投稿日:2025年10月30日

漆器ブランドを海外で成功させるための食器衛生基準と素材認証対応

はじめに:日本の漆器ブランドとグローバル市場の現状

日本の伝統工芸である漆器は、その美しさや技術力の高さから、世界中で高い評価を受けています。
しかし実際に、漆器製品を海外市場に展開し、ビジネスとして成功させるためには、美観や機能性だけでなく、各国の食器衛生基準や素材認証への対応が必要不可欠です。
海外展開に失敗する多くの漆器ブランドが、衛生基準や認証制度への事前対応を怠っていたことに原因があるのも事実です。

漆器のバイヤーやサプライヤーとしてグローバル市場を目指す皆さんのために、この記事では、現場レベルでの実践的な対応策を中心に、各国の食器衛生基準や素材認証の概要、そして昭和から続くアナログ思考が無意識に障害になるポイントまで、幅広く解説します。

なぜ食器衛生基準と素材認証が重要なのか?

ブランド価値を守るための最低限の要件

大切なのは、漆器が工芸品としての価値を持つだけではなく、食品用食器として安心・安全であることが求められている点です。
現代消費者は、「口に入れるものへの不安」に特に敏感です。
万が一、海外市場で食の安全への不信が広がれば、ブランドイメージの大きな毀損だけでなく、法的なトラブルやリコール対応など大きなコスト負担が発生します。

輸出の障壁となる実務的リスク

各国にはそれぞれ独自の「食品接触材料規制」があります。
日本国内ではクリアできていた素材や工程でも、アメリカやEU、中国などの規制に抵触すると、現地通関でストップがかかる、もしくは流通後に販売停止・全量回収などのリスクが現実化します。
実際、日本国内で販売されていた漆器を米国に輸出した際、FDA(アメリカ食品医薬品局)の基準を満たしておらず市場撤退を余儀なくされた事例もあります。

各国における食器衛生基準の概要

アメリカ(FDA規制)

アメリカはFDA(Food and Drug Administration)によって厳格な基準が設けられています。
特に重要なのは、
・食品用漆(樹脂)がFDA規制適合品か
・塗布工程で食品接触部に有害物質が含まれていないか
・鉛、カドミウム等の溶出試験への対応
などです。

現場のポイントとしては、漆の原材料だけでなく、下塗り・下地、顔料や加飾部材の一つ一つまで仕様書を管理すること、そして第三者試験機関を利用して定期的に溶出テストを実施する運用体制づくりが欠かせません。

EU(欧州連合:EU規則 No. 1935/2004など)

EU市場では、食品接触材料規則(EC No. 1935/2004)を中心に、さらに適用される人為的添加物・有害物質規制(REACH規則)など多層的な法規制が存在します。
各国ごとの追加要件もあり、たとえばドイツのLFGB(食品・消費財法)では、国内独自の接触材リストやマイグレーションテストが求められます。

現地バイヤーから厳格な試験証明書やLotごとのトレーサビリティを求められる場面も多く、従来の「問屋に丸投げ」や「製造工程の暗黙知」では通用しません。
デジタル管理による根拠書類の保管・運用が実務上の成否を分けます。

中国(GB規格)

中国市場では「食品安全国家基準」(GB規格)が適用されます。
特に近年は消費者保護の観点から日本製工芸品への監視強化が進んでいます。
素材の由来証明や、製造現場における検査体制の情報開示、商品表示ラベル、現地語での証明書発行など、「リテラシーの壁」を乗り越えるためのきめ細かな対応が求められます。

漆器ブランドの現場で直面する課題とその打開策

①アナログ業界の弱点:製造工程の属人化

日本の工芸品/漆器業界は依然として「職人技術=紙や現場が最強」という風潮が根強く残っています。
しかし海外バイヤーが求めているのは「誰が」「どのロットも」「同じ品質で」生産できる仕組みです。
現場でよくあるのが、「先代からのやり方で大丈夫」と製造工程が暗黙知化・口頭伝承されていることです。

これを打破するには、
・全製造工程の詳細な手順書化
・原材料、工程、Lot管理のデジタル台帳化
・第三者試験データの定期取得と蓄積
が必須です。
システム化に抵抗がある現場こそ、「海外輸出への投資」と割り切って整理しましょう。

②素材調達における認証取得の壁

食品接触材規制への対応のためには、素材そのものが適合証明を持っていることが大前提です。
たとえば、漆の原料樹脂がREACH適合証明を持っていないと、全製品がNGになることも。
そこで必要なのは、調達バイヤーの立場として「サプライヤーチェーン全体」に認証取得を要求する視点です。
サプライヤーには日本市場より厳格な規格順守を「求める、指導する」という立場を徹底してください。
必要なら現地の第三者検査機関(SGS, Intertek等)の活用や、共同での素材認証取得に取り組みましょう。

③現場の反発・変化への抵抗を説得する方法

変化を嫌う現場には、「海外の厳しい規制はビジネス拡大の突破口になる」「認証は営業やブランド戦略の武器になる」と、前向きなビジョンで巻き込むことが有効です。
また、一度取得した認証や試験データは、他製品・アップセルにも活用できるため、中長期最適化というロジックで説明することも現場理解を得やすくなります。

成功事例に学ぶ:漆器海外展開のストーリー

京都のある老舗漆器メーカーでは、海外出展用製品の原材料調達から工程管理、出荷前工程に至るまで、全ての記録をデジタル台帳でクラウド管理する体制を整えました。
さらに、毎ロットごとに欧米の試験機関で溶出試験を実施し、その証明書を現地バイヤーへ「ワンパッケージ」として納品するスキームを確立。
アメリカ西海岸の高級レストランチェーンへの独占供給を実現しています。

実はこの現場でも、導入当初は「紙で十分」「過去に問題なかった」という声が大半でした。
しかし「目に見える形の証明」が海外進出の突破口になったことで、現場社員の意識が大きく変わったのです。
つまり、「衛生基準・素材認証=コスト」という短期視点ではなく、「グローバル展開の必須インフラ」と捉える視野が未来を開きます。

今こそ動こう:海外展開における次の一手

1. 情報収集と専門家ネットワークの活用

各国の法規制情報は頻繁に改正されます。
独力で追いけるのは限界があるため、業界団体やJETRO、現地代理店との定期的な情報共有会への参加、専門コンサルタントや試験機関の活用が必須です。

2. 体制整備と意識改革

「生産管理」「品質保証」「調達バイヤー」「サプライヤー」の4者連携で、サプライチェーン全体を巻き込む体制を構築してください。
また、社内教育やワークショップを活用し「自分ごと化」を促進すると、現場の変革スピードも上がります。

3. デジタル化の推進

台帳管理や証明書類の保存は、クラウド型の管理システムの導入が不可欠です。
Lot管理、トレーサビリティ管理、電子証明の発行、監査対応まで、一元化を早期に進めてください。

まとめ:変化をチャンスに、漆器ブランドを世界へ

漆器ブランドの海外展開は、単なる美しさや伝統性だけでは成しえません。
グローバル市場で戦うためには、食器衛生基準や素材認証への先手対応と、アナログから脱却した運用体制への移行が必須要素です。

現場の思い込みや変化への抵抗を乗り越え、バイヤー・サプライヤー目線で未来志向の現場をつくりましょう。
今こそ、地に足をつけた改革と、深く深くラテラルに思考する力が求められています。
伝統と革新が共存する漆器業界が、世界中の食卓を彩る未来は、これから皆さんの手で切り拓かれていくのです。

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