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熱回路網で学ぶ機器熱設計と放熱改善シミュレーション

目次
はじめに:製造現場を支える「熱設計」とは
現代の製造現場では、電子機器や精密機器の信頼性確保がかつてなく重要となっています。
特に「熱」は、設計や運用現場が直面する最大の課題です。
この熱設計の最前線で注目されているのが「熱回路網法」と呼ばれるアプローチと、その効果的な応用に欠かせない放熱シミュレーションです。
私は20年以上、製造現場で調達購買から品質管理、工場長の経験を積んできました。
その経験を元に、熱回路網法の実践的な活用法や最新業界動向、現場で使える放熱改善シミュレーション手法までを、現場目線で解説します。
これから機器設計やバイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーとしてバイヤー視点の思考を深めたい方も、ぜひ参考にしてください。
なぜ今「熱設計」が重要なのか~昭和から続く課題の本質
小型・高性能化に潜む発熱リスク
昭和の時代、製造業の主力製品は「大きい」「余裕ある」設計が普通でした。
しかし、平成・令和と世の中が変わり、機器は小型化と高密度実装が加速。
その結果、わずかなスペースに高発熱部品が集まり、放熱不良によるトラブルが増えました。
特に電子制御部品やIoTデバイスの普及、電気自動車、ロボット化などの流れで「機器の熱」に対する意識は、もはや避けて通れない課題です。
現場に蔓延する「アナログ的発想」と限界
ところが、長年の慣習が根強く残る業界では「こんなもんだ」「勘と経験」で片付いてきた熱問題が、今も継続しています。
未だに設計変更・手戻り・スペック未達・寿命短縮など、熱に関連する見えないコストが現場を苦しめています。
この旧態依然の「アナログ」から脱却し、設計段階から科学的な熱マネジメントの導入が必要なのです。
熱回路網法とは何か?実務で活きる理論
熱の流れを「回路」として読み解く
熱回路網法とは、熱の伝わり方を電気回路に模して考える手法です。
熱源から放熱面までの熱の移動経路を、電圧=温度差・電流=熱流(W)、抵抗=熱抵抗(K/W)と見立ててモデル化します。
例えばヒートシンクを使った電子基板なら、「半導体チップ→パッケージ→基板→ヒートシンク→空気」という具合に、連続した熱抵抗のネットワークとして解析できるのです。
この考え方により、どの経路がボトルネックなのか、どこに改善の余地があるかを明確に把握できるメリットがあります。
現場力を高める「設計手戻り」の防止策
多くの現場では、熱問題が顕在化するタイミングは「製造後」や「試作段階」です。
設計初期から熱回路網手法で予測することで、「試作後の設計見直し」や「思わぬ発熱不具合」といった、大きなコストダウンリスクを未然に防げます。
部品調達や生産ラインへの影響も最小限に抑えられるため、現場管理者・バイヤー双方にとって極めて有効なツールといえるでしょう。
熱回路網分析の基本手順と具体例
ステップ1:温度差・熱流・熱抵抗の関係を押さえる
熱回路網において最も基本となるのが下記の式です。
温度差(ΔT)=熱流(Q) × 熱抵抗(Rth)
例えば、10Wの電力を消費するパワートランジスタ(熱源)があり、その熱抵抗(Rth)が3K/Wとすると・・・
ΔT=10×3=30℃
発熱点から外気まで30℃上昇する、という計算ができます。
ステップ2:ざっくりモデルからスタート
いきなり分解能の高い詳細モデルを作る必要はありません。
まずは
・主要部品単位(例:IC、基板、ヒートシンク、筐体カバーなど)
・各部品間の熱抵抗(材料の厚みや伝導率などから計算)
・最終的な放熱面(空気や冷却水、外壁など)
この3点さえ押さえれば、簡易的な熱ネットワークの全体像がつかめます。
ステップ3:どこを改善すべきかが「見える化」できる
熱回路網の良いところは、熱経路ごとの抵抗値を「見える化」し、実際にどこで詰まっているかが一目瞭然になる点です。
例えば「ヒートシンクは十分大きいが、基板-ヒートシンクの間に熱伝導材料がなく大きな熱抵抗がある」という場合、そのポイントを集中的に改良できます。
現場でありがちな「場当たり的な対策」とは次元の違う、根本改善が可能となります。
放熱改善シミュレーション:最新動向と実践活用
「熱回路網」と「CAE」の融合
従来は、熱設計といえば手計算やExcelや手順書ベースのアナログ手法が中心でした。
近年は、熱回路網法の論理で組んだモデルを、CAE(数値熱流体解析)ソフトと組み合わせてシミュレーションに活用するのが当たり前になりつつあります。
例えば、ANSYS、SolidWorks Flow Simulation、FloTHERMなどのツールが有名です。
熱回路網のモデルをベースに、設計変更が現場へ与えるインパクトを「見える化」できるため、設計部だけでなく調達、品質管理、工場ライン、バイヤーまで意思決定の精度が劇的に向上します。
熱設計シミュレーションと現場コミュニケーションの新時代
最新の動向としては、経営層や調達担当、サプライヤーも含め、クラウドCAEやWebベースで手軽にシミュレーション結果を共有できる仕組みがあります。
現場の「設計者・生産技術・調達・サプライヤー」の全員が、同じ熱経路モデルとシミュレーション結果を見れることは、意思統一や納期短縮、コスト削減という面で劇的な効果を生みます。
こうした横断的な情報共有は、今後の製造業に欠かせない要素です。
バイヤーやサプライヤー視点で考える「熱設計力」の価値
「見積もり力」と「交渉力」の裏付けに
バイヤーが資材・部品のコスト見積もりや納期判断を行うとき、熱設計の知見は大きな強みです。
「熱回路網モデル」でシビアにホットスポット(発熱点)を特定し、リスクがある部位や必要となるオプション(ヒートシンク追加・筐体設計改善など)を把握することで、サプライヤー評価やコスト交渉に説得力のある根拠が作れます。
また、サプライヤー側も自社の設計力や放熱対策提案を数字で説明できれば、単なるコスト競争を超えた「付加価値提案」が実現するのです。
真のパートナーシップ構築へ
バイヤーとサプライヤーが「熱設計の可視化」という共通言語を持つことで、単なる発注・受注関係にとどまらず、高いレベルで開発やQCD改善、トラブル未然回避を議論できるようになります。
現場で役立つ知識やノウハウをを提供し合うことで、より強いパートナーシップ形成が望めるでしょう。
熱設計の現場導入で重要なポイント
アナログからデジタルへの移行の壁
現場経験として、最も苦労するのが「アナログ的な現場勘」から「論理的・数値的な設計」への転換です。
この意識改革の成功には、経営層のリーダーシップ、設計部門以外も巻き込んだ全社的な取り組みが必要です。
手計算→簡易シミュレータ→CAEと段階的なステップアップを図りましょう。
資格やスキルアップの進め方
熱設計の基礎理論、回路網法の基礎は「熱工学」のテキストや講習会で学べます。
社内教育やeラーニングも充実してきており、専門資格取得(例:熱管理士、CAEエンジニアなど)を通じてスキルアップするのも効果的です。
こうした積み重ねが、会社としての「熱設計力」強化につながります。
まとめ:製造現場のパラダイムシフト~業界を変える熱設計×シミュレーション
昭和的な「勘・経験」に頼り切った現場から、一歩先をいく「科学的な熱設計・シミュレーション活用」へ。
これからの製造業が生き残るためには、設計部門だけでなくサプライチェーン全体が熱回路網法や熱シミュレーションを「共通言語」として活用し、全体最適を目指すことが重要です。
バイヤー、調達担当、サプライヤーそれぞれの立場で熱設計力の価値を見つめ直し、現場主導の新たな成長を目指しましょう。
現場で培った知識や経験を活かし、ぜひ皆さんも「熱設計と放熱改善シミュレーション」に挑戦してみてください。
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