投稿日:2025年10月30日

自社製品開発で陥りがちな「見た目重視の罠」と本質的な味づくり

はじめに:モノづくり現場で繰り返される「見た目重視の罠」

製造業の現場に長く身を置いていると、同じ失敗が何度も繰り返される場面によく遭遇します。
特に自社製品の開発において、「見た目重視の設計」に偏り過ぎ、本質的な“味”づくりや顧客価値を軽視してしまう現象です。

昭和から続くアナログな業界慣習や、会議室主導の机上プランニング。
新しい時代を切り拓くはずの開発現場でも、「見た目が良ければ売れる」と短絡的な判断に陥る企業は少なくありません。

本記事では、自社製品開発で陥りがちな見た目重視の罠。
その構造と背景、現場発信だからこそ語れる原材料選定・製造プロセス・バイヤー目線での品質評価の実態まで掘り下げてみます。
そして、日本の製造業が次の一手を打つための“本質的な味”づくりの原則について業界経験者の視点で解説します。

見た目重視の罠に陥る背景:なぜ「本質」より「表層」が優先されるのか

「映え」と「実用」が乖離する時代

昨今、SNSやECサイトの普及で、商品写真やスペックシートの“映え”重視が先鋭化しています。
一般消費財はもちろん、BtoB業界でも、製品カタログのビジュアルや、展示会映えする形状・素材が評価されやすくなりました。

現場からすれば、「見た目が良ければまず問い合わせが増える」という営業部門の論理も、完全に否定はできません。
しかし、購買現場やサプライヤーから見た実際の価値は、見た目では測れない“使いやすさ”“耐久性”“メンテ性”“コストパフォーマンス”“調達リスク”など多岐にわたります。

昭和的会議文化がはらむ“忖度設計”

伝統的な工場・メーカーでは、ベテラン上長の嗜好が多分に製品設計へ影響する場合が多く見受けられます。
「長年こうしてきた」「ウチらしいデザインにしろ」といった指示で、現場の開発者は上司の“イメージ”や社内都合を反映しがちです。
この忖度設計が、実は見た目偏重=顧客本位に立てない設計の温床となっています。

本質的な「味」とは何か:ユーザー体験・価値につなげる設計思想

味づくりは現場起点の共感から

自社製品の「味」とは、すなわち、“使う人がその製品で何を体験し、どんな価値を感じるか”に他なりません。
たとえば生産設備なら、「操作性の高さ」「故障しづらい安定性」「現場作業者の安全性・快適性」などが本質的な味になります。

この“味”は、現場で実際に製品を使い込んだ人のフィードバックや、流通の現場バイヤーが肌で感じる購買理由から浮き彫りになります。
卓上の議論やデザイナー発想では決して掴みきれません。

味の可視化=「設計開示」の重要性

購買バイヤーの視点で見ると、単なる見た目やスペック表記より、
「どういう設計思想で作られているのか」
「何を最優先にして部品選びや生産方法を決めているか」
という“プロセスや思考の開示”の方が信頼を生みます。

逆に、設計思想が曖昧なまま製品化されたものは、スペックがいくら高くても選ばれません。
サプライヤーの立場からバイヤーの心をつかむには、“本当の味”の源泉たる開発ストーリーやフィロソフィの説明が欠かせないのです。

購買バイヤー・現場作業者の心を掴む「味」のつくり方

1. ユーザー起点のペルソナ設計を徹底する

自社製品でもっとも大事なのは、“理想の使い手”=ペルソナを作ることです。
その人が、いつ、どのような場面で、どんな課題・負担を感じているか、現場で徹底リサーチします。

現場取材やヒアリングを重ね、現実の使われ方・困りごと・困っている背景の深掘りが“本質的な味”のつくり方の出発点となります。
たとえば生産現場の作業者が
「工具交換が手間」「清掃性に難あり」「メンテコストが読めない」
と感じているなら、そこを徹底深掘りし設計反映する。
この徹底した現場起点こそ、バイヤーや現場担当者の評価ポイントに直結します。

2. 質実剛健を徹底し、余計な装飾はそぎ落とす

日本のものづくりは、無駄なデザインや嗜好性よりも「質実剛健」「シンプルで壊れない」に価値があります。
粗雑な汎用部品や過度なデザイン装飾が混在していないか、現場目線で徹底的に棚卸ししましょう。

余計な機能や飾りをつければ高く売れる時代はとっくに終わりました。
御用聞きの営業や設計会議の「賛成多数の機能追加」は、必ず原価悪化や品質低下を招きます。
現場品質に厳しく、「これは何のための装飾か?」と根本から問い直してください。

3. 試作品を現場に投じ、実戦フィードバックを採用する

伝統的なメーカー現場では、試作は“形式確認”で終わるケースが多々あります。
しかし「本質的な味」を磨くには、現場にもっと踏み込ませ、真夏・真冬・休日夜勤など、実際の環境で試してもらうこと。
作業者やリーダー、購買担当者から「1ヵ月徹底テスト」の協力を取り付け、使い込まれたリアルなデータを集めます。

そこで吸い上げた形状修正や選定部品の見直し、現場目線の新提案を素直に採用し続ける。
この“戻り車線”の構築こそが、他社との差を決定的に広げる「味づくり」の神髄です。

アナログ業界でも「味」の評価基準が変わり始めている

サプライヤーの立場で読み解くバイヤー評価の変化

バイヤーは昔から「カタログ上の数値」「リピート購買実績」に依存しがちでしたが、今や調達環境や法規制、サステナビリティ要求が複雑化し、「本質的な価値」の見極めが求められています。

化学物質や新素材規制の登場、BCP(事業継続計画)対応、多品種小ロットの調整要求など。
これまでは目に見えなかった部分、現場の“困りごと”を解消する製品が強く評価され始めています。

サプライヤー目線では、営業資料やカタログでのPRよりも、
「なぜこの仕様なのか」
「どういう現場課題から設計・部品を選んできたか」
を積極的に説明し、購買担当者と同じ立場で議論する姿勢が不可欠です。

「味」が評価される成功例と失敗例

ある現場で、外観がスマートなだけの高度自動化設備が導入されました。
しかし現場では「エラー時の復旧方法が分からない」「手動に頼れず生産停止が多発」となり、長期的に大きな損失を出しています。

一方で、見た目は質素だが「現場で分解しやすい工夫」や「消耗品が安価で流通しやすい」という“地味な味”が強い設備は、バイヤーや現場担当がリピーターとなり、最終的に大ヒットへとつながりました。

外観では見えない本質的「味」に徹してこそ、業界評価は揺るがず、サプライヤーとバイヤーの信頼が育まれるのです。

まとめ:見た目を超えた「味」――日本の製造業に求められる次世代開発力

今、日本の製造業には本物の“味”づくりが強く求められています。
見た目やカタログスペックだけで売れる時代は過ぎ去りました。
本質的な味づくりとは、現場を起点に使い手のペルソナを深く理解し、実際の使用体験・困りごとを技術と設計にストレートに反映することです。

サプライヤー、バイヤーともに“味”を見極め高め合う。
昭和的なしがらみや見せかけばかりの慣習から勇気を持って脱却し、現場で真に愛される商品・サービスを生み出していく。
これが、製造業全体の新しい競争力の源泉となるのです。

あなたの現場に、「本質的な味」を吹き込む次の一手――。
それが、未来の製造業の地平線を切り拓く最大のカギです。

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