投稿日:2025年8月16日

品質基準書と検査手順書の雛形:写真と判定基準の作り方

はじめに:品質基準書と検査手順書はなぜ重要か

製造業における品質基準書と検査手順書は、製品の品質確保と生産現場の安定稼働を支える大切な基盤です。

現場では、「なぜ不良が出たのか?」「誰が判断したのか?」「判断基準は何だったのか?」という問いに常に直面します。

答えが曖昧であれば、同じ問題が何度も繰り返されます。

品質基準書と検査手順書がしっかりと作成されていれば、現場での説明責任も果たせ、不良の再発防止や取引先との信頼構築にもつながります。

それでは、実際に製造業の現場で培った知見も交えて、品質基準書と検査手順書の雛形、および写真と判定基準の作り方を詳しく解説します。

品質基準書の基本構成と作成ポイント

品質基準書の目的

品質基準書は、製品や部品の品質を定義し、社内やサプライヤーが統一した品質レベルで製造・検査できるようにするための文書です。

これが曖昧では、部署や担当者ごとの解釈違いによって混乱やトラブルが発生しやすくなります。

明確かつ具体的であることが最優先ポイントです。

品質基準書の雛形と盛り込むべき項目

以下の内容を網羅することが現場で役立つ雛形の条件です。

– 文書番号・版数、発行日
– 適用範囲(品番・対象工程・納入先など)
– 専門用語・記号の説明
– 使用材料や部材スペックの明示
– 製品図面および主要寸法表
– 許容差、規格値、外観・寸法・機能の各判定基準
– 判定に用いるサンプル写真やNG・OK例
– 品質異常時のフロー、再発防止策

具体例として次のような表現が有効です。

「A面に5mm以上のキズは不良とする。ただし肉眼0.5m以上離れて見えない程度のものは良品判定」

このように具体的な数値や写真を活用し、現場の誰でも判定できる記述が重要です。

検査手順書の基本構成と現場で生きる作成ノウハウ

検査手順書の目的と意義

検査手順書は製品が品質基準を満たしているかどうか、再現性を持って判定できる検査手法を規定したものです。

どの担当者が検査しても同じ判定結果が得られる「仕組み化」が鍵となります。

検査手順書の雛形:項目と流れ

– 文書番号、版数、発行日
– 対象部品・品番号の明示
– 必要な検査機器・治具のリスト
– 検査場所、作業環境条件
– 手順のフローチャート(例:外観→寸法→機能→梱包)
– それぞれの検査ポイントごとの基準値、判定方法(写真も添付)
– 良品・不良品の判定基準
– 検査結果の記録方法(記入例を付記)
– 検査員への注意事項(「手袋着用必須」や「製品同士の接触禁止」など)

こうした手順書がしっかりしていれば、「今日はベテランが不在だから混乱した」といった属人化リスクをぐっと下げることができます。

昭和アナログ業界から脱却するためのポイント

今なお多くの現場で、ベテラン作業員の勘や経験に頼る部分が残っています。

これを「伝承」と称して美化する風潮もありますが、属人化のリスクや品質ムラ、後継者不足といった問題を孕みます。

ですから規格書・手順書の「見える化」「デジタル化」「標準化」が重要です。

写真による判定基準の作り方

百聞は一見に如かず、現場では写真付き基準が極めて有効です。

– 撮影時は必ず同じ照明・角度・距離を徹底
– OK例・NG例の両方を撮影(境界線判断例もあると実用的)
– 拡大写真、全体写真を併用し、「何が」「どの程度」なら良品か、説明文を付記
– カラーマークや矢印などで問題箇所を明示
– 現場メンバーにも撮影協力してもらい、納得感のあるサンプルを選定

これらの画像を規格書・手順書に埋め込んでおけば、新人や異動者でもすぐに同じレベルで判定できます。

AI画像認識やDXツールの活用も視野に

昨今はスマホやタブレット活用、クラウド化、AI画像認識技術も現場に入り始めています。

写真判定の標準化は、そのままAIへの学習データとして活用でき、手間のかかる外観検査の自動化・省人化という未来像にも繋がります。

これは「カンコツ管理からデータ管理へ」の大きな転換点と言えます。

調達バイヤー・サプライヤーの立ち位置で品質基準書・検査手順書を考える

バイヤーに求められる考え方

バイヤーにとって納入品の品質確保は社内外の信頼を守る生命線です。

「調達先の品質基準書が曖昧ではないか?」「検査手順書が管理され、現場で見直されているか?」を常にチェックすることが大切です。

トラブル時、基準書・手順書に基づき透明性のある説明がなされているかが、取引の継続性・信頼性に直結します。

また、自社内の設計部門との連携も不可欠です。

例えば「このキズはどこまで許容できるのか」など、現場・サプライヤーとの三位一体で基準を進化させましょう。

サプライヤー視点でのポイント

「バイヤー(顧客)は何を重視しているのか」を理解することが契約維持や案件獲得の近道です。

一方的な自社基準ではなく、「エンドユーザー目線で本当に使いやすいか」「品質判定が誰でもできるか」を意識しましょう。

現場で使いやすい手順書や、判定基準に沿ったOK/NGサンプル(治具や写真含む)をセットで提案することは、差別化された強みとなります。

品質基準書・検査手順書導入後の運用と継続的改善

実際に運用するポイント

一度作れば終わり、というものではありません。

何かトラブルが発生した時には「規格書・手順書のここに漏れ・曖昧さがなかったか?」を関係部門で都度振り返ります。

– 現場の声(使いにくい・読みにくい・状況に合わなくなったなど)を定期的にヒアリングする
– サプライヤーや納入先との品質会議で確認・改訂する
– 変更があった際は必ず「改訂履歴」を残し、最新版を全員が使えているかを徹底

「現場で使われない規格書」は形骸化し、せっかくの取り組みが無駄になります。

現場ファーストの運用が大切です。

まとめ:品質基準書・検査手順書は製造現場の“共通言語”

品質基準書や検査手順書は、昭和的な「なんとなく」「ベテラン頼み」の品質管理から、誰でも同じ判定ができる「見える化」「標準化」への架け橋です。

写真や明快な判定基準を盛り込むことで、現場~調達~サプライヤーに通じる“共通言語”となります。

これを武器に、製造業がより信頼される業界へ進化する一助となれば幸いです。

バイヤー、サプライヤー、現場作業者それぞれの立場で、今こそ“品質の共通基準”を磨いていきましょう。

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