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エンジンの熱効率向上のための摩擦・摩耗低減技術と事例

目次
はじめに:エンジン熱効率向上の時代的背景
現在、自動車業界のみならず、さまざまな産業用エンジンにおいて、熱効率の向上は極めて重要な課題となっています。
燃費規制やCO2排出規制の厳格化、そしてサステナブル経営への移行が急速に求められている今、熱効率向上は製造業現場が持続的に事業を継続するためのキーファクターとなっています。
特に日本の製造業現場では高度経済成長期、すなわち昭和期のノウハウが、今なお強く残っています。
昔ながらのアナログ的な「現場力」に支えられてきた反面、近年の欧米や中国のデジタル先進企業との差が徐々に顕在化しています。
このような環境下で、徹底した摩擦低減・摩耗対策技術の導入は、日本のものづくり現場がグローバル競争を勝ち抜くうえで避けて通れないテーマです。
エンジン熱効率と摩擦・摩耗の関係
なぜ摩擦・摩耗が熱効率を下げるのか
エンジンの熱効率を語るうえで外せない要素のひとつが、内部で発生する「エネルギーロス」です。
ピストン・クランクシャフト・カムシャフトといった摺動部や、潤滑系の多くは、走行時に微細な摩擦損失が生じており、この摩擦エネルギーはそのまま熱エネルギーとしてエンジン外部へと逃げてしまいます。
つまり、摩擦が大きいほど本来、推進力等に利用できるはずの熱エネルギーの多くが失われ、熱効率が大きく下がってしまうのです。
また、摩耗が進行することで部品のガタやすき間が生じ、燃焼室内の圧縮不良やオイル漏れ等も誘発します。
これらも燃焼効率そのものを悪化させ、ひいてはエネルギーロスの増大を招きます。
アナログ現場での課題感
工場現場に根強く残る昭和的な慣習のなかには、「潤滑・摩耗対策は経験で何とかなる」「経年劣化は仕方ない」とする暗黙知が存在します。
しかし時代は変わり、ミクロン単位での精密加工や新素材の適用、高性能潤滑油やコーティング技術の導入が当たり前となっています。
従来の感覚に頼りすぎる体質そのものが、実は熱効率改善のボトルネックにもなっています。
摩擦・摩耗低減のための代表的最新技術
1. 低摩擦被膜(DLC:ダイヤモンドライクカーボン)
DLC被膜は、炭素を主体とした薄膜で金属部材にコーティングすることで、非常に低い摩擦係数と高い耐摩耗特性を実現します。
カムシャフトやピストンリング、ロッカーアームなど摺動部品への採用が進み、従来の硬質クロムや窒化鋼と比べて摩擦損失を大幅に低減しています。
トヨタやホンダ、日産といった国内完成車メーカーはもちろん、二輪・産業用エンジンメーカーにも急速に普及しています。
2. 省燃費型エンジンオイル&添加剤
従来オイルの「油膜形成能力重視」から脱却し、分子レベルでの摩擦抵抗低減と極圧性の両立を実現する高機能オイルが登場しています。
さらに、二硫化モリブデン系・フラーレン系添加剤といったナノテクノロジー素材が加わったことで、極めて安定した潤滑面が形成されるようになり、長期運転による摩耗劣化も大きく抑制されています。
3. 高精度加工・表面改質技術
機械加工精度の向上も、摩擦減少には直結します。
CNC旋盤や研削盤による微細加工に加え、ショットピーニングやレーザー表面処理といった改質処理により、ピストンやシリンダ内壁の表面粗さを限界まで低減。
結果、摺動抵抗が従来の50%以下になった事例も報告されています。
4. 新素材の採用と複合材料
アルミ合金やカーボンコンポジット、セラミック複合材など、新素材の採用も盛んです。
静的な強度だけでなく、摺動時の摩擦特性や熱伝導率も解析し尽くしたうえで、部品ごとに最適なマルチマテリアル化を図る。
これによって、耐摩耗性と軽量化という一見トレードオフとなりがちな技術要件の両立が進んでいます。
摩擦・摩耗低減技術の具体的事例と現場の工夫
日系自動車メーカーの先進事例
トヨタの新世代直列エンジンでは、ピストンスカート部にDLC被膜を採用。
これによりエンジンフリクションの10%低減、実用燃費2%以上向上という成果を上げています。
またスズキでは、軽自動車用エンジンのカムシャフト支持部に対して、オイル溝形状の最適化と超精密研磨加工を実施。
摩擦損失を7%削減し、小排気量ゆえに熱効率でハンデを負いやすい分野で独自の省エネに寄与しました。
産業用エンジン・FA機械の取り組み
ロボット関連メーカーでは、減速機やギア系統の摩耗対策にDLC、MoS2コーティングや高機能グリースを導入しています。
自動化ラインの24時間稼働や長期無給油運転の実現は、生産計画の安定化・コスト低減にも寄与し、現場担当者の負担軽減につながります。
さらに近年では、IoTを活用して設備の稼働データをリアルタイムで監視し、摩耗進行をAIで予知・早期交換する予防保全化の動きも広がっています。
この点も、昭和世代が担ってきた「職人の勘と経験」に頼り切った現場運営からの脱却を促しています。
アナログ現場が直面する壁とラテラルシンキングの実践
摩擦低減と摩耗抑制の課題は、単なる部品・素材のアップグレードだけでは本質的な解決に至りません。
たとえば現場の「使い方」「保全計画」「購買・調達基準」の刷新がともなわなければ、技術導入効果は限定的です。
昭和から続く「流用」「部品点検は年1回で充分」「異音が出てから対策」というアプローチを、どこまで脱ぎ捨てることができるか。
その決断には、管理者層のマインド転換が大きなカギを握ります。
ラテラルシンキング、つまり「柔軟に、斜めからモノを考える力」が求められています。
現場としては、例えば
– 摩耗部品を現場主導で「使い倒し」するのではなく、メーカー推奨の予防交換サイクルを厳守する
– ベアリングやシール材の選定を、購買コストよりも総合的なライフサイクルコストで見直す
– 潤滑油やグリースの保管管理、充填作業基準を徹底的に標準化する
こうした「一歩先」となる工夫が、熱効率や省エネ現場を下支えします。
バイヤーとサプライヤーの視点から考える、選定と提案のポイント
エンジンおよび関連摺動部品の調達・購買担当者(バイヤー)の役割はますます高度化しています。
単なる価格交渉に終始するのではなく、「熱効率というKPI」を意識し、サプライヤーに以下のような観点で提案を促すことが大切です。
– 摩耗寿命、摩擦係数、潤滑性等の定量的な実験データと信頼性解析を要求する
– 新素材やコーティング導入事例、他社導入実績を積極的に情報収集する
– 減摩耗・省エネ系のサプライヤー製品を工場現場へ「横展開」するなど、現場と連携して実機検証できる体制をつくる
サプライヤー側としても、単なる仕様満足ではなく、摩耗低減の「現場での効果」や「インパクト」を分かりやすく提示し、バイヤーとのパートナーシップを強化することが重要です。
まとめ:現場発の摩擦低減が、製造業の未来を切り開く
エンジンの熱効率向上における摩擦・摩耗対策は、昭和時代から令和のスマートファクトリーまで、変わることのない現場課題です。
しかし今やその「解決アプローチ」は大きく広がりを持ち、新素材、新工法、AIやIoTなど多角的に展開されています。
キーワードは、現場の経験値とテクノロジーの融合。
現場力を殺さず、柔軟なラテラルシンキングで古い常識を打ち破ることが、日本のものづくりを進化させます。
バイヤーの方も、サプライヤーの方も、ぜひ自社現場の摩耗・摩擦課題を「熱効率」という軸で見直し、新しい生産革新へのスタートラインを切りましょう。
摩擦の一滴は、生産効率と企業価値の海を大きく動かします。
現場から始まる摩擦低減のパラダイムシフトこそが、今後の製造業を力強くリードするのです。
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