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地方企業で一人二役が当たり前になる怖さ

目次
はじめに:地方企業の現場、なぜ一人二役が常態化するのか
近年、製造業は大きな転換期を迎えております。
特に地方企業では、慢性的な人手不足やコスト削減の圧力から、「一人二役・三役」が“当たり前”の風潮になっています。
このような勤務体制は一見、会社にとって効率化や経費削減の妙策に思えますが、長期的には深刻なリスクを内包しています。
私は20年以上、製造業の現場で管理職として勤務し、調達購買から生産管理、品質保証まで幅広い業務を経験してきました。
現場のリアルを踏まえ、「なぜ地方製造業で一人多役が根付くのか」「それが抱える本当の怖さ」「対応するには何が必要か」を分析し、製造業の皆様や将来的にバイヤーを目指す方、サプライヤーでバイヤー心理を知りたい方へ向けて、実践的な提言をお届けします。
なぜ一人に複数の役割が求められるのか
1. 人手不足の常態化
地方の製造業は、人口減少や若年層の大都市流出の影響で慢性的な人員不足に悩まされています。
求人を出しても応募が少なく、結果的に既存の従業員が複数業務を担当せざるを得なくなっています。
2. 業務の効率化・コスト削減名目の「圧縮」
人件費抑制や効率化推進の名のもと、管理職が複数部門を兼任したり、現場作業員が調達や書類業務も担当したりする事例が増えています。
この「圧縮」が進むことで、現場の多能工化が加速度的に進みました。
3. 昭和的マインドの残存と「根性論」
地方企業ではいまだに「少数精鋭でなんでもやるのが美徳」「苦しい時は助け合い精神」という昭和的価値観が色濃く残っています。
これが一人多役化に拍車をかけています。
4. 業界特有のアナログ体質
デジタル化・自動化の波に乗り遅れ、手作業や紙ベースの業務が多いために効率化が進んでおらず、本来自動化できるはずの部分も人で賄っている現状も見逃せません。
一人二役の怖さ:現場の実態から
1. 属人化によるリスクの増大
一人二役が進んだ現場では、業務ノウハウや手順が「その人だけ」に依存する属人化が発生します。
この人が病気や転職等でいなくなった時、現場は大混乱に陥ります。
引き継ぎは難航し、最悪の場合、受注の機会損失や品質トラブルに直結します。
2. 品質と納期トラブル増加
各担当が複数業務に追われ、本来の専門性や注意力が分散しがちです。
これにより、検査漏れや工程ミス、納期遅延などのトラブルが顕在化します。
現場でよく聞く「忙しくてダブルチェックできなかった」が、顧客クレームにつながる例も珍しくありません。
3. ストレスの増大と離職リスク
複数の重要業務をこなすことで心身的な負荷が高まり、慢性的なストレスと疲労に蝕まれていきます。
結果として、ベテランや中核人材が心も体も擦り切れて離職するリスクが急増。
現場の生産性がさらに下がる「負のスパイラル」を招きます。
4. 改善活動やイノベーションが停滞
日常業務に追われると、そもそも改善活動や新しい取り組みへのリソースを割けなくなります。
結果、現場にイノベーションが生まれず、競争力の低下に直結します。
買い手(バイヤー)、売り手(サプライヤー)両視点で見る実情
バイヤーの視点:サプライヤーへの懸念が増える
バイヤーはサプライヤーに対し、「複数の主要担当者が退職・病欠した場合のリスク」を非常に気にします。
もし属人化が強く、バックアップ体制がなければ、重要な取引自体を避ける判断に傾く場合すらあります。
また、このような現場では新しい取り組みや無理難題に消極的になる傾向が強く、柔軟な対応力を求めるバイヤーには敬遠されがちです。
サプライヤーの視点:取引拡大や受注チャンスが遠のく
一人多役が常態化した現場は「とにかく毎日が手一杯」になり、営業活動やプレゼン、外部対応にエネルギーを割けません。
バイヤーの期待を超える提案や、緊急時の柔軟な対応が難しくなり、結果として新規案件や拡販のチャンスをみすみす逃してしまいます。
これからどうする?現場起点のリアルな処方箋
1. 真の業務見える化・標準化がカギ
「マニュアルを整備してます」という企業ほど、実際には最新化されていなかったり、現場で使われていなかったり…が現実です。
属人化を防ぐには、真の意味での業務フローの見える化、タスク細分化、重要ポイントの標準化が不可欠です。
引き継ぎシートや動画マニュアル、OJTの仕組みを作ることで、不在時や新人でも最低限の品質が担保できる状態を目指しましょう。
2. 業務の棚卸しと仕事の断捨離
「長年やっているから」が理由で残されたムダ業務や過剰な手順を棚卸し、本当に必要な業務だけに集中する断捨離が必須です。
優先順位を明確にし、少人数でも回る仕組みを現場から徹底しましょう。
3. 部分的なデジタル化で負担軽減と品質担保
完全な自動化・IT化は難しくても、受発注・在庫・品質記録など一部のデジタルツールの導入で大幅に工数削減できます。
例えば無料のクラウドサービスや表計算ツールを活用するだけでも、社内情報の共有がスムーズになります。
4. 兼任者のストレスマネジメントと健康配慮
多役を担う人には、定期的な面談や労務管理で負荷の見える化を。
繁忙期には外部ヘルプや業務の一部外部委託も検討しましょう。
メンタルヘルスや過労対策にも本気で取り組むことが、結局は会社を守る一番の近道です。
まとめ:一人多役時代をサバイブするために
一人二役・三役は短期的なやりくり策にすぎません。
その「怖さ」に気づかぬまま、現場に負荷を押し付け続ければ、いずれ人も事業も立ち行かなくなります。
現場の声をよく聴き、業務改革・改善に本気で取り組むことが、これからの製造業の成長に不可欠です。
バイヤー・サプライヤーの信頼関係、いいモノづくりの継続、そして社員の本当の幸せのために――。
「一人多役が当たり前」を疑い、未来に向けて一歩を踏み出す現場が、これからの製造業を変えていくと私は信じています。
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