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ソリューション導入ありきで人手不足を語る危うさ

目次
はじめに:人手不足は本当に「ソリューション」だけで解決できるのか
製造業における人手不足は、いまや経営課題の最上位に位置づけられています。
政府統計でも、「人手不足倒産」が増加傾向にあり、現場の方々が日々その実感を痛感していることでしょう。
「人が足りないなら、システムやロボットで解決するしかない」。
このような風潮が業界の中で強くなっています。
確かに、デジタル化や自動化、AIなどの最新テクノロジーは強力な解決策です。
しかし、ソリューション導入ありきで人手不足を語る姿勢には、現場を知る人間ほど違和感を覚えます。
私は20年以上、現場の最前線から管理職まで携わってきた経験から、「なぜ現場がその『解』に納得感を持てないか」「そもそも課題の本質はどこにあるのか」を深掘りしたいと思います。
この記事では、現場目線のリアルと、業界のアナログ体質が根強く残る実情を踏まえ設計された「人手不足」の本質、そして真に持続可能な解決について考えを深めます。
サプライヤーの立場でバイヤーの本音が知りたい方や、バイヤーを目指す方も必見の内容です。
現場が感じる「人手不足」の本当の意味
単なる人数不足ではなく、「質的ギャップ」が深刻
多くの場合、「人手が足りない」とは単純に頭数が欠けているのだと誤解されがちです。
しかし、現場で実際にヒアリングを重ねると、「ただ人を増やせば解決」という話ではないのが現実です。
特に製造業の現場作業には、単純作業に見えても高度な経験値や勘が求められる工程があります。
「A工場のBさんでないと、あの微妙な調整は無理だ」
このような“属人化”こそ、昭和から抜け出せない日本の製造業ならではの縮図でもあるのです。
また、IoTなどを使っても最初期の段階では現場を詳細に知るスタッフがデータ収集や判断サポートをする必要があります。
いきなり機械やAIが人間の感覚や機微を丸ごと代替できるわけではなく、「人手不足=自動化、ロボット化で解決」という単純な発想だけでは解が出ないことが多いのです。
労働環境の「可視化されない非効率」
現場のアナログからくる「見えないムダ」や「紙の山」。
朝礼で毎日同じ指示を口頭で繰り返す、日報に手書きで数字を書き写す、同じことで何度も手直しが発生する―。
こういった積み重ねが、「生産性の低さ」や「人手不足感」を増幅します。
しかし、「新システムを入れたから即効で効率化!」とはなりません。
現場が業務に慣れ、風土が育ち、主役である人材が活躍できる状態になって初めて、導入効果をフルに発揮できます。
ここに、多くのソリューション投資が「期待通りの成果を上げられない」ジレンマが潜んでいます。
なぜ「ソリューション前提」は危ういのか
1. 現場とのギャップ:実態に合わないシステム化
ソリューションの導入は一見スマートですが、現場を十分観察しないまま「業務自動化」を推進すると、重たい管理画面、使い勝手の悪い端末、そして「システムへの記録」のためだけの二重作業が生まれます。
システムが現場の工夫や暗黙知、時間帯ごとのルールを吸収しきれていない場合、必ずどこかで破綻が起きます。
また「とりあえず導入すれば解決」というトップダウンの発想に、現場はしばしば疲弊します。
形だけのDX(デジタルトランスフォーメーション)で「仕事が増えただけ」と本音を漏らす現場の声は、製造業界では珍しくありません。
2.「人」が主役であるべき理由
工場の自動化ラインは作れば終わりではありません。
機械は定期的な保全が必要であり、ラインの改善や新製品立ち上げ時に、その都度「人間の知恵」が求められます。
また、「現場力」とは突発的なトラブルや、工程改善などに即座に反応する柔軟性でもあります。
人を主役に置いた業務設計こそ、想定外の出来事にもしなやかに対応でき、真の競争力を生みます。
特にバイヤーやサプライヤーの関係が密な業界では、現場の生の声、創意工夫が供給網全体に波及することが多いです。
3. 「画一的な処方箋」の限界と、昭和アナログの逆説的利点
ソリューションベンダーがパッケージ化した「正解」を持ち込んでも、実は現場ごとに求められる解決策は異なります。
なぜなら、設備の年式、立地、従業員の年齢層、熟練度、組織風土、規模、扱う製品など、まさに「千差万別」だからです。
昭和的なアナログ体質のおかげで、現場ごとに異なる工夫の余地が良い意味で残っています。
一律の標準化から脱却し、各現場が自律的に試行錯誤できる「余白」を保つ――。
これこそが、日本のものづくりの根底にある強さの一つです。
本質的な「人手不足」解決へのアプローチ
1. 業務棚卸しの徹底と「人でなければできないこと」の明確化
真っ先に必要なのは、現行の業務を細かく洗い出すことです。
そして、「人でなければできない仕事」と「自動化・仕組み化できる仕事」を明確に分離します。
たとえば部品の目視検査一つとっても、すぐにAIで代替できる場合もあれば、ベテランの微妙な“気付き”で不良を発見してきたケースもあります。
こうした“現場ごとの違い”を無視してはいけません。
棚卸しとプロセス見直しを通じて、責任や裁量を現場リーダーや有志のスタッフに与えましょう。
2. 「現場の自律性」育成と小さな改善
改善提案活動や「業務カイゼン」は昭和的手法のように見えますが、その本質は今でも十分通用します。
むしろ、現場の「自分ごと」として課題を捉え、日々小さな変化を積み重ねることで、人手不足へのレジリエンスが強化されます。
特に、若手や現場スタッフが活躍できる「場」をつくることが、離職防止や人材定着につながります。
新たなソリューションは、こうした「現場自立型の組織風土」を支える形で導入すべきです。
3. ソリューションは手段、現場×テクノロジーの融合で解を探る
テクノロジー導入はあくまで「人を主役にした現場力」を補完・強化するための手段です。
たとえば、手書き日報のOCR化や業務フローのデジタル記録化など、「小さなデジタル化」から始め、現場と一体で育てていく姿勢が重要です。
また、サプライヤーとのデータ連携やバイヤー・サプライヤー間のコミュニケーションロス削減も、現場とITの併走があってこそ、効果を最大化します。
バイヤー/サプライヤー両者が持つべき視点
バイヤー:現場の「勘所」を理解しパートナーを巻き込む力
調達・購買部門としては、ただ価格交渉や納期調整をするだけでなく、「現場の課題感」を肌で感じ取り、最適なソリューションを選定・提案できる目利き力が不可欠です。
例えば、現場から「こういう点で困っている」という率直な声を聞き取り、サプライヤーと協業して一緒に課題解決への道筋を描くことが、これからのバイヤーには求められます。
安易に「自働化すればよい」「DXすればよい」といった表面的な案でなく、現場の血の通ったストーリーや数字にこだわりましょう。
サプライヤー:単なる「売り」から「共創」への転換
一方サプライヤーの立場では、製品やサービスを納めるだけでなく、「顧客の人手不足課題解決」という視点に立ちましょう。
システムやパッケージを押し付けるのではなく、「この現場ではどんなムダがあるか」「どこにヒトを集中投下したいか」を一緒に考える姿勢が、リピーター獲得の鍵となります。
エンドユーザーの生の声や導入後のフォロー体制構築が、今後ますます重視されるはずです。
まとめ:「人手不足時代」を生き抜くために
ソリューション導入が「人手不足」解決の特効薬のように語られる時代。
しかし実際には、人が主役である現実を忘れた処方箋に、本質的な解決はありません。
小手先の「最新システム」導入に飛びつく前に、現場の実情や組織の風土を徹底的に洗い出し、「人でなければできないこと」「効率化して人材を活かすポイント」を整理する。
現場スタッフ自らが主導権を握る「自律性」と、小さな改善の積み重ねが、結局は生産性向上と競争力強化への最短ルートです。
昭和アナログを否定するより、“人間らしい現場力”をどう磨くかを主軸に据え、テクノロジー投資をしていくべき時代です。
調達・購買、現場、生産管理、サプライヤーすべての立場で「現場目線」を持ち続けることこそ、製造業を次の高みに導く最善策ではないでしょうか。