投稿日:2025年6月30日

エネルギー関連革新技術を活用したレジリエンス分野での技術開発

はじめに:いま製造業に求められるレジリエンスとイノベーション

これまで日本の製造業界は、長きにわたって高度成長期の成功体験を引きずり続けてきました。
現場では昔ながらのアナログ管理、紙の帳票、口頭伝達などが根強く残り、危機管理やBCP(事業継続計画)に本格的に取り組む工場は決して多いとは言えませんでした。
しかしSDGsやカーボンニュートラルへの対応、サプライチェーン分断リスク、さらには頻発する自然災害と、工場経営・現場運営は「従来通り」では立ち行かなくなっています。

そんななか、エネルギー関連の革新技術をてこに、レジリエンス(回復力・しなやかさ)を高める技術開発が各方面で注目されています。
本記事では、長年の現場経験・マネジメント経験で得た視点から、製造業のリアルな課題とともに、
バイヤー・サプライヤー双方が押さえておきたい最新動向と実践ヒントを掘り下げて解説します。

現場視点で読み解く「レジリエンス強化」のニーズと意義

レジリエンスという言葉が経営層からよく聞かれるようになりました。
しかし現場では「自分たちの工場になにが必要なのか」「何から始めれば良いのか」ピンと来ていないケースも多いものです。

なぜいま、レジリエンス強化が避けて通れないのか?

まず、レジリエンスが求められる理由を押さえましょう。

工場の稼働は安定したエネルギー供給が前提です。
ところが、災害時には瞬時に停電し、ラインは停止。
設備やITは復旧に長時間を要し、生産遅延から機会損失が増大します。

また、カーボンニュートラル社会の実現には、省エネ・再エネの導入が急務です。
海外のカーボン規制(CBAM等)と国内需要家からのCO2削減圧力も強まり、取引維持には「見える化」や「削減責任」が不可避になっています。

加えて、電力市場価格の乱高下や、燃料価格高騰などでエネルギーコストも依然高止まり。
工場の損益を直撃します。

この三重苦を乗り越え、「いつ何時でもものづくりを止めない」ための仕組み作り、そして「環境価値の高い生産体制」への転換が、まさにレジリエンス強化の本質です。

高まる「エネルギー起点」イノベーションへの期待

昭和モデルの大量生産・大量消費から令和モデルの「持続型生産」へ。
そのカギを握るのが、エネルギー関連の革新技術です。

例えば、次世代分散型電源による停電時でも止まらない電力供給、「スマートファクトリー化」に対応したマルチエネルギービークル、AI最適制御によるCO2排出・コストのミニマム化など。
こうした先端技術群によって、脱炭素・BCP・省エネの三位一体ソリューションが可能となりつつあります。

経営層はもちろん、バイヤーやサプライヤーにとっても、
「安定生産・安定調達が約束できる」体制を整えることこそ、今後の生き残りの条件になっています。

具体事例で学ぶ:エネルギー関連革新技術の活用と成果

ここからは、実際に筆者が見聞きし体験した製造現場でのエネルギー革新例を取り上げ、
その技術的ポイントやバイヤー・サプライヤー双方にとっての意義を解説します。

ケース1:工場敷地内PPAによるレジリエンス向上とCO2削減

某金属加工メーカーでは、太陽光PPA(電力購入契約)モデルを導入。
従来の全量系統依存型から自家消費型へ移行しました。

通常稼働時は自家消費率7割を達成。
万一系統がダウンしても蓄電池との併用でクリティカル設備の継続稼働を実現できています。

この効果は現場担当者のみならず、調達バイヤーにも重要な示唆を持ちます。
「非常時に出荷が完全ストップしない」サプライヤーは、今後ますます評価が高まります。
またPPAで作られる非化石証書付グリーン電力の供給が可能となり、バイヤー側もScope3削減(間接排出低減)を実現できるメリットもあります。

ケース2:燃料転換とバイオマス熱利用の導入

食料品工場Aでは、LPGから木質ペレット焚き蒸気ボイラーへの転換プロジェクトを推進しました。

アナログ産業である食品工場でも、
・燃料費の安定化
・CO2フリー蒸気による「環境配慮型」商品PR
・廃棄物活用による地域還元
・外部エネルギー依存度の減少
が実現しました。

バイヤー視点では、こうした燃料起源CO2を大幅に削減した環境配慮型サプライヤーは、
調達先評価・ESG投資の観点から確実に有利に働きます。

ケース3:AIとIoTによるエネルギーマネジメント自動化

自動車部品メーカーの最新工場では、
・30分ごとの気象データ
・稼働スケジュール
・需要予測
をセンシングし、AIがエネルギーの「最適制御」を自動実行します。

これにより、ピークカットと省エネを両立、
電力コストは従来比25%以上削減。

工場長のみならず、生産管理や購買担当にとって、
「現場オペレーションに負担をかけず、省エネ成果が見える化される」点は業務効率改革に直結しています。

いま製造業バイヤー・サプライヤーが押さえておくべき業界潮流

エネルギー関連技術を断片的に導入するだけでは、レジリエンスは本当の意味で高まりません。
業界全体の大きな流れをしっかり掴んで戦略を立てることが、これから必須となります。

サプライチェーン全体で「相互補完型レジリエンス」が重視される

一事業所単独で「BCPがある」だけでは、不十分です。
取引先の工場が被災・停電すれば、自社の安定供給も担保できません。

そこで、多層的なサプライチェーン間連携を組み込み、
・被災リスク分散
・増産時のバックアップ体制
・異業種間・異地方間でのエネルギー融通
・再エネ証書など環境価値の相互供給
など、バイヤー・サプライヤーが相互に支え合うレジリエンス強化策が重視されています。

再生可能エネルギー・カーボンニュートラルの「見える化競争」

大手から中小まで、製品1点1点に「カーボンフットプリント」を付与する動きが加速中です。
「ウチは再エネ使っています」「省エネ頑張っています」という主観PRではなく、
エネルギー起源CO2の実量をサプライヤー~バイヤー~最終消費者まで証明できる体制整備が迫られます。

今後は、調達先や工場選定の基準として「CO2データの透明性」「第三者認証の有無」も加味されるようになります。

エネルギー起点の現場革新が、人財育成とブランド価値向上に直結

マンネリ化した現場、昭和流のオペレーションでは、若手や女性の定着も難しくなっています。
エネルギー関連革新は単なる省コストや脱炭素だけでなく、
「最先端技術を活用した魅力ある職場づくり」「技術伝承・現場活性化」促進の起爆剤にもなります。

バイヤーからの発注条件としても、サプライヤー側で
「人材育成」や「技術力」「イノベーションへの前向きな姿勢」が見られる企業が長期パートナーとして選ばれる時代です。

現場目線で推進するための3つの実践ポイント

ここでは、工場長経験者の視点から、レジリエンス分野のエネルギー革新を実現するうえで肝となる実践ヒントをまとめます。

1. ファクト確認と「現場の暗黙知」を可視化する

昭和文化の工場にありがちな「このやり方で長年やってきた」「トラブル時は現場の○○さん頼り」状態から脱却しましょう。

データの取得・分析、手順の形式知化(マニュアル化)、省エネ・創エネ効果の数値化を徹底し、
エネルギー管理士や外部専門家のアドバイスも得て、
現場の“見える化”“標準化”を先導しましょう。

2. バイヤー視点を現場にインストールする

「最終顧客は誰か」「この工程のCO2削減はバイヤーにどう響くのか」「災害時にどこまで納入可か」など、
常にサプライチェーン全体での視点を現場スタッフに浸透させることがカギです。

たとえば月1回、購買担当も交えた「レジリエンステーマ」のミーティングを設けるなどの工夫も効果的です。

3. 小さな成功体験を現場で共有・横展開する

いきなり「全ラインAI制御化」「全拠点再エネ100%」を目指すのは困難です。
まずは、エリア限定の太陽光導入やボイラー燃料転換、
エネルギー最適制御による「1日5万コストダウン」など
小さな成果例をWeb会議・現場掲示・イントラでしっかり共有しましょう。

これが現場スタッフの「やればできる」意識醸成につながります。

まとめ:エネルギー技術で拓く製造業の未来

エネルギー関連革新技術を活用したレジリエンス分野での技術開発は、
単なる設備更新やコストダウンの取り組みを超え、
現場の「ものづくりの力」と経営の「サステナビリティ」を支える新たな競争軸となりつつあります。

アナログ文化が色濃く残る工場でも、「エネルギー起点」の発想に一歩踏み出すことで
・危機に強い生産体制
・CO2排出可視化と競争優位性
・魅力ある現場づくり
という多面的な成果が得られます。

バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤー目線を知りたい方、
また現場改善に悩む方々へ――。
昭和モデルからの脱却を恐れず、現場と未来の両方に「レジリエンスによる新時代の製造業」を共に築いていきましょう。

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