アパレル業界で重要な生地の“織り”と“編み”の違いを体系的に理解する

はじめに：アパレル製造業における生地の“織り”と“編み”の重要性

アパレル業界において、商品の品質や機能性を大きく左右する要素のひとつが「生地」です。

生地は衣服としての着心地や耐久性、デザイン性はもちろん、生産工程やコスト戦略、さらにはサプライチェーンマネジメントにも密接に関わってきます。

そして、生地は大きく「織り」と「編み」に大別されます。

織物と編物、それぞれの特性や製造プロセス、そして調達時にもたらす業界特有の商習慣や留意点は、バイヤーや製造現場だけでなくサプライヤーにとっても深く理解しておくべき知識です。

昭和から続くアナログ的なやり方が根強く残るアパレル業界において、今こそ“織り”と“編み”の違いと向き合い、現場目線で実践的な理解を深めることが、グローバル競争の勝ち抜く武器になるのです。

本記事では、アパレル業界で重要な生地の“織り”と“編み”の違いについて体系的に解説します。

現場感に根ざした実例も交え、製造・調達の最前線に立つ方はもちろん、これから業界を目指す方、サプライヤーの立場の方にも役立つ知見を共有します。

“織り”とは何か？基本構造と特徴

織物の構造：タテ糸とヨコ糸

織りとは、タテ糸とヨコ糸、二方向の糸を直角に交差させて作る生地構造です。

織物は、織機（着想は江戸時代の機織り）で、タテ方向に張った糸（経糸）に対し、ヨコ方向の糸（緯糸）を通しながら繰り返し交差させていきます。

このシンプルだが精密な構造が、織物ならではのメリットを生み出します。

代表的な織物の種類

織物には、さまざまな種類と組織があります。

例えば、
・平織り：基本中の基本。ジーンズなどにも使われ、耐久性に優れる
・綾織り：斜めの線が特徴で、スーツやトレンチコートによく用いられる
・朱子織り（サテン）：光沢が美しく、ドレスやブラウスとして人気

これらは糸の組み合わせ方と密度で大きく性質が変化します。

織物のメリット・デメリット

織物のメリットは、形崩れしにくく丈夫であることです。

シャツやパンツ、アウター等に多用され、布帛と呼ばれることもあります。

反面、伸縮性が低いため、曲面へのなじみが難しい、動きやすさとのトレードオフがある、というデメリットも持ち合わせています。

また、生産工程や品質管理が“連続生産型”になりやすく、糸切れや密度ムラの管理、生産設備の定期的なメンテナンスも欠かせません。

“編み”とは何か？構造と特徴の徹底解説

編物の基本構造：ループ形成

編みは、1本または数本の糸を「ループ」にして繋げていく構造が特徴です。

織物に比べると、糸が縦横で固定されるのではなく、編み目同士が絡まりあいながら柔らかく伸縮します。

そのため、仕上がった生地は“伸び”に富み、体の曲線に柔軟にフィットします。

代表的な編物の種類

編物にも多数の種類があります。
・丸編み（ジャージー）：Tシャツやインナー、カットソーなど
・横編み（セーター、ニット）：編み機で作る厚手のアイテム
・経編み（トリコット）：スポーツウェアやインナーのベース素材として

編みパターンや使う糸次第で、無限の風合いと機能を生み出せるのが魅力です。

編物のメリット・デメリット

編物の最大のメリットは、やはり「伸縮性」が高いことです。

着心地の快適さ、動きやすさといった観点から、多くのカジュアルウェアやスポーツウェア、インナーに採用されています。

逆に、構造が緩やかで糸抜け（ほつれ）や型崩れしやすいという課題もあります。

また、日常のアイロンがけや洗濯時の取り扱いにも注意が必要です。

編物の製造現場は多品種小ロット生産に向く一方で、大ロット一括発注には向かないケースも多く、生産調整力やサプライヤーとのきめ細かい調整、品質検査が重要になります。

織りと編み、現場目線の“使い分け”ポイント

実際のアパレル生産現場で、織物と編物を採用する判断軸はさまざまです。

ポイントはいかに着用シーンやターゲット層、コスト、調達リードタイムといった複数の変数を同時に捉えるか、という“ラテラルシンキング”が不可欠です。

用途別の生地選定フロー

例えば、制服やスーツ、ジャケットのように型崩れや擦れへの耐性が求められる衣料には織物を検討します。

一方、Tシャツやスポーツウェア、ベビー服、ルームウェアのように、肌なじみやフィット感を重視する場合は編物が主流になります。

近年はストレッチ糸を混合して異なる特性を融合させる“ハイブリッド素材”も注目されています。

コスト・納期・品質のトリレンマ

アパレルバイヤーが日々直面するのが「コスト」「納期」「品質」のトリレンマです。

織物は生地ロット単位での生産が比較的安定する反面、新規柄や特殊仕様の場合には最低発注ロットやリードタイムが長くなることも。

一方、編物はサンプル変更や小ロット対応は柔軟ですが、量産体制の整備・管理や品質安定が難しい場面も存在します。

織物・編物のどちらに振るかの見極めは、現場の生産管理・購買部門とサプライヤーの緻密なコミュニケーションが不可欠です。

アナログ業界の“昭和的商習慣”と現代的調達・生産管理の融合

数字と感覚のせめぎあい

筆者も20年以上現場経験を積む中で、特に痛感するのは「現場感」と「理論値」とのバランスの難しさです。

アパレル業界ではいまだに現物サンプルや見本反、実際の手ざわり・現物確認が重視される傾向があります。

生地商社を介した「口約束・慣例で決まる商習慣」や、「現物主義」の文化が根深く残っています。

一方で、グローバル化やデジタルシフトの中、設計段階から三者（企画・生産・調達）が密に連携し“根拠に基づく意思決定”が求められています。

見積もりと原価管理のリアル

生地の見積もりや品質交渉は、現物調達ならではの情報戦です。

・糸の太さや原材料起源（コットン、ポリエステル、ウール、特殊混紡など）
・加工の有無（シワ加工、防シミ防汚、撥水、抗菌など）
・最小ロット、別注カラー染色の必要性
これらによって「そもそも要求を満たすのは織りか編みか」から始まり、「どのような工場・設備ならリードタイムを確保できるか」「不具合時のリカバリはどう設計するか」と、調達戦略も大きく変化します。

サプライヤー目線で捉える“バイヤーの頭の中”

サプライヤーの立場でバイヤーと仕事をする際、「なぜバイヤーはそこまで織りと編みの区分にこだわるのか？」と疑問に感じることもあるかと思います。

その答えは、“最終需要に最適な品質を、適正なコスト・納期で確保する”という、バイヤーの重要な役割にあります。

・納期遵守のための工場の選定
・仕様変更時のイニシャルコストやリードタイム短縮要件
・最終商品のブランド戦略―「一瞬で離脱されないアイテム」を目指す
これら全てが、織物・編物それぞれの生産と流通特性に根ざしています。

また、バイヤーが価格交渉や品質基準でワンランク上を目指す理由は、「最終消費者の期待値をどこまで満たせるか」に集約されます。

サプライヤーとしては、自社の持つ“強み”を織物・編物双方の視点で整理し、納期対応力・品質管理力をどのようにアピールできるかが受注競争力になります。

まとめ：デジタル時代の生地選定とアパレル製造業の未来

織物と編物の違い、その特性や制作現場の管理手法は、アパレル業界の根幹を成す知識です。

現場に根ざした視点と、時代に即したデジタルツールやグローバル調達ノウハウが融合することで、今後のサプライチェーンはより変革していきます。

しかし、その基礎となるのは、“織り”と“編み”がいかに作られ、使い分けられているかという現場目線の理解です。

一人ひとりがこの本質を押さえることで、レガシーな業界にも新しい価値と競争力を持ち込むことが可能になります。

業界で働く皆様、これからアパレル調達・生産現場を志す方、そしてパートナー企業の皆様に、現場で積み重ねた知見が少しでも役立つことを願っております。