投稿日:2025年10月6日

非常識な返品を繰り返す顧客の実態

はじめに:なぜ「非常識な返品」が現場で増えているのか

近年、製造業の現場では「非常識な返品」案件が増加する傾向にあります。
この問題は、単なる一方的なクレーム応対や品質起因の返品とは異なり、バイヤーの立場や業界の構造自体にも起因しています。
現場目線で見た場合、「なぜそんな返品が発生するのか」「その裏にどんな事情や業界動向があるのか」を解き明かすことは極めて重要です。

この記事では、返品を繰り返すバイヤーや顧客の実態とその背景、さらには製造現場が取るべき対策や、サプライヤーに求められる対応について、20年以上現場に関わってきた筆者の経験を踏まえながら深堀りし、昭和型のアナログ商習慣から一歩抜け出すための実践知を紐解きます。

非常識な返品とは何か、その定義と実態

「非常識」な返品の具体例

非常識な返品とは、いわゆる“製品不良”という明確な理由では判断できない曖昧なケースや、本来返品すべきでない商品までが戻されてしまうものを指します。
例えば、納品から半年以上経過してからの返品や、仕様合意済みであるにもかかわらず「やっぱり違うものが良かった」といった理由での返品要求がこれに当たります。

他にも、消耗品の一部を使ったあとに「やはりサイズが合わなかった」といった屁理屈に近い理由で返品されることもあります。
これらは、サプライヤー側に正当な理由がない限り、メーカーとしても“常識外”だと感じざるを得ません。

どこから「非常識」になるのか――曖昧な線引き

返品の常識・非常識の線引きは実は非常にあいまいです。
とくにアナログな製造現場では、その判断軸が場当たり的になりがちです。
一概に「ここまでがOK、ここからは非常識」と言い切ることはできませんが、現場では「顧客は神様」「無理を聞いてこそ営業」といった昭和型メンタリティが今なお根強く、異常な返品要求を“当たり前”として処理してしまっている事例が少なくありません。

なぜ非常識な返品が後を絶たないのか――その背景を探る

1.バイヤー側の思惑と“返品文化”の蔓延

バイヤー側には、発注リスクを自社で抱えない“保険”として、返品を安易に使う文化があります。
原価削減への圧力や「とりあえず発注して、不都合なら返品」という安直な意思決定が背景にあり、数値責任とクレームリスク回避が強すぎるためこうした行動が生まれやすいのです。

特に上場企業や大手サプライヤー同士の商取引では、“バイヤー有利・サプライヤー従属”の力関係が今も色濃く残っています。
こうした商習慣が、非常識な返品を当然のごとく許容してしまっています。

2.現場の曖昧な合意と契約意識の低さ

もう一つの大きな要因は、見積・受注・仕様合意いずれの工程でも正式な書面やデジタル契約が徹底されていないことです。
「言った・言わない」の曖昧な口約束や、発注書類の不備、記録の不明瞭さが後々トラブルの元となり、“返品ありき”の誤解を生んでいます。

アナログな製造現場では今なお「現物支給」「口頭伝達」「帳票回覧」など昔ながらの手法が踏襲されており、責任と権限の所在も曖昧です。
こうした土壌が、非常識な返品要求を根付かせていると言えるでしょう。

3.品質保証の形骸化と本質の転倒

日本の製造業は「品質至上主義」が特徴ですが、ときにその“品質”が、バイヤーの無理難題を無限に受け入れる言い訳として利用されています。
「顧客満足のためなら、どんな要求も呑め」という過度な姿勢は、現場で疲弊を招くだけでなく、非生産的な返品応酬の原因となっています。

品質保証部門が「社内警察」化し、顧客の声をすべて鵜呑みにしてしまえば、現場の負担は膨大になり、肝心の不良撲滅や工程改善の手が回らなくなります。

どんな業界・製品で起きやすいのか

1.BtoB商材、特殊仕様品に多い

非常識な返品の多くはBtoB向けの部品や専用カスタム品で多発します。
理由は明白です。
仕様や納期、ロットの条件が複雑で、一つ間違えば顧客先で“要らない子”とされてしまうからです。

特に下記のようなケースで起こりやすい傾向にあります。

– 「図面変更に追随できていなかった」
– 「量産開始後に仕様見直しが発生した」
– 「試作でOKだったはずが、量産工程で別条件が浮上した」

ユーザーの現場要件や変更頻度が高ければ高いほど、納入後の返品リスクも跳ね上がります。

2.ファブレスメーカー、代理店商流での発生例

自社で組立・品質検証を完結できないファブレスメーカーや、商社・代理店経由の商流では、最終ユーザーとサプライヤーとの情報ギャップが大きくなり、納品後の返品リスクが増します。

代理店側が、中身を細かく確認せず「一度納めてしまえば後は知らない」という姿勢だと、何か問題が起きた時にメーカーが全責任を取らされることもあります。

返品が現場にもたらすダメージと“真の損失”

1.生産計画とロスの拡大

返品された部品や製品は、再商品化のほか廃棄に回されることもあり、生産管理上の大きなロスとなります。
また、「返品前提」の発注が増えると、どれだけ正確に生産計画を引いても計画通りに進まないことが常態化します。

結果として、
– 無駄な在庫
– 人・設備の遊休状態増加
– QCD(品質・コスト・納期)の信頼低下
など、経営の根幹に直結するダメージを引き起こしかねません。

2.モチベーションと現場力の低下

「また異常な返品か」と現場が感じ始めると、従業員のモチベーションが著しく下がります。
「何を作ってもどうせ返品される」「どうせ顧客には逆らえない」というあきらめムードが蔓延すると、現場改善提案や品質向上に取り組む意欲も失われ、職場風土そのものに悪影響を及ぼします。

3.真の顧客満足から逸脱するリスク

一見、顧客の無理な返品でも完璧に対応することが“最高のサービス”であるかのように映りますが、結果的に価格転嫁や納期遅延の原因を作り、信頼を損なうリスクさえ孕みます。
また、真面目な顧客までが「返品は簡単だ」と誤解し、同様の行為に走る負の連鎖も生まれます。

現場と管理者が取るべき「攻めの対策」

1.契約および仕様合意の徹底

アナログな現場であっても、すべての受注・納品プロセスで「誰が、何を、どう合意したか」を見える化することが不可欠です。
具体的には、
– 発注書・仕様書の電子化
– 仕様変更や追加要件の履歴保存・共有
– 契約書による返品範囲・期限の明記
によって、後になってからの言いがかりや曖昧返品要求をブロックできます。

2.返品分析と“事後対策”から“原因予防”への転換

単に返品が出た原因を都度調査・報告するだけでなく、なぜそのような返品文化が生まれたか、工程や商慣行にどんな根本的課題が潜んでいるかまで分析し、現場と営業・開発が連携して再発防止策を打つことが大事です。

3.バイヤー教育と正しい情報開示

サプライヤーの立場から、顧客や代理店に対して「仕様合意を守るべき理由」「返品の適正範囲」を啓蒙していくアクションも重要です。
一方的に「NO」と言うのではなく、なぜその返品が製造業全体に不利益をもたらすか、また現場の負担やコスト影響について丁寧に説明し合意形成を図ります。

これからの製造業バイヤー・サプライヤーに必要な視点

“共存共栄関係”を意識した商談

「どちらが上」「どちらが購入者」ではなく、最終顧客に最適な製品を安定供給していくパートナーとして、お互いの役割と責任を明確に持つことが大切です。
返品についても、“安易に認めすぎない”一方で、“本質的な品質や顧客満足のために仕組みを見直す”という柔軟な姿勢が鍵です。

アナログからデジタルへの業務改革

社内のみならず、サプライチェーン全体で契約・合意・実績管理のデジタル化を進め、過去の“言った・言わない“型のトラブルを根絶する。
これが製造業進化の起点であり、返品問題を構造的に解決する最善策となります。

まとめ:非常識な返品問題は“業界全体の進化”へのシグナル

「非常識な返品」は現場から見ると理不尽に感じられる一方で、その裏には業界構造や商談文化、契約習慣の問題が複雑に絡んでいることが見えてきます。

単なる「泣き寝入り」や「慣例維持」だけで対応するのではなく、この現象を業務改革や業界全体の進歩を促す“進化のシグナル”と捉え、現場・管理者・バイヤー・サプライヤーが一丸となって課題と対策に向き合いましょう。

最終的には、互いの立場や事情を尊重しつつ、製造業全体がより高いレベルの信頼と満足を築くことが、健全なサプライチェーン構築の第一歩になります。

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