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スルーホールとビアインパッドの切替基準で歩留まりとコストを両立

目次
はじめに
製造業の現場では、常に「高品質」と「低コスト」の両立が求められています。
特にプリント基板(PCB)の設計工程においては、伝統的なスルーホールか、あるいは近年主流になりつつあるビアインパッド(VIP: Via in Pad)を選択するかが、歩留まり向上やコスト抑制の成否を大きく左右します。
本記事では、現場目線でスルーホールとビアインパッドの切替基準を掘り下げつつ、昭和から続くアナログ的発想と現代のラテラルな最適解を交えながら、実践的な判断軸を共有します。
スルーホールとビアインパッドの基礎知識
スルーホールとは何か
スルーホールは、PCBを貫通する形で設けられる穴にメッキを施し、部品のリードや配線を接続する伝統的な形態です。
この工法は製造実績も豊富で、確実な導通と機械的な強度を実現できるため、長く日本のものづくりの現場で愛用されてきました。
ビアインパッドの概要
一方、ビアインパッドは表面実装部品のパッド内にビア(貫通孔や埋めビア)を設ける工法です。
高密度実装や省スペース化が求められる現代の小型電子機器では不可欠な工法となっています。
ただし、スルーホールより製造難易度が格段に上がること、歩留まりやコスト面での最適化が複雑になる傾向があります。
歩留まりとコストがなぜトレードオフになるのか?
ものづくりの現場では、歩留まり(良品率)の向上とコスト削減は相反する要素として語られることが多いです。
なぜなら、歩留まりを厳しく管理するには、どうしても厳正な検査や品質工程、リワーク(修正)工程が必要となり、人件費や材料費が上昇するためです。
特にビアインパッドの場合、微細化・高密度ゆえに欠陥発生率が高まりやすく、その影響が顕著に現れます。
昭和のアナログ思考と現代的な最適化の対立
昭和から続く製造文化では、「スルーホール=安全・安心・故障しづらい」という共通認識が根強く残っています。
設計~製造~検査すべての担当者がアナログ回路、冗長設計、マージン重視──と無意識に刷り込まれたルールで仕事を回していました。
しかし、現代のグローバル市場や、IoT・5G化に伴う部品点数増加、小型化の波には、従来のままでは対処しきれません。
実際、海外サプライヤーやEMS企業ではビアインパッドやビルドアップ基板など新しい工法を標準化しつつあります。
スルーホールとビアインパッドのどちらを選択すべきか?切替基準のラテラルシンキング
従来は単純なスペックや過去の経験値だけで選択基準を定める現場も少なくありませんでした。
ここでは、現場のベテランから若手設計者、購買、サプライヤーの皆さんまで納得できる判断軸を、ラテラル思考で立体的に整理します。
1. 部品実装密度・基板サイズによる判断
・高密度実装、高多層基板、小型化要求が強い場合は、ビアインパッドを積極的に検討します。
・実装密度が低く、基板スペースに余裕がある場合は、歩留まり安定化を優先してスルーホールを選ぶべきです。
2. 製造パートナーの技術力・コスト構造
・国内外ともに、ビアインパッドを高歩留まりで製造できる協力工場を確保できるかが重要です。
・スルーホールは汎用技術としてほぼどこの基板メーカーでも安定供給可能ですが、VIPは対応可能工場が限られます。
・見積・原価構造を丹念に精査し、「ビアインパッドにしたのに意外にコストダウンできなかった」というミスを防ぎます。
3. 品質要求・信頼性規格への対応力
・車載や医療、インフラ関連など、極めて高い信頼性要求が課される案件では、部品脱落・クラックリスクの低いスルーホールを選びやすいです。
・一方、品質規格がスペースや薄型化を優先している場合は、ビアインパッド活用も十分検討に値します。
4. 生産数量・ロット特性
・ビアインパッドは小ロット~中ロットの多品種生産で恩恵が出やすい一方、大量生産の場合は治具や工程管理費が高騰するリスクがあります。
・スルーホールは量産実績に裏打ちされた安定コストで推移しやすい傾向にあります。
現場から見た注意点と歩留まり改善のヒント
ビアインパッドの課題と解析結果
ビアインパッドの歩留まり低下の主原因は、はんだボール吸い込み不良(部品座屈・空洞化)や、メッキ工程での細孔部欠陥にあります。
設計・工程面で以下のポイントに注意が必要です。
・パッド径とビア径のクリアランス最適設計
・埋めビア(充填)後の平坦化研削品質
・メッキ厚みと均一性確保
また、各工程での欠陥解析・未然防止策(FMEA、工程FMEAやCAE活用)も有効です。
スルーホール実装品のコストダウン限界と工夫
昭和型のスルーホール設計では、余計なマージンの付与や、単純な片面配置が多く、スペースあたりの部品点数に限界がありました。
ここで、以下の工夫が現場目線では有効です。
・リード部品を一部表面実装へ転換
・スルーホール配置の冗長性の見直し、最短パターン設計
・高密度 一体化設計による基板削減
こうした工夫により、旧来技術でも歩留まりとコストダウンの両立が期待できます。
ポジション別、切替基準の考え方
設計者の立場
・仕様書や顧客要求だけで盲目的にビアインパッド/スルーホールを選択するのではなく、実装密度、歩留まり、コスト、サプライチェーン動向を多面的に検証します。
・特徴ごとの欠点・リスクを前工程から先取りすることに努めましょう。
生産管理・工場長の立場
・スルーホール、ビアインパッド各工程の歩留まりデータを不断に蓄積し、「現場の事実」から最適工法を設計部へフィードバックできる仕組みを作ります。
・設備投資や協力サプライヤーの技術教育も同時進行で考えます。
バイヤー/調達担当の立場
・サプライヤーごとの技術差、加工枠や納期、工程リスクを正しく把握し、単なる「見積比較」に留まらない本質的選定が求められます。
・海外EMS、低価格基板業者との比較試作や切替コスト・歩留まり試算を必ず行うべきです。
サプライヤーの立場
・バイヤーが何を重視しているのか(価格だけなのか、納期、品質、歩留まりをどう定義しているのか)を正確につかみ、技術提案力を磨く必要があります。
・自社のできること・できないことを明確にし、問題発生時のフィードバック&協働改善体制を強化します。
実際の現場導入事例と最新トレンド
たとえば、次世代カーエレクトロニクス開発現場では、高密度・小型化要求および軽量化要請からビアインパッド化への転換が進みつつあります。
しかし、設計初期段階では、コア部にスルーホール、高密度部はビアインパッドという「ハイブリッド設計」を導入し、歩留まり改善とコスト最適化を両立するアプローチが実例として増えています。
また、海外EMSではAIやIoT技術を活用した、工程ごとの品質ビッグデータ管理手法により、ビアインパッドの欠陥予測や歩留まり向上が加速しています。
日本国内でもDX化や工程自動化の流れの中で、こうした新潮流を早期に現場へ導入することが競争力の鍵となるでしょう。
まとめ:歩留まりとコストの「両立」を一段高くデザインしよう
スルーホールとビアインパッドの選択・切替えは、単なる技術論争を超え、現場、調達、設計、サプライヤー各々の「ものづくり哲学」と「現実的制約」のせめぎ合いの中で答えを出すべきテーマです。
重要なのは、各技術の長所と短所を正しく理解し、自社・自工程の特性や市場要求、サプライチェーンの実力を「横断的・立体的」に見極めることです。
時代は急速に進化しています。
従来の成功体験に固執するのではなく、ラテラルな発想と現場ファクトを結集することで、「歩留まりとコストの両立」を一段高い次元で実現し、製造業の持続的発展に貢献していきましょう。
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