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投稿日:2026年1月11日

技能継承の難しさを知る製造業の会社に就職する学生たちに事前に知っておいてほしい業界の本音

はじめに ― 技能継承の「壁」に直面する現場

製造業は日本経済の根幹を支える大黒柱です。

特に“モノづくり大国ニッポン”の代名詞となるほど、世界に誇る多くの工場と技術者が活躍してきました。
その舞台裏を今まさに担おうとしてくれている学生の皆さんには、ただ「安定している」「職人気質」といった表層的な情報だけではなく、もっとリアルな“本音”をぜひ知っておいてほしいと思っています。

本稿では、20年以上現場で働いた筆者が、技能継承という最大のテーマを軸に、昭和型のアナログ体質がなぜに根強く残るのか、そこから時代の変化にどう向き合えている(あるいは向き合えていない)のか、そして未来への挑戦とは何か、を実践目線で伝えていきます。
バイヤー志望の方、サプライヤーとのやりとりをより良くしたい方にも、現場の視点がお役に立てば嬉しいです。

製造業が抱える“技能継承危機”の現実

「熟練工の技は見て盗め」――令和に残る昭和の価値観

多くの学生が最初に驚くのは、現場の「教科書通りにいかない」空気感だと思います。

職場によっては、DXが叫ばれる令和の時代になっても、「見て学ぶ」「失敗して覚える」が色濃く残り続けています。
この背景には、次のような理由が根付いています。

・生産ラインが複雑で、その都度“微調整”や“カン・コツ”が必要になる場面が非常に多い
・高度成長期を支えた世代が、口伝のようにノウハウを「言語化せず伝える」ことを美徳としてきた
・自働化・標準化が部分的にしか進んでおらず、マニュアルを作ろうにも「例外処理」や「暗黙知」が多すぎる

結果として、「Aさんがやればうまくいくのに、Bさんだとうまくいかない」という“属人化”が、未だに多くの工程で発生しています。
これが、技能継承の壁です。

ベテラン引退、若手大量退職――Wの危機が現場を襲う

2025年、いわゆる団塊世代の大量引退、そして若手(入社10年未満)の離職率上昇という、二重の危機が迫っています。
「技は盗め」と言われても、盗む機会自体が無くなり、技を引き出す“相手”が消滅しつつあるのが現実です。
慢性的な人手不足のなか、ひとつのミスやトラブルが工場全体の稼働を止めかねない時代へと突入しています。

なぜアナログ体質が消えないのか?

紙の帳票、現場のメモ、口伝の手順…

製造業の現場から完全にアナログが消えるには、まだまだ時間がかかります。

理由は単純ではありません。

「昔はこれで回っていた」からというノスタルジーだけでなく、次のような深い業界構造も絡んでいます。

・極めて長い工程ごとの“慣れ・クセ・癖”が標準化を妨げている
・ライン停止や不良増加など「失敗のコスト」が大きく、変化が怖い
・サプライチェーン全体が複雑で、関係先と一気にIT化を図ることが困難
・現場力=現場で対応できる柔軟性・即時性(“人への信頼”)が高く評価されてきた

「なぜ今さら紙で管理?」と思うかもしれませんが、例えば生産ラインを止めずに段取り替えする、新人とベテランが混在するなかで生産を維持する。
そのためには「紙のメモが一番漏れない」「トラブルを瞬時に書き留められる」などの現場的メリットが依然大きいのです。

IT推進の“壁”とリアルな苦労

一方で、上層部や本社が推進するDX(デジタルトランスフォーメーション)は、現場感覚としばしば乖離します。

「工場はロボットとAIだけで動いている」と思われがちですが、現実には老朽化した設備や手作業を前提とした工程が多く、すべてを自動化・データ化するには莫大なコストと長い調整期間が必要です。

「まず紙やエクセルでイメージを固めてから、徐々にIT化する」この“ハイブリッド期”も、移行コストや現場教育の負担が大きく、IT推進の担当者が孤軍奮闘している例も少なくありません。

リアルな現場で新人がつまづきやすいポイント

上司や先輩の“暗黙ルール”と向き合う難しさ

新卒や若手が戸惑うのは、技術的な知識よりも“職場の人間関係”や“報連相の仕方”“タイミング”であることが実に多いです。

「マニュアルにこう書いてあったのに、なんで違うやり方?」と感じた瞬間、現場の“阿吽の呼吸”との違いに悩まされます。

特に技能継承の面では、「なぜそれをやるのか」まで説明されないケースが珍しくありません。
それが「質問しづらい」「怒られそうで怖い」という心理的な障壁となり、習熟が遅くなるのです。

見習い期間は【叱咤】と【称賛】が重要な理由

厳しい現場では、まだ“根性論”や“精神論”も生きています。

一方で、理由も説明ぜず叱責するだけでは、優秀な若手ほど離れてしまう。
そんな失敗も、この10年で多くの現場が経験してきました。

若手人材の「なぜ?」を聞き流さず、納得と成功体験を両立させるOJT(On the Job Training)を積極的に取り入れ始めている職場も増えています。

自分のやった仕事が「工場の品質を守った」「納期に影響した」など、社会的意義や手ごたえを若いうちから実感できるか――
これが、技能継承の“次世代型”には不可欠となってきています。

バイヤー・サプライヤー志望の方が知っておくべきこと

“現場の都合”と“経営戦略”は常にせめぎ合う

特に調達・購買部門、またはサプライヤーの立場でバイヤーと対話したい人には、「現場の本音」と「経営判断」のズレをぜひ知ってほしいと思います。

例えば部品の短納期対応。
現場からすれば「急すぎて間に合う訳がない」「在庫管理はどうなっているのか」と困惑する一方、経営や営業サイドは「顧客の要求だから」と引き下がれない。

このせめぎ合いこそが、現場を疲弊させたり、サプライヤーとの信頼関係を悪化させたりする原因にもなっています。

現場→調達→経営(顧客)それぞれの“論理”を理解しようとしなければ、一見些細な伝達ミスが不具合や損失に直結します。

納期、品質、価格――「三方良し」の継承が本質

優秀なバイヤーやサプライヤーは、単なる「安さ」や「早さ」だけを追求しません。

むしろ現場の問題、設備の状態、作業者の熟達度まで把握し、無理難題を押し付けるのではなく“協働”の姿勢を大切にできる人材が信頼されます。
「技能継承が難しい=変化に弱い現場」だからこそ、リードタイムの余裕をもった発注や、生産波動が想定外になった場合の「代替案」「セーフティネット」も常に考えるべきです。

品質・納期・価格のどれか一つに無理な偏りがある調達は、必ず工場全体の信頼と安定を崩します。

今後、現場に入る学生が「やってはいけない」こと・「挑戦してほしい」こと

【やってはいけない】“表面だけ”の理解で済ませる

「今のやり方は古い」「なぜDX化しないのか」など、“外から見ただけ”の批評で終わるのは避けてください。

現場の苦労や変化への恐れ、その真意を少しでも“なぜ”と問い深めることが、健全なイノベーションの第一歩となります。

【挑戦してほしい】“対話”で技能の「言語化」と「再定義」を

技能継承時代の第一の壁である“暗黙知の言語化”。
これに積極的に挑戦する若手は、これから極めて重宝されます。

先輩のやっている動作を、ひとつひとつ「なぜですか」と食い下がって言語化する。
上司と部下・営業と調達・現場と品質管理、複数の立場や職制を“つなぐ人材”になってください。

Excelのちょっとしたマクロ化、ラインのうっかりトラブル後の“なぜなぜ分析”など、状況を図や言葉で「可視化」する努力は、やがて現場を変える突破口になります。

まとめ ― 技能継承は“対話の再構築”から始まる

製造業の最大の課題である技能継承。

それは知識や動作の引継ぎだけでなく、「時代の変化」「ITとの融合」「人を大切にする働き方」の本質的見直しでもあると実感しています。

変化を嫌う現場も、変化しか受けつけない若手も、ともに“対話”を恐れず、違いを理解し合う。

アナログの価値も、デジタルの進化も、現場でしっかり体感してからこそ、本当の改革のヒントになる――
それが、来たるべき製造業の新時代を支えます。

この業界に入る皆さんが、技能継承の「本音」と「新しい風」のどちらも担える人材となることを、心から期待しています。

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