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通関書類の品名一般化が招く規制誤適用を防ぐテクニカルディスクリプション

目次
はじめに:通関書類の「品名一般化」問題とは何か
現代の製造業において、サプライチェーンのグローバル化は不可逆な流れとなっています。
調達購買や生産計画、品質管理を担う現場責任者の立場としては、日々多様化する物品がワールドワイドに動く中で、通関書類の記載内容ひとつが想定外のトラブルやコスト増大、納期遅延を招くリスクを痛感しています。
通関書類、特にINVOICEやPACKING LISTに記載する「品名」(ディスクリプション)は、かねてより“ざっくりした商品名”が当然のようにまかり通ってきた分野です。
いわゆる「一般化品名」に分類される“PARTS”や“ELECTRONIC COMPONENTS”などの記載は、一見すると事務処理の効率化や記載ミス防止の観点で合理的です。
しかしこの慣習が、現場の実務において致命的な「規制誤適用」や「通関の滞留」、「品質トレース不能」など、重大なリスクをはらんでいることをご存知でしょうか。
本記事では、20年以上大手製造業で調達・生産・品質の最前線に身を置いた視点から、品名の一般化に潜む危険性と、規制誤適用を回避するための“テクニカルディスクリプション”の実践的ポイントを深堀りしていきます。
なぜ品名一般化が今なお横行しているのか?昭和的慣習の根深さ
現場の「横着」と「一括管理志向」
多くの現場では、ITの導入が進んでも、購買や生産、物流の情報管理は未だにExcelや手作業がベースとなっているOT(オールドテクノロジー)的体質が根強く残っていることが多いです。
本来、部品一つ一つにユニークな英語名称やスペック説明を付与すべきところを、担当者の負担軽減という名目で「一括で“PARTS”表記」「細かい記載はパッキングリストや仕様書で管理」といった昭和的業務設計が放置されています。
社内・サプライヤー間の板挟みと属人化
バイヤーや生産管理として現場を経験してきた立場から言えば、「現地の通関当局が問題なければOK」「他社も同じようにやっている」といった“横並び主義”や、担当者が変わるたびに運用基準がブラックボックス化する“属人業務”が繰り返されています。
そのためサプライヤーからは「どこまで詳しく書けばいいのか明示されていない」「細かく書くほど手間やクレームが発生する」といった不満も聞こえてきます。
このような業界構造が、品名一般化の過ちを温存し続けている要因なのです。
品名一般化が引き起こす典型的なリスク事例
輸入規制・技術輸出規制の誤適用
例えば“ELECTRONIC PARTS”や“CIRCUIT”と書かれたパーツが、半導体や特定用途向け製品の規制対象か否か判断しづらい場合、通関当局は原則“最も厳しい規制”を適用する傾向があります。
その結果、まったく該当しない一般部品であっても「該非判定」「追加資料提出」「検査要請」など、想定外の通関停滞やコスト発生・納期遅延を引き起こします。
安全保証・リコール時の追跡不能
もし不適合やリコールが発生した際、一般化された品名・型番だけでは、どのロットにどの仕様・事業者からの部材が使われたのか遡れず、品質トレースの精度も大きく損なわれます。
とくに自動車や電装品など“事故=重大事故”に直結する業界では、一般化品名は重大リスクに直結します。
CO2排出証明やサプライチェーン・デューデリジェンス対応不能
最近はグリーン購入・サプライチェーン管理でCO2排出量証明やサステナビリティ調査が義務化される流れです。
この時も、品名の特定度が低いと必要データの紐づけや証明書類の整合性が担保できません。
通関書類の「テクニカルディスクリプション」とはなにか?
「テクニカルディスクリプション」とは、単なる商品名や型番にとどまらず、部品・製品の性能・用途・組成・材質・機能など、専門的かつ具体的に規定する説明文のことを指します。
この記載レベルを高めることで、たとえば同じ“PARTS”であっても「車載用24V耐熱フューズ」「インバータ制御用IGBTモジュール」「食品機械用SUS304ギア」など、規制判断や品質管理の透明性が大きく改善します。
なぜ今、テクニカルディスクリプションが特に重要なのか
1. 規制強化:米中貿易摩擦下での先端技術流出規制や、各国の保安管理が強まっている
2. ESG対応強化:企業のサプライチェーン透明性要求(児童労働・コンプラ・環境規制など)
3. 発送地・サプライヤーの多様化:新興国進出や調達多元化で、現地当局の解釈ばらつきが高まっている
現場感覚では、とくに2や3の観点で「書類上のトレーサビリティの高さ」が今後ますます重要視されてきます。
実践的テクニカルディスクリプション作成手順
1. 製品・部品の「5W1H」+素材特性を明示する
・What:何のパーツなのか(例:Transmission Gear)
・Who:どの業界・どの車種用途か(例:Automotive for EV)
・Where:最終組立地/出荷国
・When:生産ロット・製造年月
・Why:用途(例:High Voltage Circuit Protection)
・How:製造法や主材料(例:Cold Forged, SUS304)
これらを簡潔な英文で盛り込むよう心がけます。
2. 品番・型式・社内マスター番号を明示する
型番のみではNG。
社内でトレースできる固有番号、顧客品番、サプライヤー側のIDも必ず添付しましょう。
3. 特殊材料・特殊機能・規制区分があれば明記する
たとえば“Containing Rare Earth”や“Non-lead Soldered”など、規制条件に関係しそうなワードは事前に付け加えると良いでしょう。
4. 品目分類番号(HSコード)との整合性を取る
特に輸出入取引に関わる場合、HSコード(関税分類)の記載とディスクリプションが矛盾しないことは必須条件です。
必要に応じてHSコード分類根拠も英文で簡潔に注釈します。
5. サプライヤーと共通テンプレートで管理する
属人的な表現のバラツキをなくすため、サプライヤーにも負荷がかからない共通フォーマット(ExcelやWebフォーム)で運用することが長期的なリスク低減に繋がります。
現場で役立つ記載例と改善ポイント
悪い例
Description:PARTS
Model:12345
これでは規制区分もトレースもできません。
良い例
Description : Automotive Transmission Gear (For EV, Output Shaft, Cold Forged, Material: SCM420H, Supplier P/N: 54321, RoHS compliant)
Model : 12345, Customer P/N: AB-CV-3021
ここまで記載すると、どのような規制対象になるか、どの用途に使われるのか、品質基準や素材トレーサビリティを瞬時に判断できます。
業界毎のポイント
・電子部品…チップ(抵抗/コンデンサ等)は素材構成・定格電圧記載
・金属加工品…素材グレードと表面処理内容を明記
・樹脂部品…成形方法(射出/押出)と難燃グレードなど
テクニカルディスクリプション徹底のために現場でやるべきこと
1: サプライチェーン全体への教育啓発
購買・物流だけでなく、設計・品質保証・サプライヤーの担当者まですべて巻き込み「なぜ細かい記載が必要なのか」を顧客視点、規制遵守の視点で共有します。
2: システム・データベース連携の推進
品名・型番・仕様・材料をバラバラに管理している現場が多いですが、部品マスターDBと書類出力の統合化に取り組むことで、属人性の排除・効率アップにつながります。
3: 税関・規制当局との事前相談ルールの構築
「不明確な場合は自主申告し、当局に見解を事前確認する」ルールを設けることで、突発的なトラブルを未然に回避できます。
まとめ:製造業現場の常識を次世代標準にアップデートする
業界の慣習や属人化された“暗黙知”が、現場の生産性向上を阻害し、想定外の規制誤適用や品質トラブルを生み出す現在。
テクニカルディスクリプションの徹底は、単なる通関対策・リスク回避にとどまらず、製造業バリューチェーン全体の透明性・競争力を担保する基本戦略です。
私たち“現場上がり”のプロフェッショナルこそが、バイヤー・サプライヤーの垣根を超えて“昭和流”から未来仕様へのアップデートを先導していきたいと考えます。
多忙な現場でも、本記事で紹介した実践的な記載ポイントを即導入し、小さな無駄や将来リスクを着実に摘んでいくこと。
それが、今後も揺れ動くサプライチェーンを強くしなやかに支える真の“現場力”につながるはずです。
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