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ガラス皿の印刷で焼成中の割れを防ぐための熱膨張制御

目次
ガラス皿の印刷で焼成中の割れを防ぐための熱膨張制御
ガラス皿の印刷は、見た目の美しさと実用性を両立させる製造工程です。
しかし、この工程において最も避けなければならないトラブルが「焼成中の割れ」になります。
長年、製造業の現場で調達購買や生産管理、品質管理を担ってきた私の経験から、どうすれば焼成時の割れを防げるのか、そしてこの分野で今なお根強く残るアナログ的な課題にどのように向き合えばよいのかを、現場目線で詳しく解説します。
焼成中の割れはなぜ起こるのか?—製造現場のリアル
熱膨張の基本を押さえる
ガラス皿に印刷を行う場合、絵付けやロゴマークなどを焼き付けるため、ガラス皿を高温で焼成します。
この焼成過程で問題となるのが「熱膨張係数」の違いです。
ガラスも印刷インク(特殊なセラミックやガラス粉末インクなど)も、それぞれ独自の熱膨張係数を持っています。
温度が上がると素材は膨張し、冷却時には収縮します。
ガラス本体とインクの膨張・収縮に違いがあると、それぞれの伸び縮みが不均衡になり、強い引張応力や圧縮応力が発生します。
これが割れの直接的な原因です。
昭和的「経験則」からの脱却とデータ重視のアプローチ
かつての現場では「コツ」と「職人の勘」による温度管理や焼成時間の調整に頼る場面も多くありました。
しかし、製造業、とりわけガラス産業はここ数十年、データドリブンなアプローチが求められるようになっています。
割れを防止するためには、素材ごとの膨張データを揃え、管理することが必要です。
地道な工程ですが、この「面倒臭さ」を厭わないことが大切です。
定量的な測定・管理により、現場の品質と歩留まりは劇的に向上します。
熱膨張係数の適合を最優先に—材料選定の実践法
バイヤー視点でみる材料選びのポイント
調達購買部門やサプライヤーとしての立場から見ると、「ガラス本体」と「印刷インク」の熱膨張係数がなるべく近いものを選ぶことが重要なカギになります。
単にコストや在庫量だけで材料を選定するのではなく、「なぜその材料が使われているのか」という製品設計者や技術担当者の意図を把握することも欠かせません。
コストダウンの打診があったとき、その材料の物性データや過去のクレーム・不具合履歴を振り返り、リスクを丁寧に整理して根拠に基づいた提案を行うバイヤーの姿勢が、現場から強く求められています。
サプライヤーとしてバイヤーの視点を知ることで品質提案力が高まる
一方で、サプライヤーにとってもバイヤー側の「熱膨張データ重視」の要望を理解し、選定材料の熱膨張係数や物性データを自社でしっかり管理し説明できることが重要になります。
信頼できるパートナーとして、データに基づく「割れ防止のための新規材料提案」や、問題発生時の迅速な原因分析・改善策の提示が、長い取引関係を築くポイントです。
焼成プロセスの現場改善—具体的な熱膨張制御技術
現場でできる主な対策
割れを防ぐためには材料選定だけでなく、焼成プロセスそのものにも多くの工夫が求められます。
以下、現場で実践されている主な対策についてご紹介します。
・徐冷帯(アニーリングゾーン)の設計
ガラス皿の焼成炉には必ず「徐冷帯」という温度勾配を緩やかに制御するゾーンがあります。
焼成終了後、一気に冷却してしまうと、急激な体積変化で割れが発生しやすくなります。
ゆっくり温度を下げる設計と、その日の天候や炉の負荷状況に応じた微調整が不可欠です。
・印刷厚みとインクレイアウトの最適化
ベタ塗りや厚塗りは膨張不均一のリスクが高まります。
設計段階で印刷厚みを極力薄く均一化したり、割れやすい形状への過剰な印刷を避ける意識が大切です。
・前処理(脱脂・プリヒート)の徹底
ガラス表面に水分や油分、ホコリがあると局所的な膨張差異が生じやすくなります。
印刷前に必ず脱脂・クリーニングを行い、必要に応じてプリヒート(予熱)をセットで区切り、温度ムラを低減させます。
・温度管理の徹底(AI・IoTの活用例)
最新の工場では、炉内温度をセンサーでリアルタイムに計測し、AIで膨張率のズレを監視/警報する仕組みも導入されています。
アナログ管理一辺倒だった昭和世代の現場も、今ではIoTやデジタル機器を導入し「攻めの品質管理」に変わりつつあります。
焼成テスト―リスクを最小化する方法
新規材料を試す場合や、初めてのインクを使う場合は、「小ロットでテスト焼成→歩留まり検証→データ取得→本生産」というPDCAサイクルを徹底しましょう。
事前テストを経ることで割れリスクを大幅に下げることができますし、「不確実なものをいきなり本番で使う」という昭和的なリスクテイクも回避できます。
割れ対策に活きる現場の失敗&成功事例
不具合事例1:「外国産インク入れ替え」で割れ多発
日本製から安価な外国製のインクへ切替を強行した際、割れ率が激増したという事例があります。
原因は、輸入インクがガラス皿の膨張係数と大きく異なっていたためです。
価格の安さだけを追求した調達は、結果として不良率増加、納期遅延、ブランド毀損という大きな損失を招きます。
成功事例1:「設計・開発・調達の三位一体」アプローチで歩留まり向上
設計段階でガラスとインク双方の熱膨張データを取得することに加え、調達部門がサプライヤーと協力して物性データを細かく管理。
さらに現場でこまめな焼成条件の調整試験を行った事例では、焼成割れ率を従来比40%削減しました。
分断されたコミュニケーションではなく、横断的チームワークが実を結んだ代表例です。
時代遅れのアナログ業界を「逆手」に取るラテラルシンキング
製造業、特にガラス食器や印刷、小規模な町工場では、今なお「これは昔からこうやっていたから」という昭和的なアナログ文化が残っています。
しかし、こうした文化には「生きた知恵」「現場の暗黙知」という、他にはない財産が眠っていると言えます。
これを逆手に取り、現場のベテランの勘とデータサイエンスを融合させたり、温故知新の視点で小さな気付きから大きな改善活動を生み出すことが、製造業の未来につながるのです。
結論:データと現場知見の融合が割れを防ぐ鍵
ガラス皿への印刷焼成における割れ問題は、単純な熱制御の問題ではなく「材料選定」「プロセス設計」「現場管理」が複雑に絡み合う難題です。
昭和的な現場力と、最新のデータ活用や異分野知見を有機的に結びつけることで、はじめて「割れゼロ」に近づく真の品質保証が実現できるのです。
現場・設計・調達・サプライヤー、それぞれの立場が「相手の目線」と知識を知ること。
そして、面倒なデータ管理も「現場で困る前に」やっておく。
この積み上げこそが、ガラス皿の焼成割れを防ぎ、強い現場と持続的な信頼を築き上げていきます。
どの業界も変革期にあります。
誰もが互いの知恵とデータを武器に、新しい製造現場のあり方を拓いていきましょう。
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