありません。

「属人化防止」効果の付随価値

部品を標準化し再利用する活動は、人に依存しない現場運営への第一歩でもあります。

特定のベテラン技術者や購買担当でしか把握できない「暗黙の仕様」「経験的発注」から脱却し、新人でも理解できる設計・製作・管理体制へと変革が進みます。

これは現場のリテンション(定着性)や、若手人材の教育効率化、さらにはIT活用・自動化投資の前提基盤ともなります。

サプライヤーの立場から見る”バイヤーの視点”

なぜバイヤーは標準化を進めたがるのか?

サプライヤーの皆様が気になるのは「なぜ急に標準化を迫られるのか」「これまで許容していた特注対応が制限されるのはなぜか」という疑問でしょう。

実際、私たちバイヤー側でも利益確保のための「予算管理」だけでなく、グローバル競争や納期約束厳守、法令順守対応まで、危機管理意識が年々高まっています。

そのなかで「標準部品再利用」は、納期遅延・在庫余剰・品質クレームなどのリスク低減とイコールなのです。

また、標準化された部品の調達は年間契約や長期契約に発展しやすく、サプライヤーの皆様にも「安定受注」「受発注効率化」「品質要求の明確化」といったメリットを必ずもたらします。

標準化提案が評価される時代へ

サプライヤーの方は、今後「既存納入部品の流用可能性」「余剰在庫活用提案」「モジュール納入形態の提案」など、既存システムに一歩踏み込んだ提案活動が求められます。

これらを積極的にバイヤーに提案できるパートナー企業は、調達先の“発注元責任者”からの信頼も急速に高まっていくはずです。

私自身、こうした提案型サプライヤー企業様には長期契約や共同開発案件の打診を躊躇しません。

現場を深く観察し、バイヤー側の課題解決意識を共有することで、取引関係は決して「値下げ交渉一辺倒」にはならず、共存共栄の道が自ずと開けます。

昭和のアナログ業界を変えるための課題と展望

「現場の納得感」を得る社内コミュニケーション

いくら論理的にモジュール設計・標準化の重要性を訴えても、実際の現場運用部門の納得感・腹落ちがなければ、一度はルール化しても形骸化する恐れがあります。

現場の声を丁寧に聞き取り、
・なぜその部品バリエーションが必要なのか
・どの業務フローが標準化の壁になっているのか
・取引先との調整はどのような負担があるのか
といった現実課題を浮き彫りにし、少しずつ段階的に実装することが重要です。

私が工場長や購買責任者を務めた際も、「全品一斉標準化」ではなく、「1モジュールずつ、複数現場で成功体験を積む」という漸進方式が一番成果を出してきました。

デジタル×アナログの最適融合

また、近年はBOM(部品表)管理システムや図面データベース、自動発注システムなどDX(デジタル改革)の導入が加速していますが、ベースとなる部品モジュール設計思想や標準部品データの徹底運用がなければ、いくらシステム導入しても機能しません。

アナログのよさ――現場の知見やOJTでの柔軟対応と、デジタルツールを適切に融合した運用モデルづくりが、これからの競争力源泉となるでしょう。

まとめ――現場発の未来志向戦略として挑戦すべき

モジュール設計への切り替えと標準部品の再利用は、昭和から続く「現場合わせ」や「属人化」に頼った生産体制から、未来志向の「トータル最適化」に変革する最良の起点です。

物流と製造のコストを同時に削減し、迅速で安定したサプライチェーンを構築するために、ぜひ今こそラテラルシンキングで深く深く現場プロセスを見直しましょう。

実践には凄まじい根気と情熱、全社的なコミュニケーション力が求められますが、その先にはアナログ業界でも実現可能な新たな地平線が待っています。

バイヤー、現場管理者、サプライヤー、そしてこれから製造業を志す全ての方々にとって、本記事の知恵が未来志向の一歩となれば幸いです。

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