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昭和的な「終身雇用幻想」に縛られる製造業の限界

目次
はじめに:なぜいま、製造業の“終身雇用”が議論されるのか
日本の製造業は、戦後の高度経済成長期から平成、令和と長い歴史のなかで“終身雇用”と“年功序列”を屋台骨に発展してきました。
それはものづくりの現場において働く人も、育成する側も“安定”を前提とした制度設計が、長期的人材確保と技術力維持から見て最適だったからです。
今なお多くの工場現場や管理部門で「定年まで勤め上げるのが当たり前」「転職する人は根気がない」という空気が主流として根強く残っています。
しかし、グローバル化やデジタル化の波、カーボンニュートラル対応やサプライチェーンの激変など、昭和時代の想定を大きく超える環境変化が、現場の“常識”を根底から揺るがせています。
本記事では、私自身の工場長や調達・生産管理の経験を踏まえながら——
「なぜ昭和型の終身雇用がこれほど製造業現場に残存しているのか」
「それはどんな“限界”をもたらしているのか」
「変革期に、バイヤーやサプライヤー、現場従業員はどう備えるべきか」
をラテラルシンキング(水平思考)で深堀りし、次世代へのヒントを立体的に考えていきます。
1. 昭和的“終身雇用”と現代製造業の乖離
1-1. 「同じ釜の飯を食う」安心感の功罪
多くの製造業現場では、「先輩が後輩を時間をかけて育てあげる」「苦労を分かち合いながら成長する」ことが、美徳であり企業文化でした。
上司や先輩は“背中を見せて育てる”仕組みで、製品や工程だけでなく、細かな帳票や工具の置き方、サプライヤー対応などの“暗黙知”を引き継いできました。
その根底にあったのが
「どうせ定年まで一緒に居るのだから、じっくり育成すれば良い」
「ここでしか得られない熟練技術は、やめる人には渡さない」
といった終身雇用のメンタリティです。
この安心感は、職場の団結や帰属意識、ノウハウの蓄積を後押しする一方で、“閉鎖的で新陳代謝しにくい組織体質”も強めました。
1-2. グローバル競争と多様なキャリアの衝突
一方で、今や工場は国内外での競争市場にさらされています。
品質やコスト、納期、グリーン化、生産変動への即応を迫られ、
「同質的な人材だけで“長く同じこと”を続けていれば会社は守られる」
という前提そのものが危ぶまれています。
また、労働人口の減少や若手の価値観変化も著しいです。
「好きな分野でキャリアを磨きたい」
「他社や他業界で経験を積みたい」
「副業やリスキリングを積極的に行いたい」
という“個と多様性”が、昭和的終身雇用幻想に真っ向からぶつかっています。
1-3. バイヤー・サプライヤー間にも見える“昭和の壁”
さらに、部品調達や外注管理の現場でも、長きにわたる安定取引を軸とした
「何かあっても昔からの取引先だから大丈夫」
「お互いの阿吽の呼吸で黙って通す」
という“既得権益的な関係”が残っています。
これは市場急変やBCP(事業継続計画)対応力を著しく損ない、
「新規参入サプライヤーが開拓できない」
「コストや品質のイノベーションが生まれにくい」
というジレンマを生み出しています。
2. 昭和的終身雇用の“限界”はどこにあるのか
2-1. 属人化のリスクと伝承の断絶
現場の実感として、終身雇用型の組織ほど——
「ベテランAさんが辞めたら、工程ノウハウがブラックボックス化した」
「この仕様は〇〇係長しか分からない。異動や退職で混乱が生じる」
という事例を数多く目の当たりにしています。
帳票の管理・段取り、特殊品の取扱、サプライヤー交渉のツボ。
こうした“現場の財産”を一部の人だけが何十年も独占することで、世代交代やDX化の妨げ、品質・コスト課題の長期固定化が発生します。
また、属人化は作業の標準化・自動化のボトルネックです。
IoTやAI導入の足を引っ張る主要な要因ともなっています。
2-2. 本質課題の先送り文化
終身雇用前提の現場では、「現状維持バイアス」が強く働きます。
たとえば
「面倒な問題は、とりあえずベテランに丸投げ」
「上司も部下も異動や転職の圧力が小さいため、“根本改革”より目先の調整と場当たり策」
となりがちです。
このため、工程改善・コストダウン・品質保証など、将来の競争力に直結する課題が“痛みを伴う改革”から遠のき、じわじわと競合や海外勢に押し込まれていきます。
2-3. 若手人材の“見切り”とイノベーション欠如
今や自動車業界でさえ「新卒生の3年以内離職率」が上昇し、若手の優秀層は“昭和型現場”の閉塞感を敏感に感じとります。
「型にはめられる」
「上司の顔色をうかがわされる」
「同じ工程を何年もやらされる」
「多様なスキルや外部ノウハウと触れ合えない」
といった不満が離職理由として増えています。
イノベーションの芽——
たとえば「工程を根本から再設計したい」「デジタル技術を使いたい」
という提案や挑戦が“昭和的な我慢と同調圧力”に押し潰される現場もまた少なくありません。
3. なぜ“終身雇用幻想”がいまだに根強いのか?
3-1. 製造現場に残る“経験知信仰”
製造業の本質には“人の経験知・技能”が不可欠です。
「仕様書やマニュアルに載らない微調整」
「設備トラブルの瞬時な判断力」
「サプライヤーとの信頼関係」
など、確かに数字やAIだけでは対応できない“リアルなものづくり力”があります。
そのため、「長年の従業員=高い企業力」とみなす昭和的価値観が根強いのです。
3-2. 変化への恐怖と“抜け出せない優しさ”
また、ベテランや中間管理職には「今まで我慢してきたのに、急な制度変更は裏切りに感じる」「自分の立場が危うくなる」といった心理的抵抗があります。
そして、年齢とともに新たな挑戦や自己変革が精神的・体力的に負担になるため、「自分たちの世代では維持してほしい」という“現状維持型の優しさ”も蔓延しています。
3-3. サプライヤー取引に見る“しがらみ”の呪縛
調達購買の最前線でも、「何十年の付き合いがある」「前任者時代の恩義や貸し借りがある」といった“しがらみ”文化が商慣行として温存されています。
これは、需給変動やグローバル調達、SDGs・法令対応などの大波に柔軟に対応できない足枷にもなっています。
4. “昭和の幻想”から脱却する現実的アプローチ
4-1. “人材流動性”を前提にした仕組みづくり
これからの現場では、「人は流動化するもの」という前提で段取り・育成・人事計画を組むことが重要です。
例えば
・工程ノウハウや調達情報のマニュアル化・動画化
・OJT(On the job training)をチーム制・ローテーション制に
・技能継承のデジタル化(技術DBやナレッジ共有会の開催)
バイヤーもサプライヤーも、個人依存ではなく“組織としての知識蓄積”に投資することで、急な退職や取引変更にも耐えられるレジリエンスが生まれます。
4-2. “外部人材・多様な働き方”の活用
副業・兼業人材や、外部コンサルタント、DXプロフェッショナルの積極登用もカギです。
製造業特有の「よそ者アレルギー」を打破し、違う技術、違う目線を受け入れる土壌を作れば、工程革新や調達改革が加速します。
4-3. 若手・ベテランの“価値共創”を設計する
終身雇用時代の“ヨコ並び・我慢の空気”から、「お互いが相補的に価値を認め合う関係」へ。
たとえば若手のITスキル・分析力と、ベテランの現場勘・取引先対応力とを、「チームで問題解決する」風土や目標設定に落とし込むことが不可欠です。
現場課題への“越境チームPJ”、若手登用の改善提案会など、個の力を掛け合わせる制度設計が必要です。
4-4. サプライヤー選定のガバナンス強化
属人的・昭和的な取引から脱し、「経営理念や品質・コスト基準に則った客観的調達判断」へシフトすることが、調達リスク低減やグローバル競争力確保のためにも急務です。
そのためには
・新規サプライヤーの積極開拓
・既存の“しがらみ”取引の定期棚卸
・取引ルールや情報共有のデジタル化
などの取り組みをバイヤー自身がリードする意識も求められます。
5. “昭和的終身雇用幻想”を乗り越えて——現場発のイノベーションへ
個人の多様性・市場流動性・グローバル競争が主流となるいま、
「昭和の焼き直し」にしがみつくことは、すなわち“衰退”を意味します。
もちろん、現場の技術や経験知、阿吽の呼吸には普遍的価値がある。
しかしそれを“閉じた空間”だけで守る時代は終わりました。
これからの製造業は
「知恵を開く」「違いを生かす」「人が流動するのを前提にオープンに知をつなぐ」
ことが、真の持続力となります。
読む皆さん一人一人が、この変革の主役です。
自社の職場や調達現場で、
「昔からこうだ」
「ベテランだから安心」
といった昭和的な常識を、一歩外から眺めてみてください。
きっと、組織や現場の“新しい地平線”が見えてきます。
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