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電動車の将来を支える熱とエネルギーのマネジメントと電駆動の技術

目次
はじめに:製造業が直面する変革と電動車の重要性
日本の製造業、特に自動車業界は、かつてないスピードで変革の波に飲み込まれています。
昭和の高度成長期に培われた「現場主義」と「緻密なものづくり」は、依然として強みでありながら、電動車へのシフトにともない、従来のフレームワークでは対応しきれない課題も噴出してきました。
世界中で進むカーボンニュートラルへの対応、その中核となる電動車両の普及は、単なるエンジン車との置き換えではなく、熱とエネルギーマネジメント、そして電駆動技術という新しい柱を如何に構築し、競争力を発揮するかが問われています。
この記事では、業界内部で20年以上の経験を持つ筆者の視点から、調達・生産・品質・工場オペレーションのリアルな現場感覚をベースに、電動車時代を勝ち抜くための熱とエネルギーマネジメント、そして電駆動技術について網羅的かつ実践的に解説します。
熱とエネルギーマネジメント:EVの根幹を支える技術とは
なぜ「熱」の制御が今、焦点になっているのか
従来のエンジン車では、発生した熱を冷却しながら効率よくエンジンを機能させることが重要でした。
しかし、電動車ではバッテリー、パワー半導体、モーターなど、多岐にわたる部品で「熱」が厄介な問題となります。
特にリチウムイオンバッテリーは、温度上昇が性能低下や発火リスクにつながります。
例えば真夏の渋滞では、外気温40℃、車内は50℃以上にもなりうる状況。
この中でバッテリーが高温になれば、走行距離の短縮や最悪の場合車両火災にも直結します。
エアコンの使いすぎは航続距離の減少へ直結し、熱の制御は「走れる距離」と文字通りの「安全」を両立する極めて重要なテーマなのです。
熱マネジメントで主要となる技術要素
最先端ではバッテリー冷却のためにヒートポンプ式の空調システムや、冷却水を循環させる熱交換回路、さらには各セルごとにサーマルマネジメントを行う精密な制御技術が導入されています。
これらの技術は同時に、加熱(冬季の暖房)にも活用されており、エネルギーの循環利用という観点からも細やかな設計が求められます。
調達部門はこれら新技術部品の信頼性やコストを徹底的に評価、生産管理では多様かつ小ロット化する熱マネ部品への柔軟な生産体制を準備、品質管理は熱暴走やリークセンサー設定にまで配慮するという全方位アプローチが欠かせません。
バッテリーパックと熱:新たな調達・生産・保守戦略
電動車のバッテリーパックは、高電圧・高容量化が著しく進んできました。
モジュール化されたセルの配置と、熱伝導性・断熱材の材料技術、安全回路の設計など、従来にはなかった新たな調達・技術選定の基準が生まれています。
例えば、海外サプライヤーを巻き込んで熱伝導シートや熱交換機器、精密冷却パイプの共同開発を進めている現場も珍しくありません。
ここには現場主導でトライアンドエラーを積み重ね、「現物で確かめる」昭和的な文化の良さも、まだまだ生きているのです。
また、バッテリーパックのアフターサービスやリセール市場に備え、分解・再組み立ての効率性が設計段階から考慮されるようになり、品質部門はバッテリー経年劣化の診断プロセスや安全情報の管理体制まで役割が広がっています。
電駆動の最先端:モーター・インバーター・ギアユニットの進化
効率の追求:最重要課題は「トータル効率」
エンジンからモーターへ。
その変化は単なる動力源の置き換えではありません。
実際には「モーター+インバーター+ギア」の“電駆動ユニット”として、そのトータル効率をいかに上げるかが、EV普及の分水嶺といえます。
現場では、「三味線」のように響き合う各部品の性能バランスが肝心です。
高トルク高回転モーターは冷却とのバランス設計が必要で、インバータとギアも一体設計を求められる時代に突入。
組立性、検査精度、実走評価など、全フェーズで新しいノウハウ構築が必要です。
注目の最新技術:SiCパワー半導体とギア一体モジュール
近年注目されているのが、SiC(シリコンカーバイド)系の新世代パワー半導体の採用です。
これにより損失低減が図れ、インバータ自体もコンパクトで高効率化が進みます。
同時に、ギアやモーター、インバータをワンパッケージに収める“e-アクスル”化が一気に現実味を帯びてきました。
設計変更や部品点数削減による省人化は、調達や生産現場に大きなインパクトを与えます。
現場目線では、熟練工の現物合わせ力とデジタルツールの併用で試作~量産トライの最短化と品質安定に成功している事例も増えています。
品質競争力と新たな調達の論理
インバータやモーター部品の調達においては、「従来からの信頼関係」よりも「新技術対応」「サプライチェーンの多元化」が最優先される傾向が強まっています。
スペック重視だけでなく、難燃性やリサイクル性など持続可能性も生産・品質管理で注目されています。
一方、あえて地場企業の加工技術力を活用し、高付加価値品を小ロット対応する事例もあり、古き良き下町企業の生存戦略も見逃せません。
業界の課題:現場目線で見るアナログ業界の突破口
「昭和的現場力」と「デジタル化」のせめぎ合い
製造業の現場では、IoTやAI、スマートファクトリーの進展が叫ばれつつも、タクトタイムや目視検査、帳票類など、いまだアナログな手法が強く残っています。
ですが、これまで培った現場での「気づき」や「暗黙知」は、デジタルツールだけでは代替できず、日本的モノづくりの本質的な強みでもあります。
今後は「データ活用による判断精度向上」と「現場作業者の直観的な判断」が共存できるプロセス構築が欠かせません。
予兆保全や品質トレンド分析など、現場×デジタルのシームレスな融合が進めば、グローバル競争でも一歩先を行くことができるはずです。
バイヤーとサプライヤーの新しい関係性
バイヤー(購買担当)は、従来の価格交渉主体から、パートナー型の技術共創へと役割が大きく変化しています。
サプライヤーにとっては、単なる“御用聞き”ではなく、技術課題や品質課題を共に解決するコンサルティング型の関係性が強く求められているのです。
情報開示と守秘義務のバランス、サステナブル調達、複数サプライヤーモデルの構築も課題となり、バイヤー・サプライヤー双方に高度な実務スキルと信頼関係が必要です。
今後に向けての現場力・調達・品質管理のパラダイムシフト
電動車の普及は、熱とエネルギーマネジメント、電駆動技術が本質的な競争領域となりつつあります。
現場主導の微差改良とデジタル主導の再現性追求、両者の最適なバランスを探り続けることが、製造業にとっての新たな戦い方です。
調達・生産・品質の各職能のラインが曖昧になり、チーム横断で課題解決する力が問われます。
特にバイヤーを目指す方やサプライヤーは、現場でのリアルな課題を理解した上で、技術者・生産者と一体となれる「現場共創型人材」への進化が求められています。
まとめ:変革期の製造業における「現場発イノベーション」の未来
日本の製造現場には、時代が変わっても失われない「現物主義」と「蓄積された改善文化」という宝があります。
これを大切にしつつ、デジタル×現場、新技術×昭和的ノウハウのハイブリッド型による現場発イノベーションを推進していきましょう。
熱とエネルギーマネジメント、電駆動の最先端技術、それを支えるバイヤーとサプライヤーの新発想と連携——。
ここに日本製造業の新しい勝ち筋は必ずあると、私は現場から確信しています。
製造業に従事する皆様、未来を切り拓く変革の最前線を、ぜひ一緒に歩んでいきましょう。