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導入システムが自社工程に合わず追加開発費が膨らんだケース

目次
はじめに
IT化やデジタル変革の波が製造業にも押し寄せる現代、多くの企業が業務効率化や生産性向上を目指してシステム導入を進めています。
しかし、昭和時代から続く現場のアナログ手法や独自の慣習が根強く残る製造業において、「導入したシステムが現場の実情に適合せず、想定以上に追加開発費が増大してしまった」という声は後を絶ちません。
今回は、大手製造業メーカーで20年以上の現場経験を持つ筆者が、システム導入失敗例の実態、原因、そして真に現場力を高めるためのラテラルシンキング的なヒントを、バイヤーやサプライヤー、現場で働く全ての方へ向けて解説します。
製造業でよくあるシステム導入失敗のパターン
1. クラウド型生産管理システム導入で生じたギャップ
近年、クラウド型の生産管理・調達購買システムの導入が増加しています。
しかし自社独自の工程フローや紙中心の運用、手作業での帳票管理などが主流の企業では、システムパッケージの標準仕様が実態と乖離し、追加要件が次々と生じます。
例えば、
・「工程ごとに伝票番号が分かれているが、標準機能では一括処理となってしまう」
・「独特な現場用語や帳票様式が組み込まれていない」
・「日々の小さな数量調整や急な仕様変更が標準フローだと吸収できない」
こうしたケースで、都度追加開発費やカスタマイズ料金が膨らみ、当初の見積もりから数倍に至る事例も珍しくありません。
2. SAPやERPのロールアウトで想定外の費用増加
グローバル展開している製造業では、海外本社主導での統合ERP導入が進みます。
しかし、海外標準プロセスのまま導入を進めると、日本独特の「かんばん」や「現品票」など現場管理の仕組みが再現できず、運用現場から大量の追加要件要望が発生。
結果として、要件定義や運用調整、追加開発費用が予算を圧迫し、「結局は現場ルールにシステムを合わせるために膨大な追加コストを払った」という声も多いのが実情です。
3. IoTやAI自動化プロジェクトでのカスタマイズ地獄
最近はIoTやAI活用のスマートファクトリー化が注目されています。
ですが「現場の通信手段や設備の世代がバラバラなため、標準IoTプラットフォームにデータをつなげられない」
「AI解析の前提となるデータ品質や数量が不足している」
など、日本特有の老朽化設備や職人的ノウハウの壁に突き当たり、追加機能開発と周辺整備に予算が吸われてしまう――こんな落とし穴もあります。
なぜ追加開発費が膨らむのか?“昭和の現場力”と“標準システム”のズレ
現場は「最適化の天才」だが、「標準化」には弱い
日本の現場は、長年培われたカイゼン精神と現場力で、既存システムが不便でも紙やExcel、自己流のワークアラウンドでどんどん帳尻を合わせてきました。
一方、ITベンダーが提供するシステムは世界基準の「標準化」「シンプル化」に則っています。
見かけのプロセスは似ていても、微妙なニュアンスの違い、ちょっとした帳票レイアウトの差、小回りの効く例外処理――こうした現場の肌感覚に、パッケージはなかなか寄り添えません。
そのままでは現場が回らず、結局あとから「やっぱりこの帳票が必要」「現物管理バーコードをもっと細かく切りたい」など、都度都度の追加要件が発生してしまいます。
要件定義時のコミュニケーションギャップ
多くのシステム導入プロジェクトでは、「現場代表」として出るのが管理職や生産管理担当者であり、実作業者・ラインエンジニアの潜在的な作業癖や要求事項が取りこぼされるケースが目立ちます。
ベンダーと現場担当の言葉・思考法・価値観の差は意外に大きく、
「何となく現場を見せて概要を説明したが、阿吽の呼吸や運用の小ワザを伝えきれなかった」
といったすれ違いが、後々「こんなはずでは」「えっ、それができないの?」の元凶となるのです。
教育・マニュアルコストも見落とされがち
新システムには当然、操作教育やマニュアル作成、運用ルールの再整理が付随します。
「現場のベテランが使いこなせるようにするには」「これまでの紙手順を誰もが再現できるようにするには」など、目に見えない教育・移行コストが当初見積もりからこぼれやすい点です。
結果、追加のトレーニングや一時的なアナログ併用運用などで人件費も膨張します。
実践現場から見た「システム導入失敗」を防ぐカギ
1. 小さなテスト導入と現場巻き込み型PDCA
ラテラルシンキングの視点から提案したいのは、
「机上(オフィス)での要件定義」よりも「現場(ライン)」でのトライ&エラーを軸とするアプローチです。
たとえば、最小単位の工程や限定された部署にまずテスト導入し、「本当に使えるか」「例外フローに耐え得るか」を現場リーダーや作業者と共に確かめます。
現場目線の「困ったことリスト」や「必要な帳票トップ10」を日々アップデートし、「これは根深い現場慣行だが本当に残す必要があるのか?」とラテラル(水平)に再検討する場の設計も有効です。
2. “アナログ資産を活かす”システム連携発想
無理に全てをパッケージ標準化・デジタル化するのでなく、「現場の手書き帳票をスマホ撮影・OCRで一部自動化」「ベテラン技能の勘所を音声メモで共有+AI解析」など、既存慣習を柔軟にシステムへ連携する発想が重要となります。
“昭和的な帳票管理や現場ノウハウも、実は競争力の源泉”という視点を持ちつつ、段階的スモールスタート&現場共創の変化を重ねることが、追加費用の暴走を抑えるコツです。
3. バイヤー×サプライヤーの共感・共創型コミュニケーション
システム導入プロジェクトの真の成功には、「発注側(バイヤー)」「受注側(サプライヤー)」双方の立場理解と、現場への本気の共感・共創が不可欠です。
発注側は「なぜ現場はこのクセを手放せないのか」を掘り下げ、受注側は「技術的制約や標準パッケージの論理」を丁寧に説明し、「どこまでカスタムし、どこから標準に歩み寄るか?」の落とし所を協働で見出す対話が求められます。
あえて、バイヤーが「現場体験会」「悩みクエスト」を主催したり、サプライヤー側が「現場疑似オペレーション」を研修に取り入れるなど、双方向での深いインタラクション、相互ラーニング型のプロジェクト設計が最も効果的です。
バイヤー目線・サプライヤー目線で見る“落とし穴”とその対処法
バイヤーの方へ
— 安易な「全部入り」要望のワナ
バイヤーとしては「現場の要望全部を詰め込めば安心」と思いがちですが、複雑化しすぎた要件は「結局誰も使いこなせない」「動作が重いしイレギュラーだらけ」といった落とし穴があります。
本質的には、「何が本当に必要で、何は無くても耐えられるか」「現場独自ルールを標準フローに統合するとしたら何が痛点か」――この本音の“切り分け”“優先度付け”こそがプロジェクト成否を握ります。
サプライヤーの方へ
— 標準パッケージの意義と“現場カイゼン文化”の両立
サプライヤーは「パッケージ通りに動けばベスト」「標準化が世界基準」と考えがちですが、日本の現場で“運用ルールの変遷”や「現場スタッフによるカイゼンスピード」を軽視すると、追加開発の泥沼に陥ります。
最初から、
「この機能は標準のまま運用変更できるか」
「どうしてもカスタマイズが必要か」
「現場による継続カイゼンは誰が引き継ぐか」
と、未来志向のロードマップをユーザーと共に描く姿勢が不可欠です。
まとめ:「現場の“暗黙知”と“標準化”の橋をかける」ために
製造業のシステム導入では、「現場の知恵」と「標準システム」の溝が、追加開発費や運用混乱という形で繰り返し現れます。
本稿を通して伝えたいのは、
—現場力は決して時代遅れではなく、真の競争力の源泉である
—ラテラルシンキング的に発想を飛ばし、“両極をつなぐ道”を探ることが次世代の現場をつくる
—バイヤーもサプライヤーも、現場共創・相互理解を深める新しいプロジェクト型コミュニケーションでこそ、追加費用の肥大化を防げる
という点です。
現場とIT、伝統と革新——双方の知の融合こそが、今後の製造業を進化させる起爆剤となります。
皆さんの現場から、「現代型ものづくり」の地平線が開かれることを願っています。
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