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顧客価値を創出する技術開発製品開発手法と実践ポイント事例集

目次
はじめに:製造業に求められる「顧客価値」の本質
顧客価値とは何か、と聞かれると、多くの製造業の現場では「価格」「品質」「納期」のいわゆるQCDがまず思い浮かぶかもしれません。
しかし、時代は大きく変化しています。
高度経済成長時代、そして「モノ余り」と言われる現代において、顧客価値は「QCD」だけでは語りきれなくなりました。
顧客が求めるものは、単なる製品スペックを超え「どれだけユーザーの期待を上回る体験を提供できるか」「課題解決力がどれだけ高いか」「変化にどれだけ俊敏に対応できるか」という、新たな軸に移行しつつあります。
本記事では、20年以上にわたり現場で培った経験と、アナログな慣習が根強い製造業ならではの着眼点をもとに、顧客価値を創出するための最新・実践的な技術開発および製品開発手法と、成功事例・失敗事例を深掘りしてご紹介します。
製造業の現場から見る、顧客価値創出アプローチの変遷
昭和・平成の開発現場:現物主義と属人的ノウハウ
昭和から平成にかけての製造業では、設計現場から生産現場、営業からアフターサービスに至るまで「現場主義」や「現物合わせ」が主流でした。
たとえば、熟練工による現場調整、紙図面をベースに手作業での改良、製造現場での課題共有会議が頻繁に行われていました。
顧客価値の源泉も「こだわりのモノづくり」による高品質の実現や、カスタマイズ対応の柔軟性にありました。
しかし、人的リソースに依存した運用ではナレッジの共有・再現性が低く、市場変化への対応速度も限定的です。
令和の現場:デジタルトランスフォーメーションと顧客志向の深化
現在、多くの工場でデジタル化、IoT化、データ活用が進みつつありますが、その一方で「Excel職人」や「FAX文化」といった昭和的アナログ業務もなお健在です。
デジタル化は、単なる効率化や自動化の手段ではなく、「顧客が本当に必要とする価値とは何か?」という根源的問いに、より速く・確実に応えるための変革です。
製品やサービスを開発する際には、顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、より高いレベルの価値提案(プロダクト+ソリューション+体験)を意識したアプローチが主流となってきました。
顧客価値を最大化する技術開発・製品開発手法のポイント
1. 徹底した顧客起点の課題抽出:バイヤー思考の導入
多くの開発・調達部門では、既存仕様や過去の成功パターンにとらわれがちです。
しかし、市場のトップ企業や、世界標準を牽引するバイヤーは「自社の調達ニーズ」「顧客先や最終ユーザーの業務課題」から逆算して製品仕様を設計します。
例えば部品メーカーなら、納入先OEM企業のバイヤーが「最終エンドユーザーがどのような現場課題を抱えているか」を理解し、その解決策として自社技術を活用できないか?と発想を飛ばすことが求められます。
ヒアリングや現場観察、VOC(Voice Of Customer)分析などを通じ、現場目線で課題を抽出することが真の顧客価値創出の出発点です。
2. ラテラルシンキング(水平思考)で課題解決策を多角的に探る
従来型の発想では「前例や業界慣習に縛られる」「手元の技術・設備だけで解決しようとする」傾向が強いでしょう。
しかし、成功している企業はラテラルシンキング──すなわち「違う業界の技術を持ち込めないか」「自社が持つリソースの他用途展開」「ユーザー側の作業フローごと作り変える」など、視野を広げて課題解決の切り口を増やしています。
たとえば、従来は機械加工部品メーカーであっても、IoTセンシング技術を活用し「予防保全ソリューション」をOEMと共同開発した事例や、鉄鋼材料メーカーが脱炭素化を実現するため再生材のトレーサビリティを付加したことで新たな顧客セグメントを開拓した事例などが近年生まれています。
3. 現場効率だけではない「体験価値」を設計する
製品開発においては、形状やスペックでの差別化だけでなく、「使ってみてどう感じたか」「導入後業務プロセスがどれだけ変わったか」を重視する動きが出てきています。
たとえば、従来からある自動化設備メーカーが、納品後の生産性データをクラウド経由で見える化し、運用ノウハウまで継続支援するサービスを付加した結果、顧客の導入満足度が飛躍的に向上した事例もあります。
「モノからコト」への発想転換が進んでいます。
実践的な開発ポイント:昭和×令和を掛け合わせる
1. アナログ現場だからこそ「現場知見のデジタル化」を推進
紙図面・Excel台帳・FAX指示など、アナログな運用が根強く残る工場では、「現場ノウハウがブラックボックス化」「若手への継承が難しい」などの課題が顕在化しています。
ここで重要なのは、「全面的なデジタル化」を急ぐ前に、現場で蓄積された改善事例や失敗経験をしっかり文字・映像・データで記録し、小さくDX化することです。
たとえば、標準作業書・設計変更履歴・クレーム対応ノウハウを社内ポータルや動画解説でアーカイブし、誰が見ても再現できる状態にすることで、アナログ文化の良い部分(実践知・暗黙知)をデジタル時代に活かすことができます。
2. 小さな成功体験を積みあげ、組織的学習に変える
現場目線の改善・技術開発は、一度の取り組みだけで劇的な成果が表れることは稀です。
むしろ、「各工程で発生したトラブルを週単位で記録・共有」「小さな成功やノウハウを現場全体で称賛・共有」といった地道な組織風土改革が、結果的に「現場が主役の強い開発プロセス」を作ります。
また、最新ITツールや外部パートナーとの連携を、現場目線でカスタマイズし、現場の自律的な改善マインドに結び付けていくことも重要です。
3. バイヤー目線の価値基準を現場で「翻訳」して伝える
サプライヤー側の技術・営業担当者が失敗しやすいのは、バイヤー(購買担当)の重視点や上流顧客の要求事項を十分に理解せずに、従来スペックや既存の提案に固執してしまう場合です。
製品1つひとつの「売り」は、バイヤーが最終顧客(エンドユーザー)に対してどのような価値を提供できたら成功なのかを、現場の言葉でかみ砕いて説明できてこそ、調達現場・設計部門からの信頼も得られやすくなります。
たとえば、「単に価格を下げる」のではなく「納入リードタイムが変動しやすいラインに、在庫適正化+緊急対応枠をセット提案する」など、相手の“困りごと”に寄り添った提案が刺さります。
顧客価値創出の実践事例集
事例1:現場の“困りごと”から生まれた新製品
ある板金加工メーカーでは、「部品のバリ取り工数が膨大」という現場の嘆きを元に、新しい自動バリ取り装置の開発を目指しました。
最初はベテラン現場作業者へのヒアリングを重ね、既存設備のどこがネックなのかを“見える化”しました。
開発段階で現場へのプロトタイプ持ち込みを繰り返し、現場作業者の「こんな工具がほしい」「ここが面倒くさい」といった一つ一つの声を拾い上げて設計に反映。
さらに、結果として作業時間30%短縮・品質安定という“現場感溢れる価値”を創出し、他社工場への横展開も実現しました。
事例2:サプライヤー主導による「調達-開発」連携改革
自動車部品メーカーA社では、新型EVの開発スピードを高めるため、従来はOEMメーカーが主導していた開発・調達仕様決定プロセスにサプライヤーが積極的に参画。
設計会議の初期段階から、材料~部品加工~量産テストの実務エンジニアが参加し、「真のコストダウンポイント」や「材料・工程統合による軽量化」を提案しました。
結果として、サプライヤー主導の設計最適化が量産後のトラブル低減や納入遅延リスクの回避に直結し、業界内で評価を高めました。
事例3:品質管理の枠を越えた「顧客満足」アプローチ
精密樹脂部品メーカーB社では、クレーム発生時の対応プロセスに着目。
単なる不良品交換のみならず、トラブル報告書に「同様の事案をどのように根絶したか」「現場にどんな教育を加えたか」まで具体的に記述し、顧客現場への直接サービス訪問を増やすことで“安心感”も価値として提供。
顧客の購買・品質部門双方から信頼される関係性に発展しました。
まとめ:現場発信で「顧客価値」を創出するための今後の視点
顧客価値創出のために、これまで重視されてきた「現場感覚」は、デジタル時代においてむしろ重要性を増しています。
地道な“現場の知見”と、ラテラルシンキングによる新たな価値創出、アナログとデジタルの融合的アプローチ。
この3つを組み合わせ、単なる“スペック勝負”ではなく、現場・サプライチェーン全体の課題を一緒に解決していく。
その掛け算が、今後の技術開発・製品開発において「選ばれるバイヤー・サプライヤー」へと成長する最大のポイントです。
どこか懐かしい昭和の現場の風景と、目まぐるしい令和の技術革新。
どちらも大切にしながら、一人ひとりが明日から実践できる小さな工夫と、新たな地平を切り拓く柔軟な発想が、製造業の“未来の顧客価値”を創ります。
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