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海外市場で避けるべき“日本品質の押し売り”の罠

目次
はじめに:なぜ「日本品質」は海外市場で歓迎されないのか
日本の製造業では「高品質」「緻密さ」「欠陥ゼロ」といったキーワードが長年にわたり美徳とされてきました。
特に高度経済成長期やバブル期においては、その徹底したものづくりが世界No.1品質を支えていたのは間違いありません。
しかし、近年グローバル市場では「日本品質=大歓迎」と単純に通用しなくなっています。
むしろ、日本型の品質主義が現地の顧客やパートナーたちにとって「負担」や「コスト高」「過剰品質」と受け取られるケースが増えているのです。
本記事では、実際の現場目線の経験と最新の業界動向を踏まえ、「日本品質の押し売り」になってしまう理由や避けるべきポイント、そしてグローバル市場における調達購買・バイヤーのリアルな考え方について掘り下げていきます。
これから海外を狙う製造業従事者やバイヤーを志す方、サプライヤーとして海外展開に挑む方に、現場経験者ならではの視点でヒントを提供します。
日本品質=過剰品質? 海外と日本の「求める標準」は違う
1. 日本の“当たり前”は海外では“想定外”
日本では、クレームゼロ・B級品ゼロ、1マイクロメートル単位での精度追求、帳票の追記や検査記録の完璧な保管など、「100点満点」をゴールとする品質基準が根付いています。
一方、海外市場では「十分に目的を満たせば良い」「8割の合格で商売は成立する」というプラグマティックな基準のところが非常に多いです。
たとえば、
– 中国や東南アジアの顧客:「ISO規格を満たしていればOK」「100円なら60~70円の価値で十分」
– 米国の現地法人:「品質はクレームにならなければ十分。製品サイクルを速く回したい」
などの声をよく聞きます。
結果、日本企業が「日本品質のまま」輸出をかけようとすると、
– 過剰な検査や工程追加→コスト増と納期遅延
– 本来不要な高付加価値化→価格競争力の低下
– 「現地ニーズに合致しない仕様」→そもそも選ばれない
といった「頑張っても成果に結びつかない」事態に陥ります。
2. バイヤー目線:価格と納期が最大の価値?
私自身、現地法人のバイヤーとしてアメリカやASEAN圏の商談にも数多く立ち会いました。
そこで痛感したのは「バイヤーは顧客と自社の利益最適化を第一に考える」という徹底した合理主義です。
彼らが評価するポイントは、
– 現地相場に合った価格設定
– 仕様書通りのスペック(それ以上は不要)
– 必要な時に、必要な分だけ安定供給
この3点が揃っていれば満足なのです。
「さすが日本製!」というプラス評価より、「コストが高いから中国製」とあっさり切り替えられる場面にも多く遭遇します。
なぜ「日本品質の押し売り」になるのか? 現場の実例から考察
1. 「誤った善意」と「昭和的品質至上主義」
多くの日本メーカーは、「品質で世界をリードしたい」という善意と信念から、海外顧客にも日本同様の品質管理を要求しがちです。
部品の全数検査や、トレーサビリティの徹底、高度な工程改善などを率先して現地指導しようとします。
一見いいことですが、現地のパートナーからすると
「なぜそこまでするの?」
「大して問題が起きていないのに、なぜ追加コスト?」
「自社文化を否定されている気がする」
と、疎外感やプレッシャーにつながってしまうケースが多いのです。
2. 手法やツールの“輸出”には要注意
たとえば、日本国内の品質向上活動で効果のあったQCサークルやカイゼン活動、5SやTPMなどを、そのまま海外拠点や現地サプライヤーに展開しようとする動きは根強くあります。
これは「手法や進行の細部」ではなく「目的」と「現地の現実」を十分にすり合わせなければ、逆効果になることも多いです。
私が経験したケースでは、カンバン方式をベトナム拠点に導入しようとしたところ、
– 「なぜこれほどマメに記録を残す必要が?」
– 「材料がもともと安定しない中、在庫を最小化してもかえって工程が止まる」
など、現地との感覚差が大きすぎて現場が疲弊したことがありました。
グローバルバイヤーが本当に求めているもの
1. 「現地最適化」という価値観
グローバルバイヤーや海外現地の企業が本当に望んでいるのは、「自社にちょうど良いスペック」「適正価格」「安定感のある供給」です。
日本流の“理想形”よりも、「現地ニーズにマッチし、トラブルが事前に予防できる仕組み」があれば十分。
特に新興国では、製品を“買いやすい価格”で“そこそこの安定性”で仕入れられることが最大の価値となります。
2. 課題解決型の提案力
日本メーカーには「品質をアピール」しがちなところがありますが、現地のバイヤーが評価するのは「自社課題を解決してくれる相手」かどうかです。
たとえば
– 品質トラブルが頻発する部品なら、簡易検査キットや補修マニュアル付きで納品
– 突発的な需要変動が多いなら、現地倉庫の共同運用やバッファ在庫管理の提案
– 必要以上の高規格部材ではなく、用途に合わせたグレードの見直し
こうした課題解決アクションは、価格差を越えて選ばれる最重要ポイントです。
どう変わるべきか?日本品質の「進化」とグローバル人材に求められる視点
1. 「Quality」から「Fit for Purpose(目的適合)」への発想転換
日本で培われた高品質は、正しく使えば大きな武器になります。
しかし、これからの時代は「目的や顧客に合わせて最適化できる柔軟性」こそが重要です。
– 必要十分な品質レベルを明確に定義する
– 現地バイヤー・エンドユーザーと納得のいく「品質マトリクス」を共に作る
– 課題・トラブルが起きやすい部分に資源を集中し、非本質的な手間を削る
そうした「フィット・フォー・パーパス(目的適合)」思想が今後のグローバル競争力の鍵となります。
2. 現場から始める「グローカル品質」構築のポイント
– 現地リーダーやオペレーターとの丁寧なヒアリングを重ね、本音ベースでニーズや困りごとを洗い出す
– 「昔からこうやっていたから」式の手順を疑い、真に役立つ活動のみに絞っていく
– 日常的な現場コミュニケーションの強化(オンライン技術でもカバー可能)
– 品質を最重要視する場面と、スピード・価格を重視する場面を切り分けて説明・合意形成
現場のリアルを正確に理解したうえで、各国・各地の事情に沿った「グローカル(グローバル×ローカル)」な品質管理手法を構築することが重要です。
まとめ:日本品質神話から“新たな信頼づくり”へ
これからの海外市場では、「日本品質」というブランドイメージそのものの価値は薄れつつあります。
単なる“ラベル”や“押しつけ”ではなく、現地のバイヤー・ユーザーのリアルな課題を理解し、「ちょうど良い」「助かった」と思われる商品やサービスを柔軟に提供していく力が必要です。
現場経験を持つ者として、これまで日本型ものづくりで育んできた誇りを捨てる必要はありません。
むしろ、「変えるべきは何か」「残すべきは何か」を現場目線で見極め、言葉だけでない“信頼”を新たな市場で築いていく──それこそが、これからの製造業従事者やグローバルバイヤーに求められる真の実力です。
「日本品質の押し売り」を卒業し、新しい競争の土俵でイノベーションを生む。
その道筋を、ぜひ現場のみなさんとともに描いていきたいと考えています。
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