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“おいしい”を定義するための味覚パラメータ化と官能評価設計

目次
はじめに:なぜ“おいしい”を定義する必要があるのか
製造業、とりわけ食品や飲料業界において、“おいしい”は製品価値の根幹を担うキーワードです。
しかし、「おいしい」という感覚は本質的に主観的で、十人十色の個人差が存在します。
この“おいしい”を科学的、かつ客観的に捉えることは、製品の安定品質やさらなる高付加価値化、そしてグローバル市場での競争力向上に直結します。
本記事では、“おいしい”の定義を見える化し、味覚パラメータとして数値化、さらにその官能評価の現場設計までを掘り下げます。
従来の昭和的アナログ現場にも根付く方法論と、デジタル時代の新機軸を融合し、ものづくり現場で実践できるアプローチをまとめます。
“おいしい”の多層構造:味覚だけが全てではない
味覚の5大要素とそれ以外の影響因子
“おいしい”という感覚は、一般的に「甘味」「苦味」「酸味」「塩味」「うま味」の五味で構成されると知られています。
これらに加え、香り、見た目、食感、温度、さらには音や触覚、体験価値(思い出、食べるシーン)すら「おいしさ」の認知に影響することが近年の研究で明らかになっています。
現場の体験則からも、例えば同じ味付けでも器が変わると感じ方に変化が生じたり、製品パッケージの色彩や素材感によって「おいしそう」と思わせ、期待値を底上げする事例は枚挙にいとまがありません。
文化・社会的背景と“おいしさ”
日本の製造業、特に食品メーカーは海外市場進出が進み、それぞれの国・地域「独自の味覚嗜好」に直面しています。
実際に和食ブームで“うま味”が注目されたように、ローカライズした“おいしい”の定義を再構築することも求められます。
このような文化的バイアスをいかに設計側で吸収・調整するかも大きなポイントです。
味覚をパラメータ化する:数値評価への挑戦
味覚センサーと化学分析
最近では、五味それぞれを定量的に測定する味覚センサー(電子舌)や、HPLC・GC-MSなどの分析機器による成分分析が進化しています。
製造バイヤーや品質管理担当者にとって、これらのデータを「数値パラメータ化」し、規格値として運用するメリットは大きいです。
例えば、特定のラインで抽出されただしの「うま味強度」や、後味の「苦味幅」を、ベンチマーク品と比較して合否判定できるようになります。
また、類似商品との差別化ポイントも、味の“レーダーチャート”として可視化でき、社内外への説得材料としても機能します。
調整・最適化のフィードバックループ
パラメータ化された味覚指標は、現場でのレシピ調整や原料ロットによるばらつき吸収にも極めて有効です。
例えば、糖度や酸度をセンサーでリアルタイム計測し、レシピを自動補正するシステムも導入が進むなど、工場自動化(FA/IoT化)と直結しています。
これらは、曖昧な「勘」に頼る昭和的な現場から、着実にデジタル・データドリブンに進化する現象の一端です。
官能評価とは:現場のプロが魂を込める“人が決めるおいしさ”の基準
官能評価の2本柱:三点比較法と評価シート
味の最終判断を人間が行う「官能評価」は、依然としてアナログ的でありながら最重要の品質保証プロセスです。
三点比較法(どれが違うか識別するテスト)や、5段階・7段階評価シートによる定量化が広く活用されています。
現場では、評価者の訓練やバイアス除去、評価環境の平準化が極めて重要です。
評価室の温湿度管理、照明の色温度調整、臭いの遮断といったアナログな工夫が“本当のおいしさ”検証の精度に直結します。
クロスファンクショナルチームによる評価設計
食の“おいしい”は職種や部門を超えて全員で守るものです。
バイヤー、開発、営業、品質管理、さらには消費者代表のモニターまで巻き込んだクロスファンクショナルなパネル構成が官能評価のトレンドとなっています。
各種評価結果は統計処理し、個人差やプロダクト特性を数値として吸収しやすくする工夫が求められます。
このようにして、官能評価も定量区分が可能となり、新製品開発のPDCAや品質設計にダイレクトに組み込むことができます。
アナログ現場と新デジタルの融合:実践的な業界トレンド
“昭和の勘”の価値と最新技術のハイブリッド
長年の現場経験者(工場長・ライン責任者など)が持つ“味覚の目利き力”は計り知れないものがあります。
実際、ベテランが一口食べただけで「今日は塩味が立ちすぎてる」「だしの醸しが弱い」と感知する現場は今も多いです。
こうした「勘」は経験値データベースの塊で、最新デジタルツールでも完全には代替できません。
一方、AIやIoT、センサーデータ、クラウド記録などを融合し、ベテラン暗黙知をデジタルナレッジ化する“流派横断プロジェクト”が活発化しています。
これらは、後進育成や品質安定技術継承にも直結しつつ、属人化からの脱却を目指す現場の大きな流れです。
“おいしさ規格”の標準化とサプライヤー連携
バイヤー視点では、「自社独自のおいしさ」を守りつつ、安定調達・安定生産が最重要課題です。
サプライヤーと共通パラメータ(例:このレベルのうま味値、酸度範囲内、など)を設計しておくことで、外注構内一貫、OEM生産でも品質ブレを防げます。
また、官能評価データをサプライヤーと事前共有し、原材料レベルでの合否判断や修正フィードバックも格段に効率化されます。
現実には「コスト優先」「量重視」「アレンジの幅」など複雑な思惑が絡みますが、“おいしさパラメータ”という共通言語を持つことで、サプライチェーン全体の品質ブレークダウンポイントを未然に抑える土壌ができます。
バイヤーとサプライヤーの“おいしい”コミュニケーション
調達現場と開発・現場の連携強化
バイヤーの皆さんも、川上(サプライヤー)~川下(営業・消費者)まで“おいしい”という抽象的価値を数値化・明文化し、“目で見てわかる言語”に落とし込む必要性を日々感じているはずです。
単なる仕入れ担当ではなく、品質・開発・マーケティングと連携し、商品開発初期フェーズから“おいしさ指標”を共同設計するアクティブ・バイヤーこそ、これからの時代に求められます。
一方、サプライヤーもバイヤーから「なぜこのうま味値にこだわるのか」など裏側の意図や現場事情を理解し、素材段階での配慮や最適化提案を行えば、価格以上の“最良のパートナー”として評価されやすくなります。
“おいしい”の未来設計~イノベーティブな現場作り
味覚のパラメータ化・官能評価の設計は、昭和の“職人の勘と経験”と、令和の“データサイエンス”が高次で融合する、まさに日本型ものづくりの新境地を切り開いています。
両者の知見をかけ合わせることで、本当の意味で強く・しなやかな製造現場、サプライチェーンが誕生します。
自社ならでは“おいしい”の定義と設計にこだわることこそ、コモディティ化する市場で生き残るための“差別化資産”となります。
現場目線での泥臭い試行錯誤と、グローバル水準のサイエンティフィックな味覚設計――。
これを融合できるバイヤー、サプライヤー、製造現場こそが、次世代のメインプレイヤーになり得るのです。
まとめ:見える化・共通化が“おいしい”を高める
“おいしい”のパラメータ化と官能評価設計は、全ての製造現場の品質、付加価値、顧客満足度を底上げする武器です。
>現場の肌感覚もデータも、どちらも捨てない融合が真価を発揮する
>バイヤー・サプライヤーが共通言語を持つことで、現場主義×効率化が両立する
昭和の現場力と令和の分析力の共創こそが、これからの製造業の“おいしさ”を支える土台となります。
皆さんの現場でも、ぜひ今日から“おいしさを見える化”し、“みんなで味を磨く”仕組み作りにチャレンジしてみてください。
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