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人材不足対策を進めるほど現場負担が増える矛盾

目次
はじめに:人材不足の深刻化が製造業にもたらす現実
近年、製造業界における人材不足の深刻化が、各社現場に大きな波紋を広げています。
高齢化社会による労働人口の減少、若年層の製造業離れに加え、コロナ禍以降の急速な需要変動も拍車をかけています。
これに対し、あらゆる現場で「人材不足対策」が叫ばれていますが、本当に効果的な解決策は見出せているのでしょうか。
実際の現場では、新たな採用や業務効率化、DX導入などさまざまな人材不足対策が行われる一方、「対策を進めれば進めるほど、現場の負担が逆に重くなる」という矛盾が頻発しています。
今回はこの矛盾の本質と、どう向き合うべきかについて、現場目線と管理職としての視点を交えて詳しく述べていきます。
人材不足対策の定番施策と現場で起きている実態
採用強化の落とし穴:即戦力神話と教育負担
人材不足対策といえば、まず採用強化が挙げられるでしょう。
各社が未経験者の門戸を広げ、中途や派遣・外国人労働者の採用を積極的に行っています。
しかし、現場に配属された新人は、やはり即戦力とはいえないのが実情です。
技能伝承が不可欠な製造現場では、OJTや安全教育、作業標準化の指導に現場リーダーやベテラン作業者の膨大な労力が割かれることになります。
限られた人数、しかも通常業務や納期対応に追われている中で、教育負担が一層高まり、既存従業員の疲弊や技術流出のリスクも増大しがちです。
また、採用した人材が定着しなければ、採用~教育コストが無駄になります。
「辞めてもすぐ次を…」という繰り返しが、とくに規模の小さい現場で深刻な負のスパイラルを生んでいるのが現状です。
業務効率化・省人化の取り組みが現場の首を絞める理由
多能工化や作業標準見直し、ITツール導入による業務効率化も「人材不足対策」の定番となっています。
たとえば1人が2工程を兼任したり、少人数で複数ラインを回すシフト制を取り入れたり、といった施策です。
ところが、ここでも現場に新たな負担が発生します。
1人当たりのタスクが肥大化し、かえってストレスやヒューマンエラーのリスクが増す例が絶えません。
また、システムや自動化設備の導入を現場に丸投げし、「現場主導でうまくやってくれ」と無責任な運用になるケースも少なくありません。
省人化が加速するほど、現場作業者は「人がいないから仕方ない」「自分でなんとかするしか…」と余計な自己犠牲を払い、結果的に負荷増へとつながってしまうのです。
これは、上層部と現場との認識ギャップが生んだ根深い問題です。
なぜ人材不足対策は現場負担につながってしまうのか
原因1:見せかけの生産性向上と現場の「我慢力」頼み
昭和から続く製造業カルチャーには、「現場が頑張れば何とかなる」「できることは現場で増やそう」という風土があります。
これが、人材不足に直面しても「既存人員の頑張りで乗り切る」傾向を強化させています。
上からは「一人当たり生産性の向上」を要求されますが、その多くは現場の我慢が数値に現れているに過ぎません。
根本的な業務変革やシステム再設計がなされないまま、我慢比べが続くだけなのです。
原因2:現場の声なき声が届かない組織構造
人事や経営層から見れば、「人材不足対策は実施しており、現場の負担も把握している」と考えがちです。
しかし実際には、現場サイドから「疲弊感」や「真の悩み」が正しく吸い上げられない組織構造になっていることが多いものです。
現場が遠慮したり、問題提起しても「それくらいは何とかしてほしい」と一蹴されたりして、本質的な改革にはつながっていません。
このコミュニケーション断絶が「対策を進めるほど負担激増」という矛盾を常態化させてしまう要因になっているのです。
原因3:部分最適化が全体負荷の増大を招く
「どこから手を付けるか」で、現場の一部だけに新しいシステムや業務が加わり、全体最適化が置き去りになりがちです。
たとえば、購買調達部門ではコスト削減と購買合理化という大号令が出されます。
ところが、現場には却って煩雑な入力作業や新規フォーマットへの転記という「見えない業務」が増えていきます。
多品種少量や短納期対応の現代製造業現場では、こうした非効率が重い負担になりやすいのです。
現場とバイヤー、それぞれの立場で考えるべきポイント
バイヤー視点:現場負担を見える化し、サプライヤーとWin-Win関係を築く
バイヤーや購買担当者は、人材不足対策として単なる価格交渉や発注自動化に頼りがちですが、これではサプライヤーや自社現場に見えない負担が積み上がります。
調達先の生産能力や人員体制、現場の課題も情報共有し、スキーム全体で「どこがボトルネックか」「どの負担をどう分散・削減するべきか」を、一度洗い出すべきです。
サプライヤー側の立場を理解することで、「この納期・仕様変更は危険ではないか」「どこまで自動化してもらうべきか」など、質の高い交渉やパートナーシップに発展します。
結果的に自社・サプライヤー双方の現場負担を減らし、安定調達や品質維持につながるでしょう。
サプライヤー視点:従来型受け身体質からの脱却
サプライヤーはバイヤーの要求に応じることばかりを考えてしまいがちですが、現場負担が限界に近づいている場合は、具体的な数字やデータとともに現状を共有することも重要です。
納期や仕様に対するリスク、急な発注増への対応能力の限界などを前向きに伝え、無理のない調達・生産計画案を提案できることが、新時代のサプライヤーとしての強みになります。
受け身で負担増に甘んじるのではなく、バイヤーとの協働の姿勢をアピールできれば、価格以外の付加価値を評価してもらえる可能性も高まります。
実践的な現場負荷軽減のためのラテラルシンキング
発想の転換1:業務プロセスの「断捨離」を徹底する
「昔からやっているから」と続いているルーティンや帳票、会議がいまだに現場の多くを占めています。
この機会に「それは本当に必要なのか」「自動化・アウトソーシングできないか」を棚卸ししましょう。
たとえば、生産日報や進捗報告を一元化し、現場に入力させず機械やIoTで自動取得する方法。
または、設計部門や顧客からのムダな急な仕様変更要求や、過剰な検査作業を根本的に減らすという発想も重要です。
現場目線で「どの工程がもっとも負担か」を徹底的に洗い出し、不要なものは思い切って辞める勇気が今年こそ必要でしょう。
発想の転換2:現場主導の業務可視化と情報武装
現場負担を見える化すること。
たとえば、作業ごとの所要時間や実際の稼働率、不具合対応・教育工数を数値で「見える化」するだけで、管理層の理解が深まりやすくなります。
さらに、カイゼン活動や5S運動も、単なる「お題目」ではなく、現場が本当に助かる仕組み提案型へアップデートしましょう。
現場メンバー自身が「これができたら毎日5分短縮できる」と納得できるアイデアを積極的に吸い上げ、経営判断に反映させる仕組み作りが重要です。
発想の転換3:プロジェクト型教育とフレキシブルな人事制度
これからは「多能工」「教育係」など一部現場リーダーに負担が集中するやり方から、全社横断のプロジェクト型教育を推進しましょう。
ERPシステムや新設備の導入も、現場とIT部門が共同チームを組んで進行し、「できる人・得意な人」を中心に現場ノウハウを横展開します。
人材の新規採用だけでなく、「一時的なシフト支援」や親会社/子会社間の助っ人派遣、在宅勤務によるバックオフィス支援もフレキシブルに活用できる体制――これを現実のものにする発想転換が、アナログ製造業からの脱却には欠かせません。
まとめ:人材不足対策の真の成功とは何か
人材不足時代の製造業で問われるのは、「いかに現場の隠れた負担を取り除き、持続可能な生産体制を作れるか」に他なりません。
採用強化・人材育成・自動化・効率化…どんな施策も、それが「一部の現場犠牲の上に成り立っていないか」を徹底的にチェックする視点が求められます。
現場・バイヤー・サプライヤーが相互理解を深め、負担の実態を数字と事実で「見える化」し、ムダや我慢を断捨離する。
それが「本当に人が足りない」ときこそ、現場を守り抜く唯一の道です。
一人ひとりの現場従業員にとって、より安全・安心・やりがいある職場環境を実現し、モノづくりの誇りを次世代につなげていきましょう。