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熱対策を構造で解決し高価な放熱材を減らすサーマル設計

目次
はじめに:なぜ今、サーマル設計が注目されるのか
近年、製造業における熱対策、いわゆるサーマル設計の重要性がかつてないほど高まっています。
その背景には、電子部品の高集積化や省スペース化、また脱炭素を意識した省エネ化の流れなどがあり、従来型の熱対策では不十分なケースが増えてきました。
特に高価な放熱材を大量に使えば解決していたような昭和的なアプローチは、コストや重量、持続可能性の観点から見直しが求められています。
このような現代の課題を受け、設計段階から「構造」で熱問題をマネジメントする考え方が広がっています。
バイヤーや設計者、またはサプライヤーが知っておくべき現場のノウハウを交え、この記事でご紹介します。
サーマル設計の基礎:放熱の3つのメカニズム
伝導、対流、放射とは何か
サーマル設計を理解するうえで基本となるのが「熱移動の3要素」、すなわち「伝導」「対流」「放射」です。
熱伝導は物質の内部で熱が直接伝わる現象で、金属部品などを通じて効率よく冷却できます。
対流は空気や液体の流れによって熱が運ばれる仕組みです。
放射は、赤外線としてエネルギーが表面から放出される過程を指します。
現場では、この3つを的確に使い分けて熱の流れをデザインすることが求められています。
従来の熱対策とその限界
これまでの製造現場では、ヒートシンクや熱伝導シート、サーマルグリスなど物理的な放熱材を使うのが定石でした。
しかし、部品の小型化や高発熱化に伴い、放熱材のコストやスペースがボトルネックになることもしばしばです。
特に、自動車エレクトロニクスや通信機器など「小さな箱=発熱モンスター」になりがちな現場では、素材コストの跳ね上がりは企業体力に直結します。
構造設計による熱対策のメリット
構造最適化の発想
高価な放熱材に頼るのではなく、「構造そのものを熱対策の武器にする」――これが近年進むサーマル設計の本質です。
設計初期段階から「どこを、どう組み合わせれば熱がスムーズに逃げていくか」を「ラテラルシンキング(横断的発想)」で考える姿勢がカギとなります。
設計事例:熱経路の可視化と最短化
例えば、電子基板のレイアウトを再検討し、高発熱部品を基板の外周近くや大型金属フレームの裏に配置するだけで、長い熱経路をカットできます。
また、筐体内部の空気流路を設計レベルで確保すれば、ファンの追加も不要になる場面も。
筆者が工場長として経験したケースでは、筐体の溶接ラインを工夫し、最短経路で基板から外装に熱を伝えて自然放熱させる設計で部品コスト約20%減を達成したこともあります。
実践的に使える構造サーマル設計のポイント
1.部品配置とレイアウトの見直し
熱源となる部品は、たとえばパワートランジスタやCPUなどです。
これらを基板の中心から外周へ、さらには直接外装部材につながる位置に移すことで、熱の逃げ道を最短化します。
この際、EMC等の電気的な要件や製造工程も同時に考慮する必要があります。
2.ヒートパス(熱の通り道)の最適化
金属シャーシや外板、ブラケットなどの既存部材を「伝熱路」として活用する手法があります。
例えばアルミ筐体を一部基板にダイレクトタッチさせることで大面積での放熱ができます。
また、既存のビスやスタッドの材質を「絶縁品から金属材に変える」だけで、驚くほど熱の拡散が良くなる場合もあります。
3.自然対流と強制対流のバランス設計
強力なファンやブロワーによる強制対流に頼ると、消費電力や騒音、故障リスクが上がります。
一方、構造を工夫して風の流れ道「チムニー構造」を作るだけで、自然対流でも十分に放熱できる環境を実現できます。
お客様からのクレームを減らし、メンテナンスフリーの製品を作るには、こうした地味な改善が最も効きます。
熱設計におけるコストダウン思考とバイヤーの視点
高性能放熱材の“隠れコスト”
グラファイトシートや高熱伝導ガスケットなど高価な放熱材は、そのコストが目を引きますが、それ以上に「手作業による貼付け」「材料ロス」「歩留り低下」といった隠れコストがあります。
こうした間接コストは現場にしか見えない領域であり、むやみに高級材料を入れる「昭和的バイヤー」では現代は通用しなくなっています。
サプライヤー視点で知っておくべきバイヤーのツボ
現代のバイヤーが重視するのは「トータルコスト」であり、材料そのものの値段だけでなく、調達リードタイム、実装容易性、廃棄時の環境負荷まで視野に入れています。
サプライヤーとしては、単に安い放熱材を提案するだけでなく、「構造提案込み」で問題解決の糸口を示すことで付加価値を生み出せます。
設計変更による重量低減は物流コスト削減やCO2排出削減にも連動し、トータルコストダウンにつながります。
バイヤーが求める現場発の提案力
バイヤーにとって理想的なのは「サプライヤーからの構造改善案によるコストと性能の両立案」です。
筆者も工場でサプライヤーからの「今ある外装をヒートパスに活かしましょう」という発想から、量産コストダウンと信頼性向上を同時に実現した成功体験があります。
現場の課題を共有しつつ、現場ベースの改善案を出し合える信頼関係が重要です。
サーマル設計に未来をひらくラテラルシンキング
異業種の知恵も積極的に活かす
例えば、住宅業界の「断熱・通気」技法や、航空宇宙分野の「軽量・高放熱材料の構造体利用」など、他業界からの技術応用も積極的に検討する姿勢が新たな地平を開きます。
ベンチマーキングや共創プロジェクトが、新しいサーマル設計のアイデアを生み出します。
IT技術との掛け合わせとシミュレーション活用
昨今は、熱解析CAEソフトの進化によって設計初期から詳細なシミュレーションが可能です。
こうしたツールの活用はコスト削減だけでなく、イノベーションの種にもなります。
特に、設計・調達・製造がワンチームとなって協働するデジタル開発体制“デジタルツイン”の導入が加速し、構造設計による熱対策の新常識になりつつあります。
まとめ:令和の熱設計は「構造」で勝負せよ
高価な放熱材を闇雲に投入する時代は終わりました。
構造的な工夫で根本から熱対策を設計し、「つくりやすさ」「コスト」「環境負荷」「信頼性」をバランスさせることが不可欠です。
バイヤー・サプライヤー・設計者それぞれの立場で構造サーマル設計にチャレンジすることで、日本の製造業はさらに進化できます。
現場目線・ラテラルシンキングによる熱設計改善の知恵が、これからの製造業の価値創造のカギとなるでしょう。
これを機に、あなたの工場でも「構造で熱を逃がす」新発想をぜひ取り入れてください。
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