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工程の“暗黙の順番”が存在し変更できない理由

目次
はじめに:製造工程に潜む“暗黙の順番”とは
製造業の現場では、「なぜこの工程はこの順番なのか?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
特に、長年続く伝統的な現場や規模の大きい工場ほど、工程の順番は絶対的なものとして扱われがちです。
これが、いわゆる“暗黙の順番”です。
一見非効率に見えても、誰も手をつけられずに続いている工程の並びがあります。
本記事では、その“暗黙の順番”がなぜ根強く存在しているのか、なぜ容易に変更できないのかについて、経験者視点で実践的かつ業界特有の事情から解き明かしていきます。
バイヤー志望の方、サプライヤーの方にとっても、購買や交渉の現場で役立つ内容となるはずです。
そもそも工程の“暗黙の順番”ができる理由
人の経験則による刷り込み
現場で最も多いのは「昔からこの順番でやっている」という理由です。
これには、製品品質を安定させるためのノウハウや失敗経験、多くのトラブル回避が蓄積されています。
つまり、長年の成功体験と失敗回避の知恵が、無意識のうちに工程順を固定しているのです。
新人指導の際にも、マニュアルよりも「先輩のやり方」が優先される現場が今も数多く存在しており、これが次世代へと受け継がれていきます。
設備投資とレイアウトの物理的制約
工場は一度レイアウトが決まると、設備移動には多大なコストと時間がかかります。
ライン生産方式の場合、各工程がベルトコンベアで直列につながっているケースもあります。
もしある工程の順番を変えたくても、機械の設置場所や配線、水・電気・エアーなどのインフラが密接に関連しているため、現実的には簡単に変更できないのです。
品質保証体制・規格遵守の壁
製品品質のためには「この工程が終わった後でないと、次の工程に進めてはならない」という暗黙のルールがあります。
たとえば医薬品や食品業界、自動車などは特に厳格です。
ISOや各種認証取得にともなう手順の証跡があり、工程順の変更には多くの文書修正や再承認が求められます。
品質を守るための“見えない鎖”が、変更のハードルを高くしています。
工程の順番が変えられない心理的ハードル
現場の担当者や管理職にとって、自分の決断が生産効率・品質・安全に重大な影響を及ぼすプレッシャーは計り知れません。
「もし自分が順番を変えて不良が増加したらどうしよう」「出荷トラブルになったら会社が傾くかも」という強い心理的ブレーキが働きます。
これが、“動かせない伝統”として定着する大きな理由の一つです。
“昭和”のやり方が今も生きる業界の特殊性
現場のコア技術が属人化している
多くの日本の製造業では、「あの人にしかできない技」「担当者が変わると歩留まりが下がる」といった、属人的な技術が根強く残っています。
マニュアル化や自動化を進めても、最終的な微調整はベテラン作業者の勘と経験に頼っている現場も多いです。
このため工程の順番を変えるには、単純な作業手順変更だけでなく「現場の主たち」の納得も必要であり、ハードルがかなり高いのです。
現場の“安心感”が最優先される風土
日本の多くのメーカーでは、品質第一・安全最優先といった風土が根付いています。
未知のリスクを避け、従来通りがベストとされやすい傾向です。
特に受注生産やカスタム品が多い現場ほど「何も問題が起きていないなら変えるな」という考え方が強いです。
そのため、新しい工程順や新規設備の導入には、徹底したリスク評価や全体合意が不可欠となり、事実上既存の順番が“変えられない習慣”として温存されています。
バイヤーやサプライヤーへの影響
サプライヤーにとっては「なぜこの順番で要求されるのか」を理解しておくことは極めて大切です。
工程が持つ意味を知れば、納期や品質トラブル、VA/VE提案の際に顧客(バイヤー)の意図に深く寄り添った対応が可能となります。
安易な順番変更提案はほぼ通りませんが、現場に寄り添う提案であれば受け入れられる余地も広がります。
“暗黙の順番”を変えることで得られる未来はあるのか?
変化へのジレンマ:効率とリスクの狭間で
経営視点では、工程の順番最適化はコスト削減や生産性向上のカギです。
実際、最新のIE(インダストリアル・エンジニアリング)やDX推進により、工程順の見直しで大きな効果を上げる企業も増えてきています。
しかし一方で、現場を知らない経営陣が机上の空論で順番変更を迫ると、大きなトラブルを招くリスクがあります。
例えば工程間にある“見えない品質管理”を外してしまった事例をいくつも見てきました。
このジレンマこそが、「変えたいけど変えられない」という現場のリアルです。
工程順改革の成功事例
海外工場や最新設備導入で、思い切った工程順改革に成功した例もあります。
たとえば、AIによる画像解析で検査工程を自動化し、前後の作業を逆転した現場。
成形→塗装→検査だった工程が、「成形→検査→塗装」となり、大幅な不良流出防止につながった例もあります。
このように、現場と技術部門、経営層が一丸となって“小さく”試行錯誤を重ねていくことで、徐々に順番改革の成功体験を積み重ねている企業が出てきています。
順番変更の前にすべき“現場の納得形成”
現場ヒアリングと見える化
まず、現場の人が「どうして今の順番なのか」を自分の言葉で語れる状態にすることが何よりも大切です。
変化のためには納得と腹落ち感が不可欠です。
現場を巻き込みながら、工程毎の目的・リスク・根拠を可視化し、改善点を議論していくことから始めましょう。
トライアル&エラーの安全な範囲で実践
全工程を一気に変えるのではなく、まずは1ラインのみ、限定ロットのみで試験導入するなど、“腹八分目”の対応がトラブルを最小限に抑えます。
検証データを現場にフィードバックし、小さな成功体験から徐々に安心感を広げていく手法が、今後の製造業改革では重要です。
バイヤー・サプライヤーは現場文化を読み解け
バイヤー志望の皆さんやサプライヤーで営業・技術提案をされる方には、発注現場の“暗黙の順番”を理解し、それに寄り添う姿勢が求められます。
「なぜ変更できないのか?」を単なる非効率と捉えるのではなく、現場の心理・制約・企業文化や品質体制への深い洞察を持って臨むことが、信頼獲得の第一歩です。
安易なコストダウン要請や、工程改革の提案は逆効果にもなりかねません。
まずは“なぜその順番か”をしっかり聞き取り、現場目線で対話しながら変化の芽を探していきましょう。
まとめ:これからの製造業に必要な順番観
工程の“暗黙の順番”は、単なる惰性ではなく、数十年・数百年の知恵と現場の安心感が詰まった守るべき資産でもあります。
一方で、グローバル競争や人手不足、自動化・デジタル化による変革の波が押し寄せる今、「変えられない」では立ち行かない時代が来ています。
これからの製造業に必要なのは、“守るべき本質”と“変えるべき非効率”を見極める冷静さと、現場の心理的な壁を小さく乗り越えていく胆力です。
バイヤーやサプライヤーも、現場文化を深く理解し一緒にイノベーションを進めていくパートナーとなることが、付加価値の高い製造業を作る第一歩となります。
現場目線と最新技術、両方のバランスを保ちながら、“暗黙の順番”の意味を問い直し、一歩ずつ新しい地平を切り開いていきましょう。