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コストと品質が両立しない時に板挟みになる品質保証の苦悩

目次
はじめに:コスト削減の波と品質保証の板挟み
ものづくりの現場では、コストダウンの要請と品質確保の両立が長らく永遠のテーマとして語り継がれてきました。
とりわけ近年の原材料費高騰、為替の変動、グローバル競争の激化などにより、コスト低減ニーズはかつてないほど強まっています。
他方、消費者やユーザー側の品質要求レベルも年々高まるばかりで、現場の品質保証担当者の負担は増す一方です。
昭和から続く「現場主義」「現物重視」の文化を色濃く残す製造業界では、安易なデジタル化やペーパーレス化すら難航する風土が根強く残っています。
つまり、従来のアナログな業界動向と、変革を求める現代の潮流がせめぎ合う、その最前線に立たされるのが品質保証担当者なのです。
この記事では、実際に品質保証業務に携わり、バイヤー・サプライヤーの双方の立場を経験した筆者が、実践的な現場目線から「コストと品質の板挟み」の実態と乗り越え方について深く掘り下げていきます。
品質保証の現場が直面するコストと品質のジレンマ
製造業界における典型的なコスト削減プレッシャー
まず、製造業の現場でコスト削減がどのように進められるか、現場目線で整理します。
調達部門は、グローバル調達や複数サプライヤーへの切り替え、仕様簡素化、LCC(ローコストカントリー)活用など様々な策を講じます。
生産管理では、段取り短縮、スループット改善、歩留まりの向上などが常に求められます。
現場ではこれらコスト優先の要請が、時に品質保証の業務に大きな歪みとして跳ね返ってきます。
典型的なのは「品質に影響しうるコストカット案」が現場に持ち込まれ、品質保証担当者がその可否判断を迫られる場面です。
「これを使えば部品単価は6割に下がります、でも品質への影響は…」という提案が、時に十分な検証期間も確保されぬままに上層部から下されることも珍しくありません。
サプライヤー・バイヤーの力関係と現場の実態
調達先であるサプライヤーには「コスト低減に協力しなければ取引縮小もあり得る」という圧力が根強く存在します。
バイヤー側は、品質保証部門に「最低限このスペックでコストを落とせ」と現実的な判断を迫りがちです。
一方、品質保証担当者としては、スペックダウンによる潜在的不具合リスク、製品クレーム時の責任や再発防止検討への負担など、これらを背負い込まざるを得ません。
サプライヤーもまた、コスト軽減の無理な要請に対し品質をどう担保するか、頭を悩ませています。
多くの場合、板挟みとなった品質保証担当者は「社内の調整役」や「サプライヤーとの防波堤」的な位置づけとなり、時に孤立感すら覚えるのが現実です。
昭和から続く業界文化がもたらす隘路
現場主義と形式主義の微妙な関係
日本の製造業では「現場で現物を見て話す」「長年の勘と経験で仕事を進める」という文化が根強く残っています。
この文化自体には良い面もありますが、「前例踏襲」「問題は現場の腕でカバー」となりがちで、合理的なコスト・品質の判断が後回しになるケースも多々見受けられます。
特に品質保証部門では「品質至上主義」の形式論が先行することもあり、「細かな検査項目の網羅化」や「誰も読まないレベルの手順書作成」に多くの工数が割かれています。
これはある種の自己防衛的な動きとも言えますが、「実際に品質を守るための本質的判断」からはやや外れやすいのが現状です。
なぜ「設計品質」より「検査品質」が重視されてしまうのか
工程能力と設計段階での品質造り込み(いわゆるDesign for Quality)が未成熟なまま、問題が起きた際は検査強化で対応するという風潮も、いまだ多くの現場に根付いています。
「もっと工程能力を高めるべき」「設計段階で議論すべき」という声が上がっても、現場との力関係やコミュニケーションの難しさから、後手に回る傾向が続きがちです。
その結果、検査コストばかりが膨らみ、肝心のコストメリットが得られないという悪循環が起こりやすいのです。
コストと品質の落とし所をどう見つけるか?
品質保証の本当の役割は「現場の通訳」
製造業の板挟み構造を抜け出すカギは、品質保証担当者が「現場と経営、サプライヤーとバイヤーの通訳」的な役割を自覚し、その調整力を高めることに尽きます。
具体的に言えば、「この品質で本当に問題が起こる確率はどれほどか」「工程能力で吸収可能か」「サプライヤー側に無理な要求をしていないか」など、説得力あるファクトベースで議論する姿勢が必要です。
時に数字や現物・現象の分析で根拠を明確化し、場合によっては「不良流出が起きてもトータルコストで吸収可能」という合意形成まで持ち込む度量も求められます。
「すべてを守る」のではなく「ここまでは許容する」というリスクテイクの意識が重要です。
現場で使えるコスト・品質評価のフレームワーク
たとえば下記のようなフレームワークを活用すると、議論の土台を作りやすくなります。
・FMEA(故障モード影響分析):潜在不具合の発生確率と影響度を点数化
・QFD(品質機能展開):顧客要求を品質特性にブレイクダウンし、仕様変更のインパクトを可視化
・損益分岐点分析:リスク対応費用と不良流出時の損失額を比較
経営層や調達部門、サプライヤーに対し、「もしこれで妥協した場合のリスクと経済合理性」を説明できると、板挟みから一歩抜け出すきっかけになります。
サプライヤーとの共創的パートナーシップの重要性
もう一つ重要なのは、サプライヤーとの力関係を単なる支配・被支配ではなく、共創の関係に転換することです。
現場では「コストを下げろ」ばかりが先行しがちですが、「このコストまでなら双方が利益を確保できる」「そのための品質条件はここまでで良い」という建設的な話し合いこそ実は理想です。
とりわけLCCなど海外サプライヤーとのやり取りでは、言語・文化の違いで品質の細かなニュアンスが伝わりにくいので、「たまたま不良が減った/増えた」ではなく、「工程・設計でどこまでリスクを許容できるか」を数字で落とし込む努力が求められます。
時代の変化に取り残されない「品質保証人材」への道
デジタル化・自動化・データ活用の視点を持つ
近年、IoTや自動化技術を一部の先進現場では積極的に導入しており、「品質保証にもデータの時代」が押し寄せてきています。
AI外観検査、ビッグデータを使った異常検知、データを基盤とした予防的品質活動などが拡がりつつあります。
昭和型の「検査人材」から、「データサイエンスを理解し、工程全体を見渡せる品質保証人材」への脱皮こそ、コストと品質のジレンマを越える地平を指し示すでしょう。
しかし大切なのは、デジタル化の推進ありきではなく、「その技術で本当に品質とコストの両立につながるのか?」という現場目線の的確な問いを持ち続けることです。
対話力・ファシリテーション力の重要性
品質保証の労苦の大半は「他部門やサプライヤーとの複雑なコミュニケーション」に起因しています。
折衝力・合意形成力・ロジカルシンキング・現場で語る力など、いわば「ファシリテーター」としての実力が問われています。
対話を通じて相手の事情や本音を引き出し、共通のゴールを見いだし、納得して現場を動かす…。
これこそ、旧来の「検査屋」「監視役」にとどまらず、会社や事業全体の実力アップにつながる人材像です。
まとめ:コストと品質のジレンマに向き合うために
製造業の現場で渦巻くコストダウンと品質確保の板挟み。
その苦悩は、単なる業務量の増大以上に、「すべての関係者を調整しながら最適なバランスを取り続ける」という見えないストレスから来ています。
しかし、現場目線で事実を突き詰め、合理的なデータと数字を武器に真摯に対話を重ねていくことで、このジレンマは必ず打破できます。
「すべてを守る」のではなく、「トータルの最適解」を探る覚悟と、言葉と数字をもって現場・サプライヤー・経営層との間をブリッジする力こそが、昭和型品質保証からの卒業に必要なのです。
この苦悩を乗り越えた先に、より強い日本のものづくり、そして次代を担う専門人材の成長があります。
現場の皆さんと共に「新たな地平線」を切り拓く、その小さな一歩をぜひ踏み出していってください。
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