投稿日:2025年12月5日

レビューで毎回指摘される同じ問題を根絶できないジレンマ

はじめに――現場で繰り返される「同じ指摘」の真因

製造業の現場に長く身を置いていると、何度もレビューで同じ指摘を受けてしまう、そんな光景に出くわすことがあります。

たとえば「なぜか検図で毎回同じミスを指摘される」「品質監査で同一内容の問題が毎年のように挙がる」「発注書の書式不備がいつまでもなくならない」など。

一度や二度ならまだしも、改善指示や対策書を作成し続けているのに、なぜ”癖のように”同じ問題が繰り返されるのでしょうか。

この悩みは、現場担当者だけでなく管理職や経営層、そしてバイヤーやサプライヤーにも共通する「製造業の永遠の課題」でもあります。

本記事では、この根深いジレンマの本質をあらためて深掘りし、なぜ昭和的アナログ文化の名残が根強く残るのか、そして本質的な解決方法までを、現場×ラテラルシンキングの観点で紐解いていきます。

なぜ毎回同じ指摘が繰り返されるのか?――表層的な原因編

1.「言われたから直す」対症療法の落とし穴

現場での「指摘→修正」は、どうしても“その場しのぎ”になりやすい傾向があります。

たとえば監査や出荷検査で「この表示ラベルの仕様が違っている」と指摘される。
現場は慌てて修正指示を出し、対策報告書を上司に提出。
一見、問題は解決したように思えますが、なぜか半年後に同じことが起こる。

このような場合、根本原因よりも「目の前の火消し」対応になりがちです。
つまり「直すべき本質」が残ったまま、形だけの修正でやり過ごしてしまうのです。

2.「暗黙知」の壁と引き継ぎ漏れ

ベテラン作業者だけが知っている“現場流”の工夫や注意点は、マニュアルに反映されず、担当が変わった途端に同じミスが再発しがちです。

特にアナログな会社ほど「前任者の頭の中」に頼る運用が密かに続いており、これが代替わり時の大きなリスクとなります。

3.IT化・自動化の遅れと帳票文化のジレンマ

デジタル化が進むと言われる一方、日本の多くの製造現場では紙ベースのチェックリストや印鑑文化が根強く残っています。

「形式チェック」そのものが目的になり、書類は通っても現場の動きは変わらない。
こうした形式主義が「指摘事項を真に活用できない」要因にもなっています。

根本原因を掘り下げる――昭和型組織文化と本質理解の不足

1.品質問題の“温床”は、上下の情報断絶

昭和から続く大企業ほど、「下からの声は上に届きにくい」構造がまだまだ根強いです。

管理者は「チェックリストや監査用の書類を整える」ことに重点を置き、現場のリアルな課題やヒヤリハットが組織的に吸い上げられません。

結果、同じ課題が“形を変えて何度も”発生します。
特に品質問題は「見て見ぬふり」が繰り返されやすく、チェックが形骸化する温床となります。

2.真因追求の姿勢が育ちにくい理由

なぜ「なぜなぜ分析」などの本質的な改善活動が定着しにくいのでしょうか。

その背景には、「責任を誰かに押し付けたがる文化」が少なからず存在します。

例えば、「誰の責任か?」に固執しすぎて「なぜそのミスが起きたのか」を深堀りせず、責任者だけを替えて対症療法で終わってしまう。
結果、システムや構造自体は何も変わらず、同じ指摘が繰り返されることになるのです。

3.技術伝承のメカニズム不足

製造業の現場では「技術・ノウハウの伝承」が大きな課題です。

「形だけのOJT」や「なんとなく教える」では、肝心なポイントが伝わらないことが多々あります。
この結果、毎回のレビューや監査で“説明済みのはずの問題”が繰り返されがちです。

視点を変える!バイヤーとサプライヤーの間の摩擦と課題

1.バイヤー視点――なぜ同じ問合せや指摘がサプライヤーに繰り返されるのか

バイヤーとしては「何度伝えても同じ仕様漏れや納品ミスが出てくる」という悩みはつきものです。

その裏には、
– サプライヤー側が「仕様変更理由」まで正しく理解していない
– 社内の情報伝達ルートが複雑すぎて、肝心の現場に細かい要求が伝わらない
– 品質基準や調達要求が“形式的”になってしまい、現実的に運用しきれていない
などの背景があります。

2.サプライヤー視点――バイヤーの繰り返し質問の“真意”

サプライヤー側からは、「また同じチェック項目か」「どこを見ているのか」疑問に思うこともあるでしょう。

しかしバイヤーがしつこく同じ指摘をする場合、
– リスク回避のために“複数回確認”を求められている(会社としてのルールである)
– 信頼関係構築の観点で「継続的な是正と運用」を重視している
– 調達先として“人材の入れ替え”や“工程変更”のリスクがあるため、発生状況のチェックが重要

といった、ビジネス的な理由が背景にあります。

ですから、単なる「面倒な姑チェック」だととらえるのでなく、継続受注や今後の条件交渉に活かす情報だと認識することが大切です。

3.「なあなあ文化」の落とし穴

特に日本のサプライチェーンでは、「阿吽の呼吸」や「話せば分かる」といったなあなあ文化が根強く残っています。

これが実はリスクで、現場の「分かっているつもり」や「あとで調整」がトラブル再発の原因になりがちです。
データ・ロジック・会話の回数を増やすことは、無駄に見えて実は“摩擦係数を減らす”最善策である場合が多々あります。

業界全体が抱える“昭和アナログ構造”の功罪

1.紙文化はリスク分散システムだった

多くの工場では、手書き帳票や三重チェック、現場リーダーのハンコラリーが健在です。
確かに「IT化推進」の動きは進んでいますが、紙文化が根絶できないのは“組織的なリスク分散”の仕組みとして根付いてきたからです。

つまり「個人に依存せず、複数人で確認することで大ミスを防ぐ」という昭和的な安全網でした。
この構造を踏まえてデジタル化を進める必要があります。

2.見えにくい問題を「見える化」するには

同じ指摘が繰り返される背景には「問題点が霞んでいる」「形式的な形にしか残らない」ことが多いものです。
ここで大切なのは、「現場の声」「チェック項目」「発生要因」の三つを“ストーリー”でつなげてみることです。

例えば、単なる「出荷ミス」ではなく「なぜ現場でミスが起きたのか」「どんな負荷や情報断絶があったのか」を、現場・管理職・バイヤー・サプライヤーの全員で可視化する共同作業が必要です。

本当に同じ問題を根絶するための現場起点アプローチ

1.「現象」→「なぜ」→「仕組みとして」へ

解決のためには、「指摘されたから直す」→「なぜ起きたのか」→「今後起きない仕組みを作る」という三段階に現場思考をシフトすることが大切です。

例えば、
– 原因を「人のミス」や「注意不足」に矮小化しない
– 工程設計や設備、マニュアル、コミュニケーションの仕組み自体を見直す
– 一連の流れを定量的・定性的データで「可視化」し、手順やツールを刷新する

こうした”ラテラルシンキング”で、枠にとらわれない対策を生み出しましょう。

2.現場主導の仕組みづくりと、属人性の排除

「チェックリスト」は現場で使えるように現場が作る。
「伝承ノート」「動画マニュアル」など、新しい伝え方やツールをどんどん取り入れる。

“ルールを守るための運用”から“ルールそのものを進化させる文化”へ、一歩先を行く現場改革を目指す必要があります。

3.改善活動に「巻き込む文化」を根付かせる

改善は「上が決めて下に伝える」ではなく、「実際に運用する現場の声」を主軸にすること。
監査やレビューの場も、「指摘の受け手」だけにせず、部門横断で原因と対策を共有する“巻き込み型クロスレビュー”が非常に有効です。

また、納入先やバイヤーにも積極的に事情を説明し合うことで、「共通ゴール」の再発見と、お互いの信頼醸成に繋がります。

まとめ――“根絶できない”を“突破口”に変えよう

同じ問題をレビューで毎回指摘されるジレンマ。

それは、現場の伝統文化、形式的な対応、上意下達、一方通行の情報伝達、暗黙知のブラックボックス――
多くの“昭和的構造”が絡み合うために生じているのです。

ですが、見方を変えれば「定点観測で同じ指摘が繰り返される」ことは、業界全体に共通する“進化ポイント”がそこに隠れている証拠でもあります。

現場・バイヤー・サプライヤー、誰もが“なぜ同じ指摘が起き続けるのか”を真正面から問い直し、
組織風土と伝承文化、デジタルとアナログの融合、巻き込む文化を創り続けること。

それこそが、「同じ指摘ゼロ」社会への突破口となるのです。

変化を恐れずに、現場で汗をかく皆さんが一緒に新しい地平線を切り拓いていきましょう。

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