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人が足りない理由を採用だけで片付ける危うさ

目次
はじめに:人手不足の「真因」に目を向ける重要性
日本の製造業界では長らく「人が足りない」という声があちこちから聞こえてきます。
この問題に対し、表面的には「採用を強化しよう」「派遣や外国人労働者を増やそう」といった策を繰り返してきました。
しかし実際のところ、なぜ人がいないのか、その構造的な原因にはなかなか踏み込んでいない場合が多いのではないでしょうか。
私自身、昭和から平成、そして令和と製造業界の現場で働いてきました。
自動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む一方、依然としてアナログな慣習や古い体制が残っています。
このような状況下で「とりあえず採用」「とりあえず派遣を増やす」という発想だけでは、人手不足の根本的な解決にはつながりません。
本記事では、製造現場で日々現実と向き合ってきた経験を踏まえ、「なぜ人が足りないのか」「採用以外で打つべき手は何か」「これからの製造業の現場に必要な意識変革とは何か」について、深く掘り下げて考えたいと思います。
人手不足の「現場感覚」:なぜ人が集まらないのか?
製造業は「人の定着率」が低い
人が集まらない、すぐ辞める。
そういった課題は、製造業では珍しくありません。
昭和・平成の頃は「黙って仕事を覚えろ」「見て盗め」という文化も強かったため、新人が定着しづらい土壌がありました。
近年では新人教育やOJTが重視されるようになりましたが、それでも根本的な変化は鈍いと感じます。
安定した雇用、スキルアップできる仕事、やりがいのある職場環境、そして従業員を大切にする経営姿勢。
こうした「働きやすさ」が十分でない企業は、魅力を感じてもらえずに人が定着しません。
業界イメージの悪化と「3K」問題
製造業は「キツい・汚い・危険(3K)」というイメージが以前から根強く残っています。
実際には自動化や職場環境改善などで大きく変わりつつありますが、イメージはすぐには変わりません。
また、職場の閉鎖性や評価制度の不透明さ、長時間労働、残業過多といった「昭和時代の名残」が今も一部で色濃く残っていることが、若い世代の離職要因になっています。
人材配置と業務設計の「歪み」
「このラインは●●さんがいないと回らない」という属人化が日本の製造業現場には少なくありません。
多能工化や業務標準化など、「柔軟な人材運用」の発想が浸透しきれていないのが実情です。
結果として、休む人・辞める人が出るたびに「また採用しないと現場がもたない」という悪循環になりがちです。
採用「強化」だけの限界:なぜ問題の本質解決にならないのか?
構造問題を見誤るリスク
人手不足を「採用難」という外部要因としてのみ捉えると、どうしても対策が表面的になります。
しかし本当の問題は、その組織・現場が「人が辞めない」「人が集まる」体質になっているか、という内部要因に大きく左右されます。
「どうせすぐ辞めるから、とりあえず数を集めて補填する」
こうした考え方が根付くと、採用コストばかりかかる空回りに陥ります。
また、既存スタッフの負担増や職場環境の悪化にもつながりかねません。
属人化・非効率の「ブラックボックス化」
現場の熟練者任せ、ルールや手順が属人的――こうした現象は、表面化しにくいものです。
しかし、人の入れ替わりが多くなればなるほど、業務の引き継ぎミスやヒューマンエラー、品質トラブルの温床となります。
「とにかく採用すれば大丈夫」と考えていると、実は現場力の弱体化がじわじわ進行していきます。
過去の成功体験から脱却できるか
現場で年配者が多い企業ほど、「自分たちが若い頃はこうだった」という成功体験が強く残りがちです。
その成功体験は、もはや現代の人材市場や働き方には通用しません。
「苦労して一人前、手取り足取り教えるものじゃない」といった精神主義も、もはや通用しない時代です。
本質から考える「人が足りない」へのアプローチ
1.定着率向上への本気の取り組み
人手不足問題の解決は「採用」よりもまず「定着」にあります。
現場の声を丁寧に聞くこと、個々人のキャリアパスを示すこと、評価制度の「見える化」などが不可欠です。
また、技能継承や業務標準化、マニュアル整備、OJTの質的向上など「現場力そのもの」を高める工夫が業績向上やトラブル削減と直結します。
「去る者は追わず」ではなく、「どうすれば辞めさせずに済むか」を徹底追求したいものです。
2.多能工化・業務のデジタル化推進
ラインや職場を「誰でも一定の水準で回せる」状態にする多能工化、手順やノウハウのデジタル化は、人手不足対策として非常に有効です。
技術伝承のための動画マニュアル作成や、棚卸自動化、AI活用による工程最適化。
これらは「既存の人数で最大出力を出す」ための不可欠な改革です。
3.評価・報酬制度の抜本改革
昭和的な「年功序列」や「声の大きい人が評価される」仕組みは、若手のモチベーション低下につながります。
スキルベースでの評価、人事評価の見える化、成果に応じた報酬分配など、透明性ある仕組みづくりが離職・定着の分かれ道です。
4.働き方の柔軟化・多様性尊重
「8時から17時まで現場にいなければ認められない」
「男性中心」「女性や外国人には現場は任せられない」
こうした固定観念や偏見は、今日の人手不足時代には大きな障壁となります。
短時間シフトや育児・介護への配慮、多様なバックグラウンドを持つ人材の積極登用。
現場リーダーが未知の分野にも挑戦できる「心理的安全性」の高い職場風土は、間違いなく人を惹きつける魅力となります。
サプライヤーやバイヤーが知るべき「現場目線」の本音
サプライヤー目線:なぜ安定調達が難しくなるのか
製造現場の人手不足は、そのまま納期遅延や品質低下という形でサプライヤーやバイヤーに跳ね返ります。
「なぜ突然出荷遅延が増えたのか?」
「どうして見積り回答が遅くなるのか?」
現場を知らないと単なる「怠慢」と誤解しがちですが、多くは上記のような構造問題の結果です。
良い取引関係を築く上では「なぜ現場が今、人員に苦しんでいるのか」を正しく理解し、相手企業の体制や課題にも目を向けることが重要です。
バイヤー・調達担当目線:取引先選定で見るべき新基準
価格や納期だけではない、人的資源・オペレーションの健全性や、DX・自動化への投資姿勢、現場従業員満足度など、「人が足りない」を乗り越える体質を持った企業を見極める目が求められます。
また、単発の安価調達だけでなく、安定した協業体制や災害時の相互支援など、「パートナー」という発想が今後は不可欠です。
今後の製造業の「生き残り方」:人の価値を最大化する時代へ
人手不足は、単なる人材確保競争ではありません。
より本質的には、システムや技術・仕組みを磨き、人本来の知恵・力・やる気を「最大化」できる企業だけが生き残れる時代になっています。
採用だけに奔走し、「仕事のやり方」自体を変えられない企業は先細りが避けられません。
昭和時代の成功体験から抜け出し、次世代を担う若者や多様な人材の知恵を取り入れ、抜本的変革に踏み出す――これこそが、人手不足時代の真のサバイバル戦略です。
まとめ:人手不足問題から逃げず、真剣に向き合おう
「人手不足」を単なる採用課題として片付けてはいけません。
本質は「人が辞めない」「人が集まる」「少人数でも最大限のパフォーマンスを発揮できる」仕組みづくりにあります。
現場で培った知恵を活かし、今こそ組織や仕事の“あり方”を根本から問い直しましょう。
それが、製造業の未来をひらく大きな一歩につながるはずです。