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コネクティッド・カーのIoT基盤更新が止められないリスク

コネクティッド・カーのIoT基盤更新が止められないリスク
はじめに:コネクティッド・カー時代の到来とIoT基盤
近年、自動車業界において「コネクティッド・カー」という新しい領域が急速に拡大しています。
従来の「走る、曲がる、止まる」だけのクルマが、通信機能によってインターネットと常時接続されるようになりました。
このコネクティッド・カーを支える心臓部こそ「IoT基盤」です。
車両のデータはリアルタイムでクラウドに蓄積され、AIによる最適化や、メンテナンスの予知、ドライバーへのフィードバック、そして将来的な自動運転技術の根幹となっています。
このIoT基盤は、一度構築すれば完了するのではありません。
実は「絶えず更新を迫られる」「停止できない」性質を持っているのです。
本記事では、製造業の現場目線から、なぜIoT基盤の更新が止められないのか、そのリスクや背景、課題、そしてアナログ業界に残る思考とのギャップも踏まえて、現場で役立つ実践的な内容を深掘りします。
なぜIoT基盤は「更新し続けなければならない」のか
IoT基盤は決して「完成品」ではありません。
なぜなら、自動車のソフトウェアとサービスは日々進化し、サイバー攻撃などのセキュリティリスクも常に最新手法へと変化していきます。
以下に、主な「更新し続ける理由」を挙げます。
- セキュリティ脅威への継続的な対応が必須
- 法規や業界規格(例:ISO/SAE 21434等)のアップデート
- ユーザーニーズ(UX)の変化と新サービス追加
- 将来の自動運転などとの互換性確保
これらの理由から、一度動き出したIoT基盤は「常時メンテナンス」「随時アップデート」の運用が求められます。
昭和から続く“作れば終わり”“10年保守でOK”という製造業的発想は、すでに通用しません。
典型的なリスク1:更新停止のセキュリティリスク
IoT基盤では、あらゆる箇所がインターネットと直結しています。
仮に、OSやミドルウェア、独自開発した通信モジュールやクラウドAPIなどの「脆弱性パッチ」を当てることを怠れば、ある日突然、サイバー攻撃で車両や個人情報が狙われる可能性があります。
例えば、欧州などでは「UN-R155」等のサイバーセキュリティ要求が強化され、製品ライフサイクル全体——つまり現場設計時からサービス終了まで——の「継続的なアップデート体制」が自動車メーカー(バイヤー)や関連サプライヤーにも求められています。
ソフトウェアのバージョンアップを怠る=重大事故やブランド信頼喪失を招く“ボトルネック”になるため、「更新を止める」選択肢自体が既にリスクなのです。
典型的なリスク2:脱アナログが進まない現場との摩擦
更新体制構築の現場最大の課題は「現場の慣習」「属人化」といったアナログ文化との摩擦です。
特に調達・購買や生産管理部門では、昭和から続く「図面ベース」「伝票手運用」「サプライヤーとの口約束」といったやり方が一部いまだ色濃く残っています。
しかしIoT基盤では、調達バイヤーはハード・ソフト複合的な「サービス」として基盤パーツを買います。
「納品して終わり」ではなく「12か月間/36か月間、アップデート提供」という“運用契約”が一般的になっています。
それにも関わらず、価格交渉やコストダウンの文脈で「最初に一括で払いたい」「数年更新が不要なように仕様固定してくれ」など昔ながらの発想を当てはめてしまう現場も少なくありません。
サプライヤー側も、従来なら“図面通りの物を納めればOK”だったため「納品後もソフトを見張り、パートナーとして継続関与せよ」と要求されても組織文化として対応できない場合も多いのです。
典型的なリスク3:長期供給と主管業務の断絶リスク
自動車業界では一つの車種が「10年以上同じプラットフォームで生産」されることが珍しくありません。
IoT基盤も例外でなく、一度車両に載せたら「10年、15年と供給・運用する」ことが求められます。
しかし、クラウドやIoTプラットフォームまわりのソフトウェアベンダーやハードウェアチップのメーカーは、2~3年単位で“サービス終了”や“サポート切れ”になることもしばしばです。
「担当していたベンダーの担当者が転職した・消えた」
「古い機能が新しいプラットフォームで動かなくなった」
「後継製品非対応で基盤全入れ替え」など、万が一更新ができなくなった場合には、利用者へのサポート停止やリコール、最悪の場合は多額の損失や法的責任に繋がりかねません。
さらに、現場では「異動や定年で、当時の設計思想やサプライチェーン管理者がいなくなった」といった“暗黙知喪失”も大きなリスクになります。
これから必要な「現場対応力」とそのポイント
こうしたリスクを防ぐため、バイヤー・サプライヤー双方の現場で新たな対応力が求められています。
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早期から更新体制を前提とした契約・調達設計
製造開始前から「基盤の保守・アップデート」「バージョンアップの頻度・範囲」「ライフサイクル管理責任」を協議しつつ、調達時点で必ず契約に明記する。
短期コストだけでなく、10年先の運用リスクも含むトータルコスト評価が不可欠です。 -
サプライヤーとの“共創型関係”の構築
発注者(OEM・バイヤー)と受注者(サプライヤー)が「一緒に運用し、定期的アップデートを仕込む」体制を構築しましょう。
「納品して終わり」から「一緒に走り続けるパートナー」への意識転換が現場には必要です。 -
人材・組織のレガシー脱出
IT・IoT人材の強化や、「ソフトのアップデート・バージョン管理・クラウド連携」の運用プロセスを標準化することが大切です。
同時に、アナログ作業や属人化した管理から脱却し「知識・情報・判断」を現場全体で共有できるナレッジマネジメント推進がカギになります。 -
運用停止時の“出口戦略”設計
突然サービスが止まった時に備え、運用データのバックアップや「他システムへのマイグレーション(移行)」プランを持っておくことも重要です。
ベンダーロックイン対策としての“代替製品候補リスト”や、“保守継続できる人材”のプールも不可欠です。
まとめ:コネクティッド・カー時代に求められる現場力とは
コネクティッド・カーのIoT基盤は日進月歩で進化する一方、まったなしで「更新し続けなければならない」という宿命にあります。
製造業の現場は、アナログからデジタル、単發から運用重視、発注者―受注者から“共走者”への意識転換が問われています。
この新しい常識を理解し、アップデート運用を前提とした調達・保守体制を現場に根付かせることで、サイバーリスクやブランド毀損、巨大損失の“見えない落とし穴”を回避できるのです。
コネクティッド・カーの未来は“今ここ”の現場選択次第。
アップデートリスクと向き合いながら、しなやかで強靭な製造現場・サプライチェーンを築いていきましょう。