投稿日:2025年9月6日

複数工場間での発注情報共有を可能にするシステム活用術

はじめに ― 製造業の発注情報は「工場ごと」の時代から「つながる時代」へ

現場の発注担当者として、あるいは管理職として、工場それぞれが独自に購買・発注情報を管理している状況にモヤモヤを感じた経験はありませんか。
昭和のアナログ時代から根強く残る「工場ごと」管理の文化は、依然として多くの日本の製造業で見受けられます。
しかし、グローバル化・多品種少量生産・部品調達の多様化が進む今、複数拠点を持つ製造業にとって「発注情報の全社横断的な共有」は避けて通れない課題となっています。

本記事では、20年以上の製造業現場経験者の視点から、複数工場間で発注情報を効率的かつ安全に共有する方法を徹底解説します。
最新技術だけでなく、現場にも根付く昭和的な文化や「変化に対する抵抗感」にも寄り添いながら、具体的なシステム活用術・運用上の注意点・業界動向・現場改善のヒントまで惜しみなくご紹介します。

なぜ複数工場間で発注情報を共有すべきなのか

部分最適から全体最適へ ― サプライチェーンマネジメントの進化

従来、発注業務は「現場ごと」の裁量に任されがちで、システム化や標準化が遅れる理由の一つとなっていました。
この背景には、現場=現地現物主義の考えが根強く、「本社と現場」「工場Aと工場B」では発注ルールや納期が異なり、横並びの情報連携は”無理”と断じる風潮がありました。

しかし今、グループ全体のコスト競争力・サプライチェーン健全化・リスク分散の観点から部分最適ではなく全体最適の追求が不可欠です。
発注情報の共有は、先進的なサプライチェーンマネジメント(SCM)の基盤となるだけでなく、納期遅延リスクの予知、共通部品の一括購買によるコストダウン、異常時の柔軟な工場間代替生産など、多様なベネフィットをもたらします。

昭和型アナログ業務の“壁”と向き合う

とはいえ、紙伝票・FAX・ローカルExcelといった昭和型のオペレーションが多数残っているのが現実です。
業界や企業規模によっては「今までうまく回っていたから」「標準化すれば自分たちの工場の強みが埋もれてしまう」といった現場の抵抗も根強いです。

だからこそ、現場を尊重しつつ全体最適化を目指す「ラテラル(水平的)シンキング」が必要です。
テクノロジー導入と平行して、現場目線の課題ヒアリングや実証実験、教育・啓蒙活動など、文化・風土への浸透アプローチが欠かせません。

発注情報共有がもたらす具体的メリット

1. 一括購買によるコストダウン

工場Aと工場Bとで同じ部品をバラバラに発注するよりも、企業グループ全体でまとめ買いすることでサプライヤーへの交渉力が増し、単価交渉が有利になります。

特に汎用部品や副資材ではその効果が大きく、相見積依頼も全社一括で効率化できます。

2. 需給調整と納期短縮

複数工場間で在庫や発注情報をリアルタイム共有することで、ある工場で急な生産変動や不足が生じた場合でも、他工場の余剰在庫や発注分を融通できます。

この融通体制により、納期遵守率の向上、サプライチェーンの安定化に寄与します。

3. BCP(事業継続計画)強化に貢献

地震や火災など不測の事態が発生した場合でも、複数拠点で同じサプライヤー・発注履歴・仕入情報を共有していれば、速やかな生産移管や調達先切り替えが可能です。

4. 属人化リスクの回避と業務標準化

関係者全員が同じプラットフォーム上で情報を参照できれば、「あの人に聞かないと分からない」リスクを最小化できます。

受発注トラブル原因の解析や、品質問題発生時のトレーサビリティ確保にも役立ちます。

発注情報共有のシステム化は何から始めるべきか

導入の第一歩―「共通KPI」を定める

システム化を成功させるポイントは「まず何を共通化すればボトムアップ的にでも全社に広がるのか」を現場目線で選ぶことです。

例えば、「購買単価」「発注ロット」「納期遵守率」「在庫回転率」といったKPIを全工場で統一し、まず属人化したExcel管理からクラウドシステムへの置き換えを目指します。

段階的な導入・拡大が肝

最初から全社一括導入を狙うと反発が大きいため、まずはモデル工場のみパイロット運用し、成果・課題を洗い出します。

現場で生まれた声をシステム設計に反映し、徐々にスモールスタートから横展開していくことで現場の納得感も得られやすくなります。

システムはカスタマイズ可能なものを選ぶ

多拠点の業務標準化にあたっては、各工場の独自性をある程度維持できる「柔軟なシステム設計」が鍵です。

SaaS型(クラウドサービス)やローコード開発ツールを活用すれば、現場ごとの要望や変化にも素早く対応できます。

おすすめのシステム構成例と活用術

(1)クラウド型購買管理システムの導入

パッケージの購買管理システムやERP(Enterprise Resource Planning)には、多拠点対応機能を持つものが増えてきました。

基本的な購買伝票・発注処理・入荷管理をペーパレスかつ集約管理できます。

全工場の買掛金推移や発注残、サプライヤーごとの納入実績も一元的に可視化できます。

(2)サプライヤーポータルとの連携

サプライヤーへの見積依頼・発注・納期回答も、社内システムと連携できるサプライヤーポータルの導入で効率化が進みます。

逐一メールや電話をしなくても「全工場の発注状況・問い合わせ一覧」がサプライヤー側でも閲覧でき、コミュニケーションはよりスムーズになります。

(3)BI(ビジネスインテリジェンス)分析との併用

集約した発注データをBIツールで横断的に分析することで、「どの工場がどのサプライヤーから、どれだけ発注しているか」「発注単価が高止まりしている部品はどれか」など、経営判断にも資する可視化データが手に入ります。

(4)現場オペレーションを止めない工夫 ― ハンディ端末やIoT活用

出荷・納入・棚卸などでハンディターミナルやタブレットを活用し、現場担当者がリアルタイムで情報入力できるようにしておくと、事務所戻りによるタイムラグや“伝票たなざらし”を防ぐことができます。

また、IoTセンサーを活用した「自動在庫計測」「消耗品の自動発注移行」にも道が開けます。

アナログ業界でのDX推進事例 ― 成功のカギとは?

実録!抵抗勢力への向き合い方

多くの現場改善PJを手掛けてきた経験上、成功のカギは“現場ファースト”の姿勢です。

IT部門主導・経営トップダウンだけでは「使いこなせないシステムが導入された」「現場負荷が増えただけ」と逆効果に陥ることもしばしばです。

実際は、「これまでは紙で管理していた領収書をスマホでも即提出できるようになる」「作業工程中の気づき・異常もタブレットで伝達可能になる」など、現場目線での“ちょっとした業務楽”の積み重ねが突破口になります。

小さな成功体験の積み重ねが文化を変える

現場の一人ひとりが「この仕組みなら使えそう」「情報共有されてラクになった」と実感できる小さな成功を体験することで、アナログの壁は乗り越えやすくなります。

これを地道に積み重ねて現場の“口コミ力”を味方につけていくと、やがては工場全体、会社全体の文化へと根付いていきます。

将来を見据えて ― AI活用など次世代の発注情報共有とは

AIによる需要予測・発注自動化の潮流

従来の「人が注文書を作る」から、AIによる需要予測・自動発注へとシフトする動きが、先進的な製造業では始まっています。

複数拠点から吸い上げたデータを元に、AIが最適なロット・タイミング・サプライヤーを提案する。
これまではバイヤーや工場長の勘と経験で判断していた領域にも、“データに基づく新しい知恵”が使われつつあります。

異常検知・リスク察知にもAIを応用

通常の発注パターンから逸脱した動き(例:特定の工場だけやたら納期遅れが多い、特定のサプライヤーだけ著しく価格変動が激しい)をAIが異常検知し、早期対応策を提案できる仕組みも進化中です。

こうした仕組みによってサプライチェーン管理はさらに高度化・自律化していくでしょう。

まとめ ― 発注情報共有による現場・全体の“進化”を目指して

複数工場間で発注情報を共有することは、単なるIT導入だけでなく、現場目線の課題解決、ひいては会社全体の競争力強化につながります。

昭和型アナログの良さ(現場力)を残しつつ、新たなテクノロジー・仕組みを柔軟に取り入れるラテラルシンキングが、今まさに求められています。

製造業の現場担当者・バイヤーを志す方・サプライヤーの皆様が、よりオープンかつ効率的な発注情報共有の未来へ向けて一歩踏み出す、その参考となれば幸いです。

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