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誤出荷の真因が物流現場ではなく“情報精度”にあることが多い理由

目次
はじめに:誤出荷問題の本質を直視する
製造業に従事して20年以上が経ちますが、現場で最も頭を悩ませる問題の一つが誤出荷です。
誤出荷によって発生するロスや信頼失墜、再発防止活動に追われる日々は、どの企業でも共通の課題でしょう。
その度に物流担当や倉庫作業員への注意喚起や教育を強化したり、管理強化策が打たれたりしますが、実は“現場のヒューマンエラー”だけに原因を求めてしまうと、本質が見えなくなりがちです。
誤出荷の本当の“根”は、現場の先の「情報精度」に潜んでいることが多いのです。
この記事では、誤出荷の真因について、現場目線とラテラルシンキングの両面から深掘りします。
また、昭和から続くアナログな管理慣行の影響にも目を向け、現代の製造業がどう進化すべきかを考察します。
製造業従事者はもちろん、バイヤー志望の方、サプライヤー企業の方もぜひ最後までお読みください。
誤出荷の主な例と現場の“思い込み”
まず、現場でよくある誤出荷の事例を挙げてみます。
・注文品とは異なる品番を納品してしまった
・数量違い(多納・少納)
・納期違い(予定より早い/遅い納入)
・ロットや仕様違い
・得意先や納品先の間違い
これらの現象が発生した場合、多くの現場担当者や管理者は「誰が、どこで、どう間違えたのか?」という視点を強めてしまいがちです。
マニュアル遵守の徹底や作業手順書の再確認、点検項目の追加などがストレートな対策として実施されます。
しかし、こうした手段は「表層的な対処」に留まるケースが多々あります。
背景に存在する“情報そのものの質”について掘り下げなければ、根本対策にはつながらないのです。
なぜ現場より「情報精度」が最も大事なのか
アナログ管理に潜む“伝言ゲーム”の罠
多くの製造業現場、特に長い歴史を持つ工場では、注文受付・製造指示・出荷指示などの情報伝達がアナログかつ分断的です。
例えば、以下のような流れが一般的です。
・営業が電話やFAXで注文を受ける
・事務員が受注内容を紙に転記
・生産管理担当が製造指示書を作成
・現場がその指示書をもとに作業を開始
・出荷担当が伝票を見て荷造り
この“伝言ゲーム”的な仕組みでは、人為的ミスが至る所で発生する可能性が潜んでいます。
手書きミス、転記漏れ、伝達の思い込み――いずれも「現場」のせいではなく、「そもそも情報が正確に伝わっていない」という土台の問題です。
データベース時代でも油断ならない落とし穴
近年は、ERPや販売管理システム、バーコードやRFIDなどのIT化が進みました。
ですが、完全自動化されていない工程や、古いシステムとの併用運用も多く見受けられます。
その結果、こうした事態が起こり得ます。
・システムへのデータ入力ミス
・最新情報にマスタが更新されていない
・バージョン違いの帳票や伝票が混在
・IT化されていない現場手書き作業との二重管理
便利になったはずのツールも、“情報の入口と出口”がきちんと管理されない限り、誤情報を拡散する「加速装置」となりかねません。
誤出荷原因は“現場力”のせいではなく“情報起点”
多くの管理層や経営層は、誤出荷発生時に「現場の管理が甘い」と短絡的な結論を出してしまいます。
実際、私が工場長をしていた際も、この現象は何度も目にしました。
ですが、再発防止に役立ったケースの多くは、「一連の情報伝達経路のサンプリング調査」でした。
たとえば以下のような現象があります。
・ある商品Aを10個発注したはずが、現場には5個の指示しか届いていない
・急な変更依頼がメールで来たが、関係者全員に行き届いていなかった
・類似品番の注文書がFAXで届き、番号が擦れて読めなかった
このような、情報伝達の途上で品質が劣化する事象こそが、誤出荷発生の“真因”であることが多いのです。
現場が抱えるアナログ文化の弊害
昭和から続く現場文化では、“現物重視”“現場感覚”“ベテラン頼み”が今なお強く根付いています。
口頭伝達や現物確認に依存するワークフローが多く、標準化や見える化の遅れが際立っています。
こうした職場においては、
・「このあたりは○○さんが暗黙知で知っているはず」
・「現物をみれば間違いない」
・「変更あれば直前に口頭で伝えれば…」
といった“経験任せ”な取り組みが当然視されがちです。
この背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)への抵抗感や、イニシャルコスト、過去の成功体験への執着などが混在しています。
しかし、グローバル競争下ではアナログ頼りの現場運営に限界がきているのも事実です。
誤出荷撲滅の第一歩は「情報精度」の棚卸しから
「見える現場」ではなく、「見える情報」の仕組みを作ること。
これが誤出荷ゼロの鍵となります。
①「入口情報」の精度向上
注文受付の際、受注内容を極力デジタルで一元化し、誤記や二重入力をなくす工夫が重要です。
紙や手書き伝票ではなく、EDIやオンラインフォームの導入が安全です。
また、入力項目の自動チェック機能も有効です。
② 情報更新の「リアルタイム性」確保
生産変更指示や納期修正などのイレギュラー情報は、関係部門全員がリアルタイム共有できる仕組みを確立しましょう。
このようなとき、チャットツールや社内SNSの活用が強く求められます。
③ 「現場・情報システム」間のギャップ解消
現場におけるシステム利用環境を見直し、“簡単・誰でも使いやすい”UI/UXに再設計することも大切です。
また、現物とシステムデータの照合ロジックも必須です。
RFIDやバーコードスキャナーの活用で、紙と現物、それぞれのデータ突合精度を高めましょう。
買う側(バイヤー)・売る側(サプライヤー)が知るべき真実
バイヤーが期待する「情報精度」とは何か
バイヤー(購買担当者)にとって、調達先からの納品ミスは「信用問題」に直結します。
納期、品番、数量といった要件通りに物が届き、しかも変更や遅延が即座にフィードバックされることが強く求められます。
特に、サプライチェーン全体が短納期化・多品種対応化している現代では、「情報精度」は絶対条件です。
サプライヤー企業は、受注から納品までの“情報の流れ”が常に正確で最新であることを自ら証明しなくてはなりません。
サプライヤーが“現場任せ”から脱却するために
サプライヤーの立場からすれば、一度の誤出荷で信頼が大きく損なわれてしまいます。
「現場力が弱かった」「一時的なヒューマンエラーだった」という言い訳は通用しません。
逆に、「こうした情報精度対策を講じています」「発生原因はデータ起点であるため、改善策も明確です」と具体的に説明できれば、バイヤーからの信用度は劇的に向上します。
そのためにも、“人”を責めて終わるのではなく、“情報”を全工程で定点観測し続ける文化を持つことが、競争力につながるのです。
まとめ:昭和的現場から現代的情報現場へ
誤出荷の真因は、決して「現場のずさんな作業」や「一担当者のミス」にあるとは限りません。
むしろ、その起点となる情報伝達の精度こそが最大のリスクファクターです。
これからの製造業は、アナログな職場文化の温もりや現場力を活かしつつ、
・業務のデジタル化
・情報管理レベルの高度化
・誤情報撲滅に向けた再設計
を進めることが不可欠です。
現場の“働き方”ではなく、“情報の流れ方”そのものを高度化すること。
これが、誤出荷ゼロの現場、バイヤー・サプライヤー双方に誇れる製造業の新たな地平線なのです。
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