- お役立ち記事
- “とりあえずプロト試作”で根拠なしに進むプロジェクトの危険性
“とりあえずプロト試作”で根拠なしに進むプロジェクトの危険性

目次
はじめに:製造業における“とりあえずプロト試作”の現状
日本の製造業、とりわけ長い歴史を持つアナログな現場では、「とりあえずプロト試作(プロトタイプをとにかく作る)」という文化が根強く存在します。
新品開発や既存製品の改良、新工程の立ち上げにおいて、“まずは形にしてみる”こと自体は、モノづくりのダイナミズムです。
しかし、この“とりあえず”が無計画・無根拠で進められる場合、多大なリスクや非効率を生み出してしまいます。
本記事では、
– 製造業で“とりあえずプロト試作”がどうして起きやすいのか
– どんな危険性が潜んでいるのか
– これからの製造業が目指すべき健全な新製品・プロセス開発とは何か
について、現場経験を踏まえつつ解説します。
なぜ“とりあえずプロト試作”が横行するのか
昭和的な現場感覚と意思決定の短絡
背景には、昭和から平成、令和にかけてさしてアップデートされてこなかった「現場主導」の開発文化があります。
営業や顧客からの要望に対し、「とにかく早く何か見せてアピールしたい」
あるいは、「紙上で議論しても分からないから、一回作ってみてから考えよう」
そんな精神論的なアプローチが、現代の設計開発プロセスでも根強く残っています。
また、
– 上層部の急な方向転換
– 杓子定規なスケジュール遵守
– ITツールやDXが浸透しきらない設計~調達~現場の連携
も、“とりあえず作る”を助長する要素の一つです。
失敗を許容できる雰囲気の未醸成
本来、プロトタイピングは低コスト・短納期でPDCAを高速回転させ、失敗を早く吸収し、次の学びや改善につなげるために行うものです。
ところが日本の多くの工場現場では、失敗=マイナス評価という空気が漂い
– 失敗の本質的な原因追究
– 初期段階での十分な検討
が置き去りにされがちです。
結果として「原因も検証も曖昧なままプロトだけが積み上がる」という状況となり、社内資源の浪費へとつながっています。
プロジェクト進行の危険信号:よくある“根拠なきプロト”の兆候
製造現場で経験則から言える、“とりあえずプロト”の危険な兆候をいくつか挙げます。
明確な目的や評価指標が不在
「何をどこまで確認・立証するためにこのプロトをやるのか?」
「評価のGO/NOGO基準は何か?」
こうした設計思想や条件定義が曖昧なまま、“何となくやる”は最も危険です。
過去の失敗・市販品リサーチが疎か
以前の類似案件での失敗事例や、既存市販品とのベンチマーク・差異分析をせず、同じ轍を踏む。
これはサプライヤー選定や部品調達の視点からも、バイヤー・サプライヤー双方に大きなリスクとなります。
量産移行・コスト設計が後回し
「とりあえず動けば…」「発注はあとで考えよう」と、コスト・QCD(品質・コスト・納期)要件を無視するパターン。
この場合、量産工程に移行する際「コストが合わずキャンセル」「量産で作れない設計だった」という大きな後戻りが発生します。
“根拠なきプロト試作”によるリスクを現場視点で具体的に
リソースの浪費と機会損失
有限の工数・人員・設備・予算を、“ゴールの見えないプロト”で消費すると、真に価値ある製品開発や工程改善に回す資源が縮小します。
また、複数案件を抱える購買部や品質管理部門では「対策・検証漏れ」が雪だるま式に膨らみ、トラブルの温床を作り出します。
バイヤー/サプライヤー間の信頼低下
「仕様が二転三転する」
「結局量産できないのでキャンセル」
「コストが合わないから一から見直し」
こうした調達・購買の現場での“振り回し”は、サプライヤーの信頼喪失につながり
サポート体制の弱化や長期的なパートナーシップ破綻を引き起こします。
品質トラブル・市場クレームの増加
根拠のない設計変更やプロトの先行投入は、信頼性評価や品質保証が追いつかず、量産製品での不良率増、リコールリスク拡大を招きます。
成功するプロト開発のためのラテラルシンキング的アプローチ
“とりあえず”から“必然”へ──製造業には新しい視点・深い思考が求められます。
Whyを徹底的に掘り下げる
プロジェクト推進の際は、「なぜこの試作を行うのか?」を5回以上繰り返して真因を掘り下げましょう。
– 誰のどんなニーズを満たすのか
– どの段階でどんな情報・検証が必要か
これを徹底することで、不必要な“お試しプロト”を減らせます。
DX・デジタル技術の利用によるバーチャルプロトタイピング
現在ではCAEシミュレーションや3DCAD、VRを活用すれば
現実世界で物理的に試作をする前に、デジタル環境で高速に検証できます。
実機トライアルの頻度・規模を減らし、要点を絞った試作ができます。
三現主義+コミュニケーションの再構築
「現場・現物・現実」を押さえつつ、異なる部署や調達先(バイヤー・サプライヤー)、現場オペレータとの水平対話を重視しましょう。
複眼的な意見を反映できれば、視野が狭まった“自己満足プロト”からの脱却が図れます。
評価基準(KPI/KGI)の明確化と合意形成
プロト試作前に“何をどう評価して、次に活かすか”の定量指標をきちんと設定し、社内外で合意しておきましょう。
バイヤーがこの点を抑えてサプライヤーと情報共有することで、無駄な後戻りや仕様変更リスクを減らせます。
“とりあえずプロト”から脱却するためにできること
経営層・マネジメントの意識改革
上層部が“スピードだけ”を求め、プロセスよりアウトプットを重視しすぎる風潮は、現場の形骸化を招きます。
戦略的なリードタイム短縮や失敗の早期吸収を目指しつつも、
– プロト実施の妥当性確認
– タイムリーなレビュー/フィードバック
を仕組みとして埋め込む必要があります。
現場重点ではなく“設計~調達~生産”の全体最適へ
部分最適の試作や判断をなくし、全体的な最適化を意識する。
バイヤー・サプライヤーの間では「QCDバランスを踏まえた長期パートナーシップ構築」を目指しましょう。
仕組みの上では、
– QCDS(品質・コスト・納期・サービス)に基づくチェックリスト活用
– プロジェクト開始前のTo-Beプロセス合意形成
などが有効です。
まとめ:プロト試作は“考えるための手段”、それ以上でもそれ以下でもない
製造業の現場では、「まずはやってみる」の精神も重要ですが
それが“思考停止のあいまいなプロト”に流れては逆効果です。
– Whyを深堀りし、目的・評価基準を明確に
– 必要ならデジタルを活用して“バーチャル検証”からスタート
– バイヤー・サプライヤー・現場の三位一体で、納得度の高いプロトを目指す
この三点が、昭和的アナログ現場から脱却し、競争力のあるモノづくり文化構築に必須です。
“とりあえずプロト”から“考えるプロト”へ。今日から一歩ずつ、現場から変革の風を起こしましょう。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)