投稿日:2025年7月8日

伝熱基礎と放熱設計事例で学ぶ熱対策の最適アプローチ

はじめに:製造業に欠かせない“熱問題”への気づき

製造業の現場では、さまざまな課題がありますが、実は「熱」が製品の信頼性や生産効率に及ぼす影響は非常に大きいものです。

私自身20年以上、調達購買や生産管理、品質管理、そして工場長として現場に携わってきました。

現場指向のベテランであっても「熱対策」を完全に理解したうえで工程設計や設備選定をしている方は、決して多くありません。

昭和から続くアナログ的な経験則も根強く残ります。

ですが、近年のハイパワー化や小型化、AI・IoT導入が進むなか、これまでの常識にとらわれると痛い目を見る場面が増えています。

この記事では、伝熱の基礎理論から、現場目線の放熱設計事例、さらには調達やバイヤーの視点まで掘り下げ、熱対策の最適アプローチを徹底解説します。

伝熱の基本:押さえておきたい3つのメカニズム

製造現場で熱問題に取り組むためには、まず伝熱の基礎を押さえることが重要です。

伝熱には「伝導」「対流」「放射」という3つのメカニズムがあります。

熱伝導:固体や接触部分を介して伝わる熱

熱伝導は、分子や原子の振動エネルギーが物体内部、または物体同士の接触面を介して伝わります。

たとえば、金属部品同士が密着している場合、接触抵抗が大きいと熱伝導効率は著しく下がります。

伝導を意識した設計や材料選定は、電装品・精密部品の温度管理に不可欠です。

最近では熱伝導シートやグリスなどサーマルインターフェースマテリアル(TIM)による改善事例も多くみられます。

熱対流:流体を介した熱移動の課題と工夫

熱対流は、気体や液体など移動できる流体を介して熱が運ばれる現象です。

例えば制御盤や筐体内部の空気循環は、熱対流による冷却効率が左右します。

自然対流(ファンレス)と強制対流(ファン・ブロワ等使用)では設計ポイントが異なります。

昭和的な現場感覚では「とりあえずファンを追加」で済ましがちですが、エネルギー効率や騒音・メンテ負荷にも意識を向ける必要があります。

熱放射:意外と見落としがちな設計の盲点

熱放射は赤外線などの電磁波による熱移動で、真空中でも伝わる特性を持ちます。

遠赤外線加熱炉や恒温槽などで特に重要視される一方、一般的な機械装置や電子部品の設計でも意外と影響度が大きいです。

塗装や表面処理の選択で放射率が変わるため、部品調達時の仕様確認も怠れません。

放熱設計の現場的アプローチとよくある落とし穴

続いて、実際の放熱設計で押さえるべきポイントと、現場でありがちな失敗の事例を紹介します。

ヒートシンク・放熱板選定の基本

放熱の要となるヒートシンクや放熱板の選定は、まず発熱量の見積もりから始めます。

しかし多くの現場では「この仕様なら念のため大きめのヒートシンクを付けておこう」といった“保守的”な判断も多く見受けられます。

これは、コスト増や装置の大型化につながりかねません。

ポイントは、発熱源から空気までの熱抵抗値(熱経路)の定量的な把握と、余裕設計のバランスです。

ロット差や設置環境の違いも考慮に入れたうえで、必要最小限で最大効果を発揮する設計が理想です。

ファンや冷却機器の選定とメンテナンス性

強制冷却が必要な際はファンやブロワの選定が重要です。

単純な風量だけでなく、騒音、消費電力、設置性、メンテナンス性などを総合的に評価しましょう。

例えば、フィルター交換が困難な位置にファンを設置してしまい、現場でのトラブル原因となる例は後を絶ちません。

可動部品には必ず交換・点検サイクルが発生することを想定し、現場作業員の動線も最初から設計に取り込む視点が求められます。

熱源の分散や筐体レイアウト改善の余地

高発熱部品をできるだけ筐体端部や側面に配置することで、局所的な温度上昇を抑制できます。

また、通風経路や熱だまりを生まない配置にも要注意です。

特に電子機器や電装盤では、配線レイアウトと熱経路が干渉しやすいため、初期段階から電気設計と機構設計の連携が欠かせません。

実践事例集:現場で役立つ熱対策の成功パターン

ここでは、実際に私が関わった製造現場やサプライヤー調達で経験した、熱対策の具体的な成功事例を紹介します。

事例1:制御盤の温度トラブルをヒートシンク設計で即解決

とある自動機の制御盤で、夏場に頻発する温度異常停止問題がありました。

既存は十分な風量のファンを搭載していましたが、インバーター用ヒートシンクが小さすぎて熱がこもっていました。

サーモグラフィで局所的な温度上昇を確認し、発熱部のヒートシンクを部品仕様2ランク上へ強化。

さらに伝導経路のグリス塗布・圧着強化を実施。

その結果、盤内温度が常時5度以上下がり、夏季のトラブルはゼロへ。

初期投資は数千円増でしたが、停止損失との比較で圧倒的な費用対効果に成功しました。

事例2:LED照明基板の長寿命化を放熱設計で達成

LED照明は発熱による光度低下と寿命短縮が悩みの種です。

従来は導電性ペーストで基板と筐体を接触させていましたが、TIMシートへの切り替えと配置最適化で熱伝導性が飛躍的に向上。

さらに、筐体外装の放射塗装とアルミ板厚増で放熱性能もアップ。

LED素子温度を15%低減でき、製品寿命保証値も従来比120%へ改善しました。

事例3:調達段階での“放熱仕様”管理の重要性

ある電子機器の調達先サプライヤーで、指定したアルミダイキャスト筐体の納入品が、表面粗さ・塗装工程にバラツキ。

新旧ロットで放熱量が異なり、不良リスクを抱えてしまいました。

放射率・伝熱特性の仕様値を明文化し、グレード判定基準を設けて新たな供給体制を構築。

バイヤーや品質部門が調達初期から関与することで、熱対策仕様の安定調達につなげました。

バイヤー&サプライヤー目線で考える「熱対策」

今や熱対策は、設計部門や現場だけの課題ではありません。

調達・バイヤー・サプライヤー各社が一体となった取り組みが、全体最適には欠かせないのです。

バイヤーに求められる「目利き力」

バイヤーがただ価格交渉だけしていた時代は終わりました。

熱対策においては、仕様書や図面に現れない「表面処理の違い」や「熱伝導材料スペック」などを本質的に理解し、仕入れ先と率直な技術議論を行う力が必須です。

また、熱対策にコストインパクトがどこまで許容されるかの経営的判断も求められます。

サプライヤーが知るべき、バイヤーの視点

サプライヤー側は、単に顧客指定の材料や工法を守るだけでなく、「この部品で本当に放熱設計上の最適解なのか?」という提案力が価値となります。

大手メーカーでは、コストだけでなく品質・生産効率・保守容易性まで含めてベストソリューションを探す潮流が加速しています。

熱問題の対策提案は営業・技術・品証の三位一体で取り組むことで、信頼関係が強まります。

昭和から令和へ:アナログ現場思考を今こそ進化させる

日本の製造業は、未だに「経験と勘」と「過去の成功体験」に頼る現場文化が根強く残っています。

私も現場たたき上げですが、熱問題に関しては、とくに現代の高速化・高密度化トレンドを鑑みても、“昔取った杵柄”だけで通用しない実感があります。

デジタル解析手法(シミュレーション)の活用や、詳細な測定データ(サーモグラフィ、ロガー)の現場投入、部材調達時のサプライチェーン全体最適化――。

これらを生かした柔軟なラテラルシンキング(水平思考)が、新しい製造現場の常識になるべきです。

まとめ:現場×理論×調達で実現する最適な熱対策へ

熱対策は、設計と現場の双方で、伝熱理論を“意識的”に応用することがポイントです。

一方でバイヤー・サプライヤー間の技術連携と、アナログ的職人気質の強みも生かしながら、科学的根拠に基づいたアプローチを積み重ねましょう。

たとえば、新規導入部品の放熱試験や、納品前のヒートラン解析など、サプライヤー選定基準も進化させることが製造現場全体のレベルアップに直結します。

これからの製造業は、現場発信のラテラルシンキングで、熱問題の最適ソリューションを自ら探し、より安全・高品質なものづくりを目指しましょう。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

引き続き、製造現場の進化に役立つ知恵や実践事例を発信していきますので、どうぞご期待ください。

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