投稿日:2025年10月2日

「若手は我慢しろ」という発想が離職を招く現場の課題

はじめに:令和時代の製造業における「若手」離職問題

近年、製造業の人材流出が大きな課題となっています。
特に、「若手は我慢しろ」「下積みが当たり前」といった昭和の価値観が今も現場に根強く残っている企業では、若手社員のモチベーション低下や早期離職に歯止めがかかりません。
令和の時代に入っても大きく変わらないこの“職人気質”は、果たして現代のものづくりの現場に本当に必要なものでしょうか。

本記事では、実際に製造業の現場や管理職を長年経験した筆者の立場から、なぜ「若手は我慢しろ」が通用しなくなったのか。
その背後にある現場の実情、離職を招く現状と、バイヤー・サプライヤー間で起きている価値観ギャップ。
さらに現場目線で“新しいものづくりの組織文化”への移行方法まで、具体的に解説します。

現場で根付く「若手は我慢」の実態

なぜ、今も我慢が尊ばれるのか

多くの製造業現場には、ベテラン中心のヒエラルキー型組織が色濃く存在します。
特に、ライン長や工場長など現場経験の長い人たちの中には、「現場の空気を読む」「黙って鍛えられる」「自分も我慢してきた」という経験が“美徳”として語られがちです。

この“我慢文化”は、以下のような実態と強く結びついています。

– 年功序列が根強く、年齢や経験年数でしか評価されづらい
– 新しい挑戦よりも、過去の成功体験を重視する
– 失敗の許容度が低く、ミスは個人の責任とされやすい
– 指導は「見て覚えろ」「言われたことをやれ」の一点張り
– ペーパーレスや工場の自動化など、新技術への抵抗感が強い

このような体質が温存される背景には、日本の高度経済成長を支えた当時の成功体験の名残りや、アナログな現場作業の多さも関係しています。
ですが、こういった価値観が現代の若手に通じなくなってきたのもまた事実です。

「働く意味が見えない」若手の本音

今の若手が「すぐ辞める」「辛抱がない」と批判されがちですが、その背後には大きな時代変化があります。
デジタルネイティブとして生まれ育ち、プライベートの価値観や生き方の多様性を重視する世代にとって、単に“言われた通り黙って働け”はモチベーションに直結しません。

また、
– 「自分の成長が実感できない」
– 「仕事の意義や全体像が見えない」
– 「自分の意見やアイデアが全く取り入れてもらえない」

こういった現場で我慢を強いられるだけでは、熱意を持ち続けるのは困難です。
特に変化のスピードが速い令和の時代、若手を単なる“歯車”として扱う組織文化は人材流出を加速させてしまうのです。

「我慢」文化が招く製造業の深刻なリスク

早期離職による知的損失

新卒や中途で入社したての若手は、新しい発想やチャレンジ精神を持っています。
彼らが現場で十分に力を発揮することができなければ、
– 属人化したノウハウに頼る体質
– 現場力の低下
– サプライチェーン全体の競争力低下

につながります。

特に近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)や自動化、IoTなどのトレンドに対応できる人材不足が深刻さを増しており、「昔ながらのやり方を守れば何とかなる」という認識は大きな危機と言えるでしょう。

バイヤー視点で見た「変化対応力」の重要性

サプライヤーの立場で働く方は、バイヤー企業から「柔軟な対応」「新しい提案」「コストダウンや品質向上への自発的な取り組み」を常に求められているはずです。
しかし、従来の“我慢文化”が根強い現場では、
– 若手主体の改善提案が通りにくい
– 技術革新やIT活用への対応が遅れる
– バイヤー側が“組織の硬直化”を見抜いてしまう

というリスクがあります。
結果として、取引の縮小や発注打ち切り、価格競争に巻き込まれる事例も増加しています。
つまり、従来型の組織文化を改めなければ、バイヤーからも選ばれないサプライヤーとなる危険があるのです。

アナログ現場の「昭和」から、「令和」への組織変革のヒント

現場力×多様性=イノベーションの起点

では、具体的にどのような組織文化へと変革することが必要でしょうか。

答えは「現場力の伝承」と「多様な価値観の融合」の両立です。
“現場のノウハウ”は間違いなく企業競争力の源泉ですが、“若手の発想”や“柔軟な働き方”を積極的に取り込むことも今後は無視できません。

例えば、
– 設備管理や生産管理で、IoT・AIを取り入れる新しい改善提案を若手が主導する
– 業務日報や伝票管理のデジタル化など、小さな成功から「現場での変化」に慣れてもらう
– ベテランと若手がフラットな関係で「業務フロー見直し会議」を実施
– 失敗から学ぶ“心理的安全性”を保証し、挑戦する姿勢を評価
こうした取り組みを根気強く積み重ねることで、自然と組織の風土が変わっていきます。

サプライヤーとバイヤーの“価値観ギャップ”対策

バイヤーを目指す方、またサプライヤーの立場でバイヤーの思考を理解したい方へ―
取引先企業(バイヤー)は、我々が思う以上に「変化対応力」「新技術への前向きさ」「現場改善のスピード」に敏感です。

よく現場で耳にする「うちは大手だから今まで通りで大丈夫」で満足していると、気付かぬうちに「選ばれない工場」となりかねません。

大切なのは、企業規模や歴史だけを拠り所にせず、実際の業務改善・現場革新力でバイヤーから評価される組織文化を構築することです。
バイヤーも、常に最適なサプライヤーを探し続けているため、多様な価値観を受け入れる柔軟な現場づくりが不可欠です。

「若手の声」を現場力向上の武器に変える

現場の管理職ができること

管理職や現場リーダーの立場で最も重要なのは、「若手の声を拾い上げ、活かす」ことです。
単に課題を聞くだけでなく、“行動”に移すフォローアップが現場の信頼につながります。

– 若手主導の品質管理プロジェクトや小集団活動を積極的に支援する
– 定期的な1on1ミーティングで、「働き方」や「キャリアの悩み」もヒアリング
– 成果が出なくても「チャレンジしたこと」をしっかり評価
こうしたアクションが、“我慢”ではなく“挑戦”で現場を強くする力となります。

具体例:変革を進めた現場の実話

私が勤務した工場でも、従来はベテランのやり方が絶対。
若手は「雑用」「裏方」「失敗の責任を押し付けられる」といった役割に追いやられていました。

しかし、それが原因となり有望な若手人材の離職が続き、生産性も停滞。
危機感を持った経営陣は、「若手も主役となれるプロジェクト型改善活動」を発足させました。

– 若手の発案による設備のIoT化提案
– データ活用による不良低減活動
– 予防保全・自動化へのベテランの知見提供

これを、年齢や職位に関係なく全員が関与できる形で進めた結果、現場全体の連帯感と自発性が格段に向上、離職率も改善しました。

まとめ:新しい現場文化をともにつくろう

製造業は今、大きな過渡期を迎えています。
「若手は我慢しろ」という発想のままでは、現場の閉塞感も、業界全体の競争力も回復しません。
むしろ今こそ、若手が「自分の成長と組織の発展」を実感できる現場文化への転換が必要です。

現場で働くみなさん、バイヤー、そしてサプライヤーとして働く方々へ。
“昭和”のやり方に固執せず、互いに学び合い、変化を楽しむものづくりの時代をともに築きましょう。
それが、これからの日本の製造業の未来を開くカギになるのです。

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