投稿日:2025年10月23日

中小製造業の輸出入における関税削減スキームとEPA活用法

はじめに

日本の製造業は、今もなお世界に高い技術力を誇っていますが、中小企業にとって国際競争力の維持・向上は簡単なものではありません。
特に、グローバル化に伴う輸出入の現場では「関税」というコストが、想像以上に経営を圧迫しているのが現実です。
しかし、近年はEPA(経済連携協定)をはじめとしたさまざまな関税削減スキームを利用することで、この障壁を乗り越える道も開かれています。
業界の現場で培った実体験やアナログからデジタルへの転換期での失敗・成功も踏まえつつ、中小製造業が知っておきたい「関税削減策とEPAの実践的活用法」について解説します。

中小製造業における輸出入の関税課題

関税負担の現実

中小企業が海外へ販路を求めようとしたとき、最初に立ちはだかるのが輸出入時に発生する「関税負担」です。
特に原材料や部品などを海外から調達し、組立・製造後に再度輸出するといったグローバルサプライチェーンの場合、二重三重の関税がコスト高の原因となります。
実際、購買部門では「なぜA国からの部材がB国産より割高になるのか?」「トータルコストで計算しても海外展開のメリットが見いだせない」などの声を、現場でよく耳にします。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの課題認識

バイヤーの立場から見ると「コスト競争力確保のため、関税のインパクトを如何に低減できるか」が常にミッションの一つです。
対してサプライヤーは「関税を計算に入れた価格提案が妥当か」「海外顧客から突然関税負担を要求されトラブルに発展した」など、情報量や理解度の差がギャップに繋がりやすい傾向もあります。
昭和の時代から続く“勘と経験”だけでは立ち行かなくなってきた現在、数字に裏打ちされた戦略を考える必要があります。

関税削減のための主なスキーム

EPAとは何か

近年、中小製造業にとって活用メリットの大きいのが経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)です。
EPAは、相手国同士で関税を段階的または即時撤廃する約束を交わす協定で、日本は既に多くの国・地域と締結済みです。
代表例として「日EU・EPA」「日アセアンEPA」「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)」などがあります。

FTAとの違い

EPAと似た言葉で「FTA(自由貿易協定)」もありますが、FTAが基本的にモノの関税削減・撤廃に特化しているのに対し、EPAはサービス貿易・投資・知財保護など、より多岐に渡る分野をカバーしています。
製造業では簡単に言えば「どちらも相手国との貿易で関税メリットを受けられる協定」と認識し、自社製品や調達先・販売先が各協定の対象かどうかを見極めることが肝心です。

原産地規則のハードル

EPA/FTAの恩恵を受ける最大の条件が「原産地規則のクリア」です。
つまり、自社製品が”どこの国で作られた”とみなされるかというルールであり、最終的な組立地だけでなく、原材料や部品の調達先によっても結果は変わります。
具体的な例を挙げると、「日本で最終組立をしても、主要部品のほとんどを中国等で調達していた場合、その製品が“日本産”として協定適用を受けられない」ことも多々あります。

EPA活用の実践ステップ

①該当するEPA/FTAの抽出

まず自社の主な輸出国・調達国が「日本とどのEPA/FTAを締結しているか」を調べます。
ジェトロや経済産業省のサイトには協定締結状況がマトリックスやMAPで掲載されています。
営業・調達担当がパラレルで動く場合、全社横断的な管理や情報共有体制もポイントになります。

②HSコードの正確な把握

関税の適用可否は、製品ごとの「HSコード(関税分類番号)」により判断されます。
この番号が1つ違うだけで課税/非課税が分かれるケースも珍しくありません。
実際に大企業でも「サプライヤーに任せきりで、いざ輸出となった際に違う分類でトラブルになった」という事例をしばしば目にします。
きちんと社内で分類標準を策定し、サプライヤーとも細かく確認することが重要です。

③原産地証明書(CO)の取得・運用

EPA/FTAを活用するためには「原産地証明書(Certificate of Origin)」が必要となります。
これは「自社製品が協定国の規則に則って生産された」ことの証明であり、商工会議所、または一定の自己申告方式も増えています。
この手続きが煩雑で、昭和時代アナログ管理のままだと非効率や漏れの温床となります。
現在では専用のクラウド管理サービスも登場しており、データベース化で更新・申請の自動化が進めば、担当者の業務効率も大きく向上します。

④第三国経由のトランザクションにも注意

例えば「中国で生産した部品を日本で組み立て、タイに輸出する」といった複合的な商流においては、関税スキームの適用/不適用が複雑になります。
この部分の見える化(トレーサビリティ)は、調達・生産管理・貿易実務といった複数部署のシームレスな連携が鍵です。

現場目線での壁と突破ノウハウ

アナログ業界ならではの課題

製造業は伝票や判子文化、電話連絡など、意外とアナログな部分が根深く残っています。
「EPA?難しそうだから取引業者に任せっきり…」と現場で言われる風土も、よくある話です。
しかしこの姿勢が、思わぬコスト増やリスク拡大を招く要因となります。

小さな変革が大きな効果に

一朝一夕にデジタル管理を導入するのは困難ですが、「原産地証明書の取得実務を可視化したチェックリスト化」「HSコードの定期的な自社棚卸し」「EPA適用可能品目の社内一覧化」といった“小さな変革”から始めれば、現場の負担感も和らぎます。
私は過去に、こうした棚卸しと明確なルール化・教育を徹底することで、月額100万円を超えるコストダウンを実現した経験があります。
ささいな意識改革が、全社経営へインパクトを与えるきっかけになるのです。

バイヤーとサプライヤーのWin-Win関係構築

調達現場では、バイヤーとサプライヤーが「関税メリットをどう分け合うか」で駆け引きになることが多いです。
例えばEPA適用で本来100万円の関税がゼロになった場合、その“節約分”を価格に全て反映するのではなく、「仕入先にも一部メリットを還元する」といったスタンスで折衝すれば、信頼関係強化とマージン確保が両立できることがあります。
昭和型の“叩き合い”から、共創ベースの交渉へシフトチェンジするのも、今の時代のバイヤー・サプライヤー双方に求められる変革です。

EPA未活用による“もったいない”損失

EPA・FTAは決して大企業のためだけの制度ではありません。
中小製造業でも、例えば一度の輸出で数十万円、年間で数百万円の関税コスト削減に直結するケースが多く存在します。
特に部品点数が多い組立産業では、品目ごとの小さな積み上げが想像以上のインパクトになります。
一方、せっかく制度があるのに「知らない」「分からない」「面倒」というだけで適用しなければ、その分だけグローバル競争で不利な立場になりかねません。

まとめ:中小製造業にこそEPAの積極活用を

中小製造業のグローバル展開では、「関税削減=競争力アップ」です。
そのためにはEPAやFTAといった制度を正しく理解し、実務で運用できる現場力をつけることが不可欠となります。
アナログ時代の勘と経験を大切にしつつも、新たな知識やノウハウを積極的に取り入れ、小さな現場改善から始めていきましょう。
バイヤーとしてはサプライチェーン全体を俯瞰し、サプライヤーとしてはバイヤーの期待や要求を先読みできる関係構築を目指して、お互いの強みを活かすことが、これからの製造業発展の近道です。

EPA活用で「コスト競争力」と「現場価値」を最大化し、日本のものづくりの底力を世界に発信しましょう。

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