投稿日:2025年10月7日

糸のねじれ不良を防ぐテンション制御と糸道整流化技術

糸のねじれ不良とは何か ― 製造現場で直面する課題

糸を取り扱う製造業において、「ねじれ不良」は避けて通れない品質問題のひとつです。

繊維業界はもちろん、自動車内装や医療用織物、電線被覆など、さまざまな業種で糸や線材を使っています。
この「ねじれ不良」が発生すると、最終製品の強度や外観、作業性に大きな影響を与え、最悪の場合は顧客からのクレームや工程不良によるコスト増に直結します。

糸のねじれ不良の原因は、一見すると単純な「糸が捻れてしまった」のひと言で片付けられがちです。
しかし、実際の現場では原糸の物性変動、巻き取り機や供給装置のテンション異常、糸道の摩擦や静電気、あるいは巻き返し時の僅かな速度変動まで、極めて多岐にわたります。

糸のねじれ不良は、「直接的な物損」よりも「後工程への影響」に本質的な深刻さがあります。
巻き癖がついた糸は織布や編み工程で毛羽立ちや飛び出し(ループ、スネールなど)を引き起こし、「全部やり直し」という最悪の決断を迫られかねません。

長年現場で下積みを積み、品質部門や生産管理、調達の実務に携わってきた立場から見れば、このねじれ不良対策は「設備投資して終わり」では済まない、“昭和からの未解決課題”なのです。

ねじれ不良を生む根本原因 ― テンション制御の難しさ

製造現場では、「テンションコントロール(張力制御)」が糸の品質を左右する最重要ポイントです。

糸がリールから供給され、各工程を経て巻き取られるその間、理想的な状態は常に「一定の張力で、直線的に、極力ストレスなく通過させる」ことです。
しかし実際は、設備の小さなブレや、僅かな糸道のズレ、供給ボビン径変動、ロールやガイドの精度不足、周辺温湿度の変化、製造速度の微細な波打ちなど、あらゆる現実的な要素がテンションの安定化を妨げます。

ここに“アナログの壁”が立ちはだかります。
未だ多くの日本の製造業の現場では、テンション測定や張力計の導入が進まず、職人の勘や経験則に依存している場面が少なくありません。

オートローダーやインバータ制御の巻き取り・送り出し装置、サーボモーターの導入という選択肢もありますが、「コストが…」「現場が理解してくれない」「古い設備に後付けできない」といった葛藤も根強く残っています。

テンション制御がズレることで、一部分だけ強いねじれ応力がかかったり、逆に緩すぎてループが生じたりと、ねじれ不良の温床となります。

糸道整流化 ― もうひとつの本質的課題

テンションと並ぶ現場の重要事項が「糸道整流化」です。

糸道とは、糸が原料ボビンから最終巻き取りまで通る“空間的なルート”のことです。
理想は、糸が直線的かつ滑らかなカーブで、不要な摩擦、急角度が一切ない“空気のような道”を通ることです。

実際には、ガイドローラーの配置、素材の選択、糸道カバー(糸道管)、静電気対策ブラシやセラミックガイドの有無、そしてメンテナンス状況が糸道整流の良し悪しを決定します。

「たかがガイド、されどガイド」。
古い現場では「長年同じ配置でやってきたから」と糸道設計への意識が希薄になりがちです。
しかし、巻き癖やねじれの根本要因は、糸道の1ヶ所の変形や摩耗、セルロイドカバーの劣化など、ごく僅かな“違和感”から始まることが多いのです。

現場で磨かれた職人の感覚も重要ですが、3Dシミュレーションや摩擦解析、光学的な糸道の可視化技術(レーザーライン投影、AI画像認識)も近年利用され始めています。
糸道の整流化が進むと、物理的・静電的なストレスも減り、糸のねじれ発生率は劇的に下がります。

現場で使える糸のねじれ防止対策 ― ローコストで高効果な工夫

テンション制御や糸道整流を理屈で理解していても、「実際に現場ですぐできる工夫は?」というニーズが根強いものです。
ここでは、設備投資ゼロ~小額で実施できる実践的な対策を紹介します。

ローラーやガイドの見直しと定期交換

ねじれ不良率の高い現場で私が真っ先に行うのは、「糸が通るすべてのローラ・ガイドの清掃と消耗度チェック」です。
摩耗したローラや裏面に残ったゴミは、糸道に微細な障害を生みます。

安価なアルマイト処理アルミガイドからセラミックガイドや高分子樹脂ガイドへの交換は、初期投資こそ必要ですが、摩耗・静電防止・滑り性の改善で「糸道の空気化=ねじれ防止」に絶大な効果を発揮します。

テンション管理カード・テンション測定器の活用

テンションが職人の“勘”に頼っている現場では、低コストのテンション測定器や、測定値・不良発生位置を可視化する「テンション管理カード」の活用が推奨されます。

特にねじれの多発エリアだけ簡易テンション計(ばね式や電子式)を設置し、不良発生時の数値記録をルール化するだけでも、「発生原因の見える化」「管理者・現場の感覚すり合わせ」が可能です。

糸道経路・設備配置の見直し

長年動かしていない“お決まりの糸道”が本当にベストか、定期的な見直しが大切です。

簡易な糸道変更では、ガイドローラーの追加、遷移角の緩和、曲率半径の大きな配列、ガイド間隔の均等化、糸道クリアランスの確保が効果的です。

自作のレーザーポインタや釣り糸を使って糸道の「直線化」「ねじれレス検査」を試みた現場もあります。
こうした現場発の“既成概念打破”が、ねじれ不良率の劇的改善につながります。

静電気対策の徹底

昭和型の工場で意外と忘れられがちなのが「静電気対策」です。

繊維や化学繊維ラインでは乾燥した現場や高速運転下で静電気が帯電し、糸が不規則に挙動しやすくなります。
アース付きのガイド、帯電防止ブラシ、加湿器設置、適切な作業服(ナイロンNG)を選ぶだけでも、ねじれ不良の発生率を下げることが可能です。

最新トレンド ― デジタル化と昭和的職人技の融合

ここ数年の大きな業界動向は、「アナログな現場+デジタルデータの融合」です。

デジタルテンションセンサーや張力記録クラウドサービス、AIによる糸道監視カメラなど、最新技術の導入が進む一方、ベテラン職人の“手触り観察眼”が活躍する現場も根強く現存しています。

例えばAIカメラは、糸の揺れ・振動パターンからねじれやループの前兆検知を行い、アラートを発します。
そのデータと、現場の班長やオペレーターの“日報記録”を組み合わせることで、「本質的なねじれ原因の特定」に役立っています。

立場や組織を超えた「アナログ受け継ぎ」と「デジタル最適化」が今後の糸のねじれ対策トレンドです。
日本の製造業が次代に進むうえで、過去の現場知恵と最新技術のいいとこ取りがカギを握ります。

まとめ ― バイヤー・サプライヤー目線で考える価値

バイヤーやサプライヤーの立場でねじれ問題を捉えると、「不良を出さず、安定供給できる現場」はそのまま“信頼の証”となります。

品質安定はすべての調達活動の根底です。
ねじれ不良の発生頻度が下がれば、工程トラブル減少によるコスト圧縮、突発クレームや納期ズレの回避=サプライチェーンの適正化に直結します。

バイヤー志望者にとっては、現場の糸の流し方・テンション管理を学ぶことが「納品物の真の品質評価」「生産現場との対話力向上」に役立ちます。
サプライヤー側もバイヤー視点を持ち、「安い」「早い」だけでなく、「現場の品質安定性」をプレゼンできれば、長期的なパートナーシップが築けるでしょう。

“ねじれ不良”という一見ニッチなテーマこそ、日本型製造業の未来を支える重要なテーマです。
現場発の知恵と最新技術のハイブリッドで、製造業の明日を、共にアップデートしましょう。

糸のねじれゼロを目指す日々の現場の工夫が、産業全体の生産性と信頼性、その地平線を大きく切り拓くのです。

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