投稿日:2025年12月6日

設備トラブルの根因が実は数ミリの段差だったときの悔しさ

はじめに:設備トラブルに潜む“数ミリの段差”という落とし穴

製造業の現場で長年にわたって設備の調達や管理、ラインの自動化に携わってきた立場から言えることがあります。
それは、どれだけ最先端の設備やIoTを導入しても、「数ミリの段差」というアナログかつ微細な不具合が、大きな設備トラブルの根因となるケースが往々にして存在する、という事実です。

例えば、「稼働率向上のために新しい自動搬送ラインを導入したが、なぜか時々ワークが詰まる」「設備保全のために何度もソフトや動作検証を繰り返したが、どうしても特定ラインだけトラブルが再発する」といった経験は、多くの現場担当者や工場長にとって“あるある”ではないでしょうか。

今回は、膨大な設備の問題検証の果てに、たった数ミリの段差が重大な生産トラブルを引き起こしていたという現場での事例をもとに、なぜこのような些細なポイントが見落とされるのか、そしてどのようなアプローチで「昭和的アナログの壁」を突破できるのかを考察していきます。

設備トラブルと“数ミリ問題”の現場実態

なぜ数ミリのズレが大トラブルにつながるのか

あらゆる産業用設備は、設計図通りに精密に造られることが前提です。
しかし、実際の設置や各工程の組み立て時には、必ずと言っていいほど「誤差」が発生します。

この誤差が数センチであれば、すぐに発見・修正が可能です。
ところが、数ミリ単位の段差やズレとなると、高性能なセンサー付き設備でもなかなか異常を検出できません。

例えば搬送コンベヤであれば、数ミリの台座段差で製品パレットが傾き、センサースイッチが作動しなかったり、ガイドレールに引っかからない形となります。
見た目上は正常に動いているようでも、ごく一部のワークだけ「引っかかる」「安定しない」「流れが悪くなる」といった現象が断続的に発生します。

設備異常の解析時に「再現性がない」「一定条件下のみ現象が出る」といった難しさは、この数ミリ問題から発生していることが多いのです。

実際に現場で起こった「数ミリの段差」トラブル事例

私が工場長時代に経験した事例を一つ紹介します。
夜間帯に自動搬送ラインで製品詰まりのアラームが多発。
設備担当班は何度も配線や制御盤、シーケンスプログラムを見直し、それでも異常は発見できない。
最終的にラインを丸ごと分解し、原点復帰の組み立てをした結果、ある台座とベースフレームの間に“2.5mm”の段差があることを発見しました。

この2.5mm、感覚的には「これぐらい大丈夫」「シムで吸収できる」と思いがちですが、実はパレットの進行方向で生まれる傾きによってローラー部で異常負荷がかかり、この時だけ摩耗したローラーが静かに“いびつな動き”をしていました。

結果的に経産省報告レベルのライン停止という事態は免れましたが、現場での悔しさ・無念さと、「なぜこんな初歩的な段差を見落としたのか?」という根本原因分析が徹底的に行われました。

なぜ“数ミリの差”が見逃されるのか?アナログ現場の心理構造

昭和的“職人気質”の誤解とドキュメントギャップ

日本の製造業に根強く残る職人気質、「経験則でなんとかなる」「目測で問題ない」、これらが功を奏することも多い一方で、たった数ミリの見逃しが致命的なコストインパクトを生みます。
現場担当者が「自分の取り付けた部品は問題ない」「目で見て平らだから大丈夫」と思い込み、測定・記録・履歴保存の手間を省いてしまう…。
この心理的ハードルが、昭和の現場で今も残る「アナログ的な落とし穴」です。

さらに、実際の現場ドキュメントと設計図面・CATIAデータなどの精度ギャップが、数ミリの狂いを生む原因となっています。
現場の「感覚」と図面上の「絶対値」が重ならないことで検証・改善の遅れにつながります。

IT・自動化導入現場でも起こる“微差”の罠

現代の工場ではIoT、センサー、ビッグデータ解析などを導入し、「全て数値で管理できる」環境が浸透しています。
しかし、実際には「異常」と判断される範囲は“出荷基準”や“管理基準”によって大きく幅があります。
例えば、3mm未満の段差は設備稼働に影響しないという設計思想でシステムが動いていれば、4mmの段差が発生するまでシグナルは上がりません。

この“検知の死角”こそ、デジタルでも拾えない数ミリ問題が潜む要因なのです。

サプライヤー・バイヤー双方が持つべき現場目線

バイヤーが認識すべき「現場での微差の重要性」

設備や部品を調達するバイヤー志望者、あるいは実際に調達戦略を立てている方々は、単にカタログスペックやコスト、納期ばかりを重視しがちです。
ですが、現場では「使ってみなければわからない」数ミリ単位の取り付け精度や設置調整力が、想像以上に重要なファクターとなっています。

現場ヒアリングや現物確認、試運転への立ち合いはもちろん、単なる設置工事に終わらせず、「現場がこの設備をどう使い、設置後の微調整でどんなポイントを重視しているのか」を肌感覚で知ることが必要です。

そのためには、調達要件書やRFP(提案依頼書)に「動作微調整への対応」や「段差許容範囲の明示」、さらに「設置後の現物検証の実施可否」などを明文化し、契約の中に明記することが望まれます。

サプライヤーが知るべき「バイヤー心理・現場要求の本質」

逆に、サプライヤー側に求められるのは、「顧客工場の現場環境は一つ一つ違う」「設置した瞬間から実使用環境で細かな現象が起きる」という根本理解です。
多くの納入業者は基準書や設計図通りの納入・組立・調整でOKと判断しがちですが、その後の「現場とのすり合わせ」こそがリピート受注や信頼構築のカギとなります。

例えば「現場で段差を測定する簡易ゲージの提供」「納入後○ヶ月のフォローアップ点検」など、小さな配慮が高い付加価値になるのです。

“数ミリの差”を克服するためのラテラルシンキング

視点を変えた“気づき”が新たな現場価値を生む

現場で数ミリの段差がトラブルの根源と分かったとき、得られる“学び”は「二度と見逃さない精度検証」だけではありません。
今までの工程や仕組みを疑い、ラテラルシンキング(横断的思考)で「なぜこの段差が生まれたのか?」「他の設備でも起きていないか?」「設計と現場実態の情報伝達は正しいか?」と徹底的に掘り下げることが大切です。

例えば、
– 材料や台座の仕入れ元ごとに寸法精度が違っていないか
– 設備据付時の作業手順や検査基準が曖昧でなかったか
– システム的な監視ではカバーしきれない現場観察のスキルを強化できないか
といった再検証に発展します。

これにより、「最初から段差を発生させない」新しい納入基準、「段差を即時発見できる」IoT+現場目視の組み合わせ手法など、新たな地平線が開けます。
現場の一つひとつの微細な違和感や経験が、製造業全体のノウハウ資産に昇華するのです。

まとめ:「ほんの数ミリ」をバカにしない技術者精神こそが未来を変える

工場のライン停止や生産トラブルの火種は、往々にして「ほんの数ミリ」から始まります。
この「微差」を笑う現場風土や、「そこまで見なくていい」という過信こそが、将来の品質不安・安全事故・コスト悪化に直結します。

バイヤーもサプライヤーも、現場技術者も、今一度「数ミリ」を真剣に捉え、設計―調達―据付―運用―改善の全ステージでラテラルシンキングを活かしましょう。

その実践意識が積み重なれば、“昭和の職人気質”の良さと“令和のデータ主義”が融和した、誰もが働きやすい・誇れる製造業現場へと進化できるはずです。

些細な“数ミリの段差”ですら見逃さない、一歩深い現場力こそが、日本製造業を次世代に導いていくと私は信じています。

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