投稿日:2025年12月12日

検品工程で起きる“責任の押し付け合い”の実態

はじめに:工場現場で繰り返される「責任の押し付け合い」の問題

製造業の現場において、品質管理の要ともいえる検品工程は、製品の信頼性を左右する極めて重要なプロセスです。

しかし実際の現場では、検品工程で発生する不良や不具合をめぐって「誰が悪いか」「どこが責任を持つべきか」といった責任の押し付け合いがしばしば見受けられます。

昭和から令和へと時代が移ってもなお、このアナログ的な体質は根強く、一部の現場では生産性や品質向上の大きな障壁となっています。

実際に製造業で20年以上にわたり調達・生産管理・品質管理・工場長経験を積んできた筆者の視点から、この“責任の押し付け合い”の実態と背景、そしてあるべき解決策を深掘りしていきます。

検品工程とは:その役割と流れ

検品の目的と工程の流れ

検品(インスペクション)は、製品が設計図通り正しく仕上がっているか、顧客の要求仕様を満たしているかを確認する作業です。

主な目的としては
– 不良品の流出防止
– 顧客クレームの未然防止
– 生産工程での品質フィードバック
などがあります。

検品の一般的な流れは下記のようになります。

1. 製造ラインからの完成品受け取り
2. 外観・寸法・動作・仕様確認などの検査実施
3. 合格品と不合格品の判定
4. 不合格原因の記録・フィードバック

この一連のプロセスのどこかで不良が発生した場合、しばしば「なぜ見逃したのか」「どの工程が悪いのか」といった責任論が持ち上がります。

責任の押し付け合いが起きる背景

原因1:工程境界の“グレーゾーン”

現場では工程ごとに担当部署や担当者が分かれており、特に流れ作業が主体の工場では、検品前後の工程が明確に区分されています。

しかし、実際には
– 製造側:「作業手順通りやった。検品工程で確認ミスがあったのでは?」
– 検品側:「これはもともと加工不良。製造工程での見落としが原因」
といったように、工程の境目にグレーゾーンが発生します。

この曖昧な領域が、「どちらが悪いか」の押し付け合いを助長します。

原因2:評価・処分を恐れる企業文化

多くの日本企業では、品質不良の発生は重大なペナルティや評価ダウンにつながります。

現場担当者や責任者は、
– 不良の責任を取らされる
– 処分や叱責が待っている
– 昇進・賞与への悪影響
といったことを過度に恐れる傾向があります。

このため、「自分たちは悪くない」「本来、他の部署の責任」という心理が働き、互いに責任を回避しようとするのです。

原因3:“昔ながら”のアナログな管理体制

製造業、とりわけ昭和から続く大手工場ではいまだに紙ベースの記録や感覚に頼った運用が根強く残っています。

データのトレースや分析が困難で、“人の記憶”や“口頭でのやり取り”が当たり前。

そのため
– どこで不良が発生したのか証拠に乏しい
– 記録のすり合わせができず、証明合戦になりがち
この状況もまた、責任の押し付け合いの温床となります。

現場で見られる責任転嫁の実態

検品担当と製造担当の温度差

筆者の経験では、しばしば
– 検品担当:「不具合内容を正確に報告し、再発防止策を講じたい」
– 製造担当:「現場の苦労や工数を軽視して、うるさいこと言うな」
という“温度差”が現れます。

たとえば「微細傷」や「色むら」といった“グレー”な不良判定基準が曖昧な場合、検品担当は顧客目線で厳しく判定しようとしますが、製造側は「これくらいならOKだろう」「手間がかかりすぎる」といった現場目線に立ちがちです。

こうした意識のズレも責任の押し付け合いの一因です。

バイヤー(購買部)とサプライヤー(仕入先)の摩擦

取引先との間でも
– バイヤー:「納品された商品に不良・欠品があった。サプライヤー側での検品強化を求める」
– サプライヤー:「出荷前の検査は十分。輸送時の問題や貴社側のハンドリング不備なのでは」
という責任転嫁が頻発します。

特に部品点数の多い組立業では、“どの段階で不良が生じたか明確にできない”場合も多く、紛争の種となります。

「責任の押し付け合い」はなぜ生産性を下げるか

不良原因の真因追及が進まない

最大の問題は、根本原因の特定や再発防止がなおざりになる点です。

責任問題ばかりを追及し、「どうしてこうなったか」「今後どうすれば再発しないか」という本質的な議論が後回しになる傾向が強くなります。

その結果、
– 何度も同じ不良が出る
– 対象者の士気が下がる
– 顧客満足度が低下する
という悪循環に陥ります。

コミュニケーションがギクシャクし現場の“空気”が悪化

互いに疑心暗鬼となり「いざというときは自分の身を守ろう」という組織風土が蔓延します。

これは、現場に「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」の低下や、個人的な不信を生み、長期的には離職やノウハウの断絶をもたらしかねません。

本来の目的:顧客満足・品質向上が“誰も見ていない”

本来、検品工程で大切なのは
– 顧客に満足してもらう品質の維持
– 社会的信用の確保
– 原価低減・無駄の排除
ですが、責任争いに終始していると、これらの「現場のミッション」がおざなりになりがちです。

昭和・令和の現場比較と業界動向

昭和的アナログ志向の抜け出せない現場

多くの昭和的工場では
– 職人気質で現場の判断に依存
– 記録や証拠よりも「人のつながり」
– ミスやトラブルは内々処理
という体質が色濃く残っています。

このため、責任の所在を曖昧にしたまま場当たり的な対応で済ませ、結果的に同じ問題が繰り返されてしまいます。

令和の“自動化・デジタル化”の潮流と責任の明確化

近年はIoTやAI、デジタル記録の導入が進み、
– 工程ごとのトレーサビリティ管理
– 不良発生時の自動アラート・データ蓄積
– 不良品のリアルタイム共有による全体最適化
が進んでいます。

これにより、「誰が・いつ・何を・どう扱ったか」をデータで証明でき、責任の押し付け合いが減少しつつあります。

ただし、「システムは入れても現場が使いこなせない」「結局は人間関係頼り」という現場もまだ多く、“昭和と令和”の狭間で揺れている現実も否めません。

バイヤー・サプライヤー別:責任問題との向き合い方

バイヤー(購買担当者)視点で考えるべきこと

バイヤーとして重視すべきは、納品物の品質管理において「サプライヤーを責める」のではなく、「共に問題解決する体制」を作ることです。

例えば
– 責任追及よりも事実確認と再発防止の場をもつ
– サプライヤーと品質基準・判定基準をすり合わせる
– トラブルの時は現場訪問し、共に現物を確認する

これらを実践してこそ、長期的な信頼関係が築けます。

サプライヤー側が理解すべきバイヤーの苦悩

サプライヤーは「不良品はゼロで当然」と思われがちですが、バイヤーもまた
– 内部報告や仕入先評価で板ばさみ
– 顧客製品全体の責任を負う重さ
– 異なる業界・文化の中での調整
といったプレッシャーを抱えています。

「バイヤー=クレーマーではない」という理解と共に、“不良は連携して潰していくもの”という発想転換が求められます。

現場の“責任押し付け合い”から抜け出すための処方箋

1. 不良判定基準の明文化とグレーゾーンの排除

まず第一は、不良判定基準・合格基準を言語化・数値化し、“人による裁量の幅”を減らすことです。

– 写真見本・サンプル品の共有
– 測定値の許容範囲明示
– 「わからない基準」「どちらとも言える基準」は第三者も交えて明快に

こうすることで、「誰が責任か」の曖昧さが劇的に減ります。

2. トレーサビリティの確立とIT活用

どの工程・どの担当者が何をしたかをデータとして記録し、簡単に参照できるしくみを作るべきです。

– バーコード・RFIDを使った履歴管理
– 検査・出荷データのシステム一元化
– 異常値の自動検知・通知
これにより“人間関係”でなく“データ”で話ができます。

3. 生産現場と検品担当の“対話”を増やす

現場と検品担当が意識的に交流・情報共有の場を設けましょう。

– 生産現場の工程観察・同席
– 検品担当と現場リーダーの勉強会
– お互いの立場交換(逆体験)

互いの苦労や現場事情を理解することで、「相手の責任」を指摘するだけでなく、「どうやって未然に防ぐか」の建設的な議論が生まれます。

4. 責任を追及するのでなく“プロセスの改善”に目を向ける

過度な犯人探しではなく、不良の真因に目を向け、
– 標準手順の見直し
– 予防措置の仕組み化
– チーム単位での成果・失敗の共有

など“現場の知恵”を活用しましょう。

まとめ:「責任の押し付け合い」を個人ではなく仕組みで乗り越える

検品工程で起こる「責任の押し付け合い」は、多くの製造現場で根強い課題です。

それは単なる人間関係や現場の気質だけでなく、曖昧な基準、グレーな工程境界、旧来型管理が構造的に生んでいる側面もあります。

責任転嫁に陥れば、組織全体の生産性も信頼も大きく下がります。

これからの製造現場は、
– 判断基準の明確化
– データで証拠を持つ仕組み
– 関係者間の対話
– 問題を“人”ではなく“仕組み・プロセス”で解決する
を徹底し、「責任をなすり付け合う文化」から「共に品質を高める仲間である文化」へ、大きく舵を切る必要があります。

バイヤー、調達担当、作る側・売る側それぞれが「現場目線」を忘れず、製造業の明日を一緒に築いていきましょう。

以上、現場に根付く“責任の押し付け合い”の実態と打開策を、実務経験をもとにお伝えしました。

生産合理化・品質革新・現場力強化のために、ぜひ一度ご自身の現場を見直し、広い視点からの“ものづくり”を進めてみてください。

You cannot copy content of this page