投稿日:2025年10月9日

織布中の耳伸び・耳巻き不良を防ぐテンター張力と幅制御

はじめに:織布工程と耳伸び・耳巻き不良の課題

織布工程は、製造業の中でも古くから発展してきた分野のひとつです。
とくに日本の繊維産業は、昭和の高度成長期から現在にかけて技術革新を遂げてきました。
ところが、いまだに現場ではアナログ的なノウハウや「職人の勘」に頼っている側面が根強く残っています。
織布の現場における「耳伸び」「耳巻き」といった不良現象もそのひとつで、品質管理・生産性向上の大きな壁となっています。

この記事では、織布中の耳伸び・耳巻き不良が起こるメカニズムを現場の視点で丁寧に解説し、テンター張力や幅制御の実践的なポイント、そして最新技術動向やデジタル化による変化も交えて深堀りします。
調達・購買から品質保証まで、製造業に関わるすべての方の課題解決のヒントになれば幸いです。

耳伸び・耳巻き不良とは何か?現場での影響

耳伸び・耳巻きとは

「耳伸び」とは、織物の布端(耳)の部分が製品の中央部に比べて過度に引き伸ばされてしまい、幅方向に歪みや縮みが発生する現象です。
一方の「耳巻き」とは、織布の端が巻き上げ時あるいは乾燥や熱処理などを経て、外側に巻き込まれてしまう不具合を指します。

いずれも繊維製品そのものの平滑性や寸法安定性を損ない、最終製品の品質・用途に直結する重大な問題です。

不良品発生のリスクと現場の実情

耳伸び・耳巻きは、製品ごとに出やすいパターンがあり、素材や織り設計、仕上げ工程によっても異なります。
たとえばスポーツウェア用の薄手ナイロンや、工業用フィルターなどは特に発生しやすい傾向があります。

現場では「テンター(幅出し機)の調整を間違えた」「最適な張力が見つけ出せない」「オペレーターの慣れや勘に依存してしまう」などの声が多く、突発的な不良発生時には大きなロスに繋がります。
また調達・購買担当者としても、こうした品質トラブルによる納期遅延やクレーム発生は避けたいリスクです。

テンター張力の役割と調整の基本

テンター機の基本構造と重要性

テンター機は、織布や染色の最終段階で布を幅方向に保持し、加熱や乾燥、仕上げの際に寸法を安定させるために使われます。
両側に設置されたクリップやピンに生地の耳を噛ませ、一定の幅で搬送します。
この時の搬送速度や張力、幅は全て最適化されていなければなりません。

ちょっとした張力の偏りが、耳の引き伸ばしや垂れ下がり、耳巻きといった不良を誘発します。

実践的な張力調整のポイント

現場で実際にテンター機の張力をどう調整すれば良いのでしょうか。
一般的なポイントを以下にまとめます。

– 張力(テンション)は過不足がいずれも不良原因
軽すぎると布がよれたり波打ったりする一方、強すぎると耳が異常に伸びて「耳伸び」となります。

– 機械の送り速度・加熱温度とのバランス
乾燥・熱処理によって材料特性が大きく変わるため、送り速度と温度の最適バランスを見極める必要があります。

– 耳部の送り側・受け側の張力差に注意
片方だけ強い(または弱い)と、不均一な伸びが生じます。

– テンター前段階での糊付けや前処理条件
生地自身の強度や伸縮性も大きな要素です。

現場では、製造途中の生地幅を頻繁に測定し、「目視+計測」のダブルチェックを行うことが王道です。

幅制御:アナログとデジタルの両立と新潮流

アナログ時代の悩みどころ

伝統的な幅制御は、現場ベテランの「勘と経験」に頼る部分が多く、微妙な生地特性や前後工程のばらつきを読み取って調整されてきました。
実際には、「1ロットごとに調整が必要」「素材・気温・湿度によって毎日条件が変わる」など、まさに熟練者の長年の知恵が生かされています。

一方で「勘」に頼る手法は標準化しにくく、担当者が変わると品質が安定しないリスクもつきまといます。
また属人化によるノウハウのブラックボックス化は、業界全体の技術発展を阻害します。

デジタル技術の導入と期待される効果

近年はIoT・センサー技術の進化により、生地幅や張力をリアルタイムで計測・モニタリングするシステムが実用化しています。
幅測定センサーやロードセル(張力計)、AIによるパターン解析などにより、オペレーターの「見えない勘」をデータ化し、制御系にフィードバックできるようになりました。

例えば、
– 幅方向の数値データ自動記録
– 異常値検知によるアラーム発報
– 過去データから張力・幅調整の最適パターンをAIが算出

こういった仕組みを導入することで、技能者の属人化から脱却し、安定した品質と生産効率の両立が可能となります。

なぜ昭和的ノウハウから脱却しきれないのか?

根強く残るアナログ思考の要因

なぜ織布の現場では、最新技術導入が進みにくく、「昭和的なやり方」に固執しがちなのか。
大きく3点に集約されます。

1. 設備刷新のコストとリスク
長年使い込んできたテンター機には、現場ごとの細かな改良や特殊パーツが施されています。
最新システムへの切替には多額の投資と、生産停止リスクがつきまとうのです。

2. 職人技術への信頼感
「長年これで問題なかった」「自分たちの方が機械よりも早く異常を察知できる」といった自負が根強くあります。

3. ノウハウのマニュアル化・標準化へ抵抗
口伝や現場メモだけで伝承されてきたため、言語化やマニュアル化が進みにくく、変化を嫌う風土が残ります。

現場×デジタルの融合で未来を切り拓く

重要なのは「アナログの良さ」と「デジタルの強み」を両立させることです。
ベテランの知見を数値化し、異常やトラブル発生時のパターンをデータベース化することで、未経験者や若いオペレーターでも短期間でノウハウ習得が可能となります。
現場で「なぜこの幅に設定しているのか?」「なぜその張力がベストなのか?」をデジタル記録し、組織知として蓄積する。
これこそが、織布製造業の競争力強化につながります。

バイヤー・サプライヤー両視点で押さえておきたいポイント

バイヤーから見た品質安定の重要性

調達担当者・バイヤーの立場で重要なのは、「仕様通りの品質で安定供給できるか」「突発的な不良発生時にどうリカバリーできるか」という点です。
納入後のクレーム・返品リスクも考慮すると、サプライヤー側の製造技術や品質管理体制(耳伸び・耳巻き対策の仕組み)が見えることは、信頼性評価で決定的なポイントになります。

サプライヤーが押さえておくべきアピールポイント

反対にサプライヤーの立場からは、
– テンター張力や幅制御においてどんなデータ管理・改善活動を実施しているか
– 不良発生時のトラブル対応体制
– 生産工程の標準化(作業指示書や記録、教育体制)

こうした数値や仕組みの見える化が、バイヤーへの積極的なアピール材料となり、信頼獲得につながります。

これからの製造現場に必要なラテラルシンキングとは

昭和・平成時代の成功体験や慣習にとどまることなく、横断的に「他の業界の知見」「デジタル化の利点」「人の感覚や直感の活用」「現場のリアル」を融合して発想を飛躍させる、ラテラルシンキング型の問題解決が不可欠です。

「耳伸び」「耳巻き」といった現場ゆえの定番課題こそ、従来の枠組みや思い込みにとらわれず、柔軟な発想とテクノロジーの力で乗り越えていく。
現場志向とデータ志向の両輪で、技術伝承とイノベーションを両立させましょう。

まとめ:「耳伸び・耳巻き対策」のその先へ

織布製造における「耳伸び」「耳巻き」は、単なる不良対策を超えて、現場力の鍛錬・業界の発展への分岐点となる課題です。

– テンター機の張力調整や幅制御の要点
– アナログ現場経験のデジタル資産化
– バイヤー・サプライヤー双方の信頼づくりのカギ
– 新時代のラテラルシンキングによる現場改善

自社や業界の特徴を深く理解しつつ、時代の流れに柔軟に適応する力を、これからの「ものづくり日本」全体で身につけていきましょう。
現場の細やかな気付きと、未来を見据えた技術革新が融合すれば、耳伸び・耳巻きも必ず克服できるはずです。

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