投稿日:2025年11月26日

OEM工場との打ち合わせで伝えるべき「ターゲット市場情報」

はじめに:OEM工場との打ち合わせが重要な理由

OEM(Original Equipment Manufacturer)工場との打ち合わせは、製造業のバイヤーやサプライヤーが高品質な製品を安定供給するうえで欠かせないプロセスです。

特に、昭和世代から続く日本の製造業界では、工場の「モノ作り力」に過度に期待してしまいがちです。

しかし、実際には、OEM工場がターゲット市場のニーズや特性を理解していなければ、たとえ緻密な生産管理を行っても、消費者の心をつかむ製品にはなりません。

この記事では、「OEM工場に対してターゲット市場情報をどのように伝えるべきか」を、現場目線を交えながら詳しく解説します。

現場のリアルを踏まえ、サプライヤーとして差別化を図るヒントも提供します。

ターゲット市場情報がOEM工場にもたらす価値

ターゲット市場情報とは

ターゲット市場情報とは、製品が売れるべき相手や使われる環境、価格帯、顧客層、競合状況など、製品企画やデザイン、品質基準の判断に繋がる、あらゆる外部要件のことです。

OEM工場は受託生産のプロフェッショナルですが、マーケットインの意識が薄い場合が多く、納入先任せで仕様通りに作る意識が根強いです。

ここに「現場の現実」と「顧客の現実」のギャップが生じます。

なぜOEM工場に情報共有が必要なのか

多くのサプライヤーが、受注時点で「仕様書を渡せば十分」と考えがちです。

しかし、タフな市場競争の中では、仕様書だけでは不十分なことが増えています。

例えば、以下のような現場の曖昧さを解消しないまま製造が走ると、完成品の出来栄えや市場評価に直結します。

– 想定ユーザーが高齢者か若者かによる製品の使いやすさ
– 高価格帯か普及帯かによるデザインや材質のグレード感
– 使用環境(屋外か屋内、過酷な温度にさらされるかなど)

こうした前提条件をOEM工場に伝えることで、工場サイドが提案力やリスク回避能力を発揮しやすくなり、「ただの下請け」から「パートナー」へと関係性が進化します。

OEM工場への伝え方:現場で有効な3つのポイント

1. 「最終顧客」情報をできる限り明確に伝える

よくある失敗例として、「エンドユーザーは◯◯業界の人ぐらい」という曖昧な説明で済ませてしまうことがあります。

これでは、工場側が製造過程で適切な判断ができません。

現場で有効なのは、「なぜ、この仕様が求められるのか」という背景やストーリーまで含めて伝えることです。

具体的には、

– 年齢層や性別、購買動機
– 利用シーン(車の中、厨房、現場工事など)
– どんな課題をその商品で解決できるのか

を壁を感じずに、ざっくばらんに伝えることで、工場の担当者が「現場での工夫」「品質の配慮」などの判断をしやすくなります。

2. 市場の競争状況・トレンドも共有する

ターゲット市場には、必ず競合商品やトレンドがあります。

たとえば「類似商品と比べて、何をウリにしたいのか」「今後どのようなトレンドが市場で来そうか」なども、OEM工場への共有が効果的です。

工場側は、その情報をもとに「競合品より耐久性を高めたい」「コストダウン提案ができる」など、新たな視点を持ってくれる可能性が高いです。

実際、昭和型のアナログ現場では「言われた通り作る」意識が強いですが、ここで一歩踏み込むと、大きなブレイクスルーが生まれることもあります。

3. 価格帯・市場の品質基準も合わせて伝える

製造業の現場では、「この部品のコストはどの程度まで許されるか」「見栄えはどのレベルまで必要か」が非常に重要です。

コストはもちろん、今や品質基準(色調のバラツキ許容、強度、サビに対する耐性など)も、市場ごとに求められるものが全く異なります。

バイヤーの立場としては、単に「安さ」や「高級感」だけで話をすると齟齬が生まれるので、いま一度、市場が求める合格ラインを数値や比較事例で示すと、工場側は最適な材料や加工方法の選定判断がしやすくなります。

具体的な伝達手法:現場力を活かすコミュニケーション

現場視点で大切なのは「可視化」と「階層別調整」

OEM工場との打ち合わせで最も多い問題は、「伝えたつもり」「理解したつもり」の誤解です。

言葉だけではなく、資料や写真、競合品サンプルを用意することで、現場の職人や管理者にも直感的に「何が大事なのか」が伝わります。

また、昭和型の工場では、現場作業者と管理者、営業との間で情報の伝達スピードや質に差があるもの。

打ち合わせには、できるだけ複数階層の担当者を巻き込むことで、

– (現場作業者)が求める現実感
– (工場管理者)が配慮すべき生産ロットやコスト

など、多面的な視点からギャップを埋めることができます。

情報が現場で「生きる」工夫を

情報共有でありがちなのは、ごく簡略的な資料(パワーポイント1枚、メール1本)のみで現場を動かそうとするケースです。

しかし、30年以上現場で培われてきた技能や「職人の勘」が、情報不足で発揮されないのは大きな損失です。

たとえば、

– 製品の「使われ方」を動画で見せる
– 顧客の声やクレーム事例をそのまま伝える
– 欲しい機能より「不要なこと」も明確にする

など、現場が能動的に製品づくりに関わり、自ら解決策を考えてもらえる土台を作ることが肝心です。

バイヤーの視点・サプライヤーの視点を両立させる

バイヤーは「最終的な顧客要求」を押し通す役割、サプライヤーは「製造現場の制約やリスク」を説く役割に陥りがちです。

でも、本来目指すべきは「市場と現場の最良のバランスポイント」を探ることです。

現場の提案力を最大限引き出すために、「なぜこの情報が必要なのか」「この前提が変わるとリスクが何か」をきちんと説明する姿勢が、良い打ち合わせには欠かせません。

昭和型アナログ業界でも活きる交渉・調整の勘所

打ち合わせは「感情」と「経験」を重視する

デジタル化が進む中でも、日本の製造現場は今なお「三現主義」が根強いです。

すなわち、「現場」「現物」「現実」を最重視する風土があります。

打ち合わせでは、定性的な「現場の危機感」や「苦労話」にもしっかり耳を傾け、必要なら現場を一緒に見てまわるのが有効です。

経験豊富な職人が「この工程なら◯◯の素材の方が良い」とアドバイスすることもしばしば。

そうした「ベテランの勘どころ」はデータや指示書には落としきれません。

バイヤーやサプライヤーも臨場感を持ち、現場の言葉でディスカッションすることで、信頼関係が深まります。

問題発生時には「ターゲット市場」に戻る

製品開発・量産段階でトラブルが起こったとき、バイヤーとサプライヤーはしばしば「犯人捜し」に走り、関係悪化に繋がることがあります。

しかし、OEM工場との協働で大切なのは、「ターゲット市場に提供したい価値は何か」に立ち戻ることです。

そうすることで、

– 顧客にとって本当に重要なポイントは何か
– 今回の問題で絶対に妥協してはいけない基準は何か

を、冷静に優先順位を整理できます。

また、こうした姿勢は工場側からも「現場目線で相談できるバイヤー」として信頼され、難件にも協力してもらいやすくなります。

デジタルとアナログの融合が今後のカギ

2020年代以降、IoTやDXが製造業でも進展する一方、データ以上にアナログな「現場の温度」や「職人の知恵」が成果を左右します。

OEM工場との打ち合わせで「デジタル資料+生の現場情報」「数値データ+実体験」を揃えることで、情報の解像度が格段に上がります。

バイヤーが市場のニーズを「現場語」で伝え、サプライヤーが現場のリスクを「バイヤーの目線」で説明できる。

この「相互理解力」こそ、昭和から令和へと進化する製造業の競争力の源となります。

まとめ:ターゲット市場情報は「現場力」の新しい燃料

OEM工場との打ち合わせで伝えるべき「ターゲット市場情報」は、単なる顧客データではありません。

バイヤーとサプライヤー、現場と経営層が「同じゴールにむけて協力するための共通言語」だと理解してください。

ターゲット市場情報を現場の言葉に翻訳し、昭和型アナログ業界の長所を活かしながら、デジタル時代のスピード感も両立させましょう。

伝え方を磨くだけでなく、打ち合わせそのものを「現場力」を引き出す場に変えていく。

これが、今後さらに激動を迎える製造業に求められる「実践力」だと、私は考えます。

製造業に携わるすべての方が、市場情報の共有を起点として、現場発の新たな価値創造にチャレンジされることを期待しています。

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