視覚的にわかりやすい改善案を提示できないコンサルの限界

現場感覚が抜け落ちるコンサルティングの課題

製造業の現場に根強く残る「アナログ」体質は、デジタル化やIoTの波が押し寄せる中でも簡単に消え去るものではありません。
私自身、長年工場というリアルな”現場”で汗をかいてきた経験から、コンサルタントが紙上で描く「理想」の生産体制や改革案が、どれほど現実離れしたものかを幾度となく目の当たりにしてきました。

特に、「視覚的にわかりやすい改善案を提示できないコンサル」の存在は、現場を混乱させることすらあります。
今回は、現場目線で考えるコンサルタントの限界や、アナログ業界が改革を受け入れる難しさ、その中で本当に必要とされる課題解決のヒントをお届けします。

一般的なコンサル手法が「現場」で機能しない理由

理論最適化と現場実装のギャップ

コンサルティング会社や外部の専門家が持ち込む改善案は、教科書的にも論理的にも「正しい」点が多くあります。
しかし、製造業特有の現場には、その工場ごとのクセ、長年のしきたり、設備や人の能力など、千差万別の条件が複雑に絡み合っています。
理論上は正しくても、現場の人材・設備・既存のオペレーションとすぐにはなじまないことが多いものです。

このギャップを埋めきれず、まるで「机上の空論」に終わる改善提案が後を絶ちません。

「分かりやすさ」より「正しさ」に寄る風潮

コンサルタントは、専門用語やグラフ、数値分析レポートなどを多用し、「このデータに基づけばこうなります」と説明を尽くします。
一方で、現場で働くオペレーターや熟練作業者は、日々の感触や経験、現物、現場、現実（いわゆる“三現主義”）を重視しています。
つまり、「なぜこの改善案で良くなるのか？」が、直感的に理解できないことが最大の障壁となるのです。

改善案が「腑に落ちる」現場流の見せ方とは

現物・現場・現実主義を徹底する

プレゼン資料や数値分析だけでは、本当の現場理解は深まりません。
図面やマニュアルだけでなく、実際の生産現場で動いている機械や工程、作業者の動きを一緒に見ることが大切です。
「どこがボトルネックか」「なぜそこにムダが発生しているのか」を、目で見て、手で触れて、お互いにとことん議論することで、単なる数字の裏付け以上の納得感を得られます。

視覚で納得させる簡易な工夫

多くの現場は「ビジュアル管理」に慣れています。
例えば、工程の流れを付箋や模造紙に書き出し、目の前で工程間の関係や人の動きをシミュレーションする。
あるいは現場写真や動画を活用して、「今のムダ」「理想の動き」を比較できるようにする。
これらの“見て分かりやすい”アプローチが、コンサルの説明を格段に腑に落ちるものにします。

省力化アイディアも見た目で伝える

例えばAGV（無人搬送車）の導入による省人化や、作業手順の標準化なども、“完成イメージの図解”や“動線の色分け”などで表現すると、瞬時に現場の理解を得られます。
手書きの工程表やフローチャートでも十分効果があります。
大事なのは、難解なITツールやクラウドシステムを入れる云々より、“自分たちの現場がどう変わるか”を一目で理解できることなのです。

昭和的アナログ体質とどう共存するか

現場に根付く「名人芸」との付き合い方

製造業の現場では、熟練者しかできない「勘とコツ」が幅を利かせているケースが今なお多数あります。
コンサルタントは、これを“ムダの温床”と否定しがちですが、現実的にはこの名人芸が品質や不良低減の柱になっていることも珍しくありません。
むしろ、「現場の隠れたノウハウ」を見える化し、若手にも伝承できる工夫にコンサルが協力するくらいの姿勢が、本当は求められています。

デジタルツール導入の壁

いくらスマートファクトリー時代の到来とはいえ、すべてを一気にデジタル化できる余裕があるメーカーは多くありません。
特に中堅・中小製造業では、紙ベースの記録や口伝えの情報共有が根強く残っています。
コンサルタントは最先端ツールを押し付けるのではなく、既存のアナログ資産を活かしながら、徐々に段階的な改善ロードマップを“視覚化”するのが現実的なのです。

サプライヤー・バイヤー双方の現場目線こそ価値

バイヤーが本当に求める「改善」とは

バイヤー（調達部門）は、コストダウンや納期短縮、安全性・品質確保を至上命題としています。
しかし現場の歩留まりや仕掛かり品の動向を肌で理解しているバイヤーは意外に少ないです。
現場感覚に基づかない改善提案やコストカット交渉は、現場との軋轢や仕入先との不信感に繋がります。

本当に求められるのは、
「現場のどこに無駄があり、どこをどう改善すれば全体のサプライチェーンに効果が波及するか」
を“誰でも一目で分かるビジュアル”で説明できる提案力です。
このアプローチが現場からの信頼獲得やパートナーとしての評価に直結します。

サプライヤーが身につけたい新しい武器

サプライヤーも、単に「言われたとおり作るだけ」の受け身では価値を生みません。
顧客バイヤーの「なぜこの改善をしたいのか」「どの工程で困っているのか」に寄り添う姿勢が重要です。
現場写真や動画、ビフォーアフターの工程フローなどを使って、自社ならではの改善事例や実験結果を“現場の見える化”資料として整理しておくと、提案力や受注確率がぐっと高まります。

現場目線のコンサルは「共創パートナー」へ

徹底的なラテラルシンキングのすすめ

現場視点にこだわる中で、表面的な改善ではなく“本質の見直し”＝ラテラルシンキング（水平思考）が重要になります。
例えば「この工程は本当に必要なのか」「別の材料や手法でムダをゼロにできないか」「新人でも最短で習得できる仕組みにできないか」といった、従来の枠を飛び越える発想が求められます。

こうした地道な問いかけと発想転換こそ、現場の腹落ち感と納得の両立につながるのです。

現場との対話を最優先にするコンサル像

私が一番現場で支持されたコンサル手法は、「現場の人と一緒に悩み、一緒に知恵を生み出す」ことでした。
ミーティングルームでの一方的な説得ではなく、現場の責任者や作業者とともに歩き、手を動かし、時には失敗もしながら提案を磨く。
そして、できあがった改善案は必ず“誰が見てもすぐ分かる図解”にして、全員の納得を得たうえで実行する。
これが、現場やバイヤー、サプライヤー、全方位で信頼される“共創パートナー”としての立ち位置になります。

まとめ：現場を視覚化できてこそ、コンサルの価値は最大化する

製造業の現場では、視覚的な分かりやすさと実際の実行性が何よりも大切にされます。
経験の浅いコンサルタントが例え綺麗なパワーポイントを作っても、「それ、現場で本当にできるの？」と一蹴されて終わりです。
目の前のリアルな課題を徹底して視覚化し、現場に根付いた改善案を“納得できる形”で示せてこそ、初めて本当の意味でのコンサルタントの存在意義が生まれます。

調達バイヤーを目指す方、現場力を生かして高付加価値提案を狙うサプライヤーの皆様も、ぜひ「現場で分かる改善案」の生み出し方を身につけて、一段上のプロフェッショナルを志してみてはいかがでしょうか。