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パーカーのドローコードが絡まない構造と金具設計の工夫

目次
はじめに:パーカーのドローコードに潜む課題と、製造現場の視点
パーカーはカジュアルからスポーツ、ワークウェアまで幅広く愛用されている衣料品です。
その特徴的なパーツのひとつが、フード部分に備わるドローコード(紐)です。
ドローコードは見た目のアクセントだけでなく、フードの調整や防寒といった実用的な役割も担います。
しかし、多くの消費者やバイヤーが不満を口にするのが「ドローコードが絡まる」「紐先の金具が抜け落ちる」といったトラブルです。
これは一見、製品の小さな仕様問題に思えるかもしれませんが、製造やサプライチェーンの観点では膨大なクレーム・返品や該当工程の手間増大につながり、コストや品質保証の観点でも見過ごせない課題です。
本記事では、大手製造業で20年以上の工場管理・調達バイヤー業務を経験した立場から、パーカーのドローコードの絡み防止や金具設計にまつわる業界事情と、現場で実践できる具体的な工夫を探ります。
なぜドローコードは絡まりやすいのか?
主な構造的不具合と原因
パーカーのドローコードが絡まる原因には、製品設計・素材選定・加工工程・流通まで、複合的な要素が絡んでいます。
大きく分けると主に以下の3点です。
1.コード自体の形状・素材特性
ドローコードは主に丸紐(丸断面)や平紐(平断面)が使われます。
ナイロン、ポリエステル、綿などの素材が一般的ですが、柔らかすぎる紐や、表面が滑りやすい素材・織り方のものは、結び目になりやすい傾向があります。
2.フード本体やコードホール(紐通し口)の設計
コードホール(アイレット)が小さい、内側のテープパイピングのサイズが不適切、フード部の通路が細すぎる――といった設計では、紐の動きが制限されて途中で屈曲や捻れ、ひっかかりが発生します。
結果、何度か出し入れしているうちに2本の紐がねじれて結び目となり、絡まる確率が高くなります。
3.作業工程や物流・保管時の“もつれ”
縫製・組立現場、商品検品・梱包、そして流通倉庫や売り場でのハンギング・積み重ね――これらの過程で紐先がほかの製品の紐やタグ、フードなどと接触して絡まることも多発します。
さらに、商品梱包時のたたみ方やテープ止めのルールが徹底されていないと、箱を開けたとき一気に数本が“もつれ”てお客様の不満へ直結します。
「絡まり」トラブルが及ぼすビジネスリスク
「ドローコードの絡まり程度」と侮るなかれ。
実際、某大手アパレル量販店や有名スポーツブランドでは、消費者からの問い合わせ・返品理由として「紐が引っ張れない」「最初から結び目になっている」「金具が抜けた状態で届いた」など、ドローコード関連のトラブルは意外と上位に挙がっています。
工場や倉庫現場では追加の検品や紐の解き直し作業、人件費コスト増大が発生するのも見逃せません。
近年はEC(ネットショップ)流通が拡大し、現物を見ることなく買う人が増えたことで、ちょっとしたパッケージ不備や初期不良が致命的な悪評につながりやすい時代です。
バイヤーやサプライヤーは、製品差別化や品質保証向上の観点からも、「絡まないドローコード・金具設計」を無視できない潮流なのです。
現場で根付く“昭和”アナログ対応とその限界
現状維持バイアスによる標準品の使い回し
日本の老舗アパレルOEMや衣料資材メーカーの多くは、「今までこの仕様で大きなクレームにならなかった」「予算が限られていて変えにくい」を理由に、何年も同じ形状・同じ仕組みの紐と金具を使い回しているのが実情です。
また、CAD/CAM設計普及以前に決まった型紙や縫製基準書を現場でほぼ変えずに使っているケースも珍しくありません。
そのため、設計者の“勘”やベテラン作業者の“職人技”に寄る部分が大きく、スポット的な対症療法(絡みやすい時は紐を抜いて結び直すなど)で乗り切る文化が残っています。
部分的な作業改善に留まる慣習
縫製現場では、紐を通す前にアイロンで強めに折り癖をつける、紐先に仮止め用のテープを巻く、ひどい場合は先に硬貨や重りを仮付けして通しやすくする――など、現場レベルの“小技”が受け継がれています。
一方、設計段階で「そもそも絡みにくい・抜けにくい仕組み」自体を見直す試みは、全体最適・コストダウン・量産性・品質安定の兼ね合いから、なかなか現実化していません。
これは、部門間連携(設計・調達・現場・品質管理)の壁にも起因しています。
ドローコード絡み防止の新たなアプローチ
1. 素材・断面形状の最適化
近年注目されているのは、摩擦係数が低く、静電気も起きにくい新機能繊維をドローコードに採用する手法です。
例として、撥水系の合成繊維や抗菌糸、サラリとしたタッチのコットン混紡素材が一定の効果を発揮しています。
また、断面形状を「丸型」だけでなく、「楕円型」「波型」「溝付き」など、紐同士が自然に滑って重ならず散らばりやすいデザインにすることで、特定の部位で結び目(絡まり)ができにくくなります。
2. コードホール/フード周りの設計改良
界面(通し口)部分の径や内側通路の幅を数ミリ単位で見直すだけでも、「紐が引っかかる」「途中でねじれる」といったトラブルが大幅に減ります。
フード本体の裏地やパイピングをなめらかな新素材へ変更したり、スムーズな配線ルート設計をCADシミュレーションで検証したりするケースも増えています。
現場で組立治具や針金を使って通しやすさをテストし量産設計へフィードバックする試みは、現場と設計の協働による成功例といえます。
3. 絡まない先端金具(チップ・ストッパー)の開発
ドローコードの抜けやすさ、絡まりやすさには、紐先端の金具(アグレット)の形状が直結しています。
古くは単なる熱圧着やプラスチックチューブ被せだったものが、今では
・中に“くさび”状の芯を入れて外れにくくする
・表面に滑り止めの微細パターンを刻印
・磁石内蔵型(紐同士を引き寄せる/離す切替可)
・進化系ストッパー(ボタン一発で仮止め・解除可)
など、特許出願レベルの高機能パーツも登場しています。
また、お子様向けやユニバーサルデザイン対応向けには「絡まない簡単ロック式アグレット」も進化を遂げています。
これらを採用することで、OEM工場の作業効率や保障コストの削減、バイヤーの差別化商品企画にも直結します。
業界動向:絡まないドローコードがもたらす差別化とは
アパレル業界全体での取り組み
Z世代や働く女性・シニア層など、多様な消費者層がパーカーを日常使いするようになりました。
近年は“機能性アパレル”や“サステナブルファッション”のキーワードも浸透しています。
各社は
・エコ素材やリサイクル紐の活用
・安全基準を満たす構造(JIS T8127滑り止め機能などへの適合)
・高齢者・子どもにも扱いやすい絡まない仕組み
――を重視するようになりました。
OEM/OEMの現場でも、「絡まない仕様=不良減・可動率向上」「クレーム減=信頼獲得→リピート注文増」という好循環を生んでいます。
DX・IoT連携で進化する生産・品質管理
デジタル化の波は、パーカー生産の“紐一本”にも波及しています。
IoTやAI画像解析システム導入の現場では、コードの癖や絡み具合をリアルタイム検知し、該当工程にフィードバック→工程改善提案までワンストップ化が進みつつあります。
また、紐材料メーカーがライブトレンドやECレビューを分析して「絡みにくい・抜けにくい新製品」を自社開発し、ブランドや工場向けに即時サンプル提供する動きも加速しています。
バイヤー・サプライヤー必見!現場で実践する絡まないパーカードローコード選定のコツ
1.設計段階で「なぜ絡むのか?」を現場と共同で見える化する
2.サンプル発注時は紐形状・金具付きの“完成状態”をテスト、組付けや保管流通までシミュレーションする
3.バルク発注前に必ず「絡みにくさ試験」の社内評価基準を設定し、目視+現場ヒヤリ体験のフィードバックをトレーサビリティ管理する
4.金具やコードは安易にコスト先行せず、ライフサイクルコスト(不良・返品・評判の損失)まで包括して選定する
5.需要が続くヒット商品や新ジャンルで差別化狙うなら、「絡まない=ファンクションアパレル」のキーワードを訴求ポイントに活用する
まとめ:小さな構造・工夫が、大きな顧客満足と現場変革を生む
パーカーのような日常着は、真に“快適で安全”“手間いらず”の体験が選ばれる時代です。
ドローコードや金具の絡み防止という一見些細な工夫が、実は現場コスト・リスク・差別化・消費者の評価まで大きなインパクトをもたらします。
製造業・バイヤー・サプライヤーすべての現場で、新たな価値創造の起点として「絡まない・抜けにくいパーツ設計」「現場目線の連携改善」を心がけてみてください。
今後はAIやデジタル技術、サステナブル素材とのシナジーによって、パーカーのドローコードがさらに進化するのは間違いありません。
その最前線に現場発の知恵と工夫を持ち込む――。
製造業のプロフェッショナルとして、ぜひ新たな変革にチャレンジしましょう。
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